《【書籍二巻6月10日発売‼】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです【Web版】》第40話 ギルドホーム

ギルドホーム優先引換券が使える金曜日の16時。例によって殘業が濃厚となった。

會社の休憩スペース。壁に寄りかかった哀川圭はコーヒー片手に、スマートフォンにて通話をしていた。

『ええ……それじゃあ今日は遅くなるかもしれないんですか!?』

「そうなのよ。20時には終わると思うんだけど……確実とは言えないから。予定通り、ゼッカちゃん達で決めちゃっていいわよ」

後輩がやらかし殘業になることを想定していた圭は、あらかじめ引換券をゼッカに渡していた。もし自分が間に合わなければ、みんなで適當なギルドホームを決めてしいと。

圭の見込みでは20時には全てが片付くのだが、後輩(おバカ)が仕事を増やさないとも限らない。最悪日をぐまで帰れないという事態もあり得る。

『わかりました……でも、やっぱり會えないと寂しいです』

「そうね……頑張ってみるわ」

『それで、ギルドホームのデザインなんですけど、お城があるんで、これがいいと思うんです』

「お城……5人じゃ広すぎないかしら?」

『そんなことはありません。それに、どうやらこの城が一番高価みたいですし、ここがいいですよ絶対』

「お城かぁ……」

ヨハンはお城でくつろぐ自分を想像する。シンデレラ城のような白亜の城。綺麗な花に囲まれた庭を眺めながら、蝶の舞うテラスでお茶をしたりして……。その橫ではヒナドラやイヌコロ、クロノドラゴンがくつろいでいるのだ。

(幸せ……。ちょっといいかもしれないわね……日々の疲れが癒やされそうだわ)

「じゃあ、そのお城をお願いするわ」

『了解しました! それじゃ、私はこれから速攻で帰宅してログインしますんで!』

「ああ、まだ學校だったのね。気をつけて帰ってね」

『もちろんです。ヨハンさんも、無理せず頑張ってください!』

「びええええええん哀川ざああああん。どこでずかああああ? 私を救ってくださいいい」

その時、救いを求めて泣き喚き彷徨う後輩の聲が聞こえた。

「……」

『な、何事ですか? 凄い泣き聲が聞こえてくるんですが!?』

後輩の泣き聲は電話の向こうのゼッカにも屆いているらしく、酷く狼狽している。無理もない。

「あー……。これはの鳴き聲とでも思っておいて」

!? 明らかに人の泣き聲ですよ!? ヨハンさん一どんな職場で仕事を!?』

「びえええええええ哀川さああああああんん」

「いけないわ。そろそろ切るわねゼッカちゃん。が帰らないように捕まえておかないと」

『捕まえる!? 一そちらではなにが……』

電話が切れる。ゼッカと話して元気を貰った圭はカップをゴミ箱に捨てると、自分を探して彷徨っている後輩の元へと向かった。

***

***

***

殘業を終えたヨハンは軽く食事を済ませると、GOOにログインする。ログインすると同時にゼッカからメッセージが屆く。そのメッセージには、無事購が完了したギルドホームの場所が記されていた。

第三層にはダンジョンは一切無い。その代わり、大小20のギルドホームが點在している。城や塔。巨大な木をくりぬいたようなもの。湖の中央に浮かぶものなど様々だ。明日から大規模ギルドが、この20のギルドホームから自分達のギルドの雰囲気と規模に合ったものを購し始める。ちなみに人數の小規模ギルドでも、アスカシティの小さいギルドホームを購出來るので問題ない。

だが、その中でも一番大きな城を購したのは、たった5人の新米ギルド【竜の雛】である。

その竜の雛のギルドマスターは、メンバーに遅れて、ようやくギルドホームへとやってきた。

空は分厚い雲に覆われていて、常に雷鳴が鳴り響いている。大地は荒れ果て、草一本生えていない。無骨な造りの城は確かに立派だが、どこか威圧がある。そして稲に時折照らされる城のは……黒。

これはゲームに疎いヨハンでもわかる。

「私が思ってたのと違う。これ……悪の魔王とかが住んでる城じゃない……」

急いで中にり、ゼッカ達を見つける。

ヨハン以外のメンバーが揃うそこには、急ごしらえな長テーブルと、お菓子やジュースが並べられていた。

「お、來はった來はった。待っとたで」

「……お疲れ様、お姉ちゃん」

「ヨハンさん! 実験生は捕獲できたんですか?」

「先に始めてるわよヨハンちゃん」

他のメンバー達はヨハンが來るのを待ちながら、盛り上がっていたようだ。

「ちょ……ギルドホームって、ここになるの!? これ、悪い人が使うデザインよ!? ワタシは白い普通のお城の方が……」

「え、確かに白い城もありましたけど……ヨハンさんの鎧のデザインと合うのはこっちかと」

「魔王はんにはピッタリやん?」

「ワタシもそう思うわ☆」

「そ、そんな……」

がくりと膝から崩れ落ちるヨハン。想像していた城との違いにショックをけている。そんなヨハンにすり寄るのはコン。

「実はね魔王はん。ギルドホームには新機能があるんよ」

「新機能?」

「そうや」

コンの言う新機能。それは、ギルドホームには召喚獣を自由に配置出來るというである。ギルドホーム中央部にある臺座に召喚石をセットするだけで、ギルドホームを召喚獣がき回る。ペット扱いにしたり、護衛に見立てたり、雰囲気にあった召喚獣を揃えたり。

活用方法は様々だ。

「それでや。この魔王城……確かに魔王はんの言うとおり、暗いし鬱や。魔王はんの理想とは違いはるんかもしれん。でもな? 500や」

「ご……ひゃ……く?」

「そうや。白いお城が同時に出せる召喚獣は100までや。けどな、こっちは500。それでも魔王はんは白いお城がええの?」

「白いお城とかどうでもいいわね」

ヨハンはもう白い城の事を忘れた。

「ヨハンさん……仕事で疲れて……うう」

「ヨハンちゃん、わかりやすいわね☆」

「……お姉ちゃん」

コンに案された城の中央、王座の間は、まるでRPGのラスボスがいるような場所だった。

その王座の後ろに、500個分の召喚石をセットするためのスロットが置かれている。

ここに召喚石をセットすることで、召喚師スキルに関係なく召喚獣が実化し、このギルドホームで一緒に暮らせる様になるというわけだ。

コンと共に集めた大量の召喚石は、まだ銀行に預けたままだ。それは後にギルドの金庫に預ける事になるだろう。

だからヨハンは、手持ちの召喚獣を全てストレージから取り出し、スロットに並べていく。

すると。この王座の間に、所狹しとモンスター達が実化していく。

「スゴイわ! まるで本當に魔王軍の幹部になったみたい☆」

「圧巻だね」

「……これがお姉ちゃんを支えてきたモンスター達」

マジックゴーレムやマッスラーなどのコモンモンスター達からクワガイガー、クリスタルレオのような階層ボスまで。今までヨハンを支えてきたモンスター達が、初めて実を持ってここに集う。

「満足してくれはった?」

「うん。ねぇみんな。銀行から召喚石をこっちに移したら……斷のヒナドラ祭りを開催してもいいかしら?」

「……ヒナドラ祭り?」

「なんですかそれ?」

「嫌な予しかしないわねぇ☆」

ヒナドラ祭り。それは500のヒナドラを同時に召喚し、ヨハンが楽しむという先ほど生まれたイベントの事である。

「まぁええけど……誰も居らん時にした方がええな」

デレデレとした表のヨハンを見ながら、コンが言う。

「ああ!」

その時。何かに気が付いたようにゼッカがぶ。

「今やっとわかりました! コンさんが召喚石を買い占めようとしてたのって……」

「ふっふっふ」

コンはようやく気が付いたか! と言わんばかりのドヤ顔を作る。

「そうや。ギルドホームのこの機能で、召喚石の需要は発的に高まるはずや……大儲け大儲け……うふふふふ」

悪役のようなコンの笑いが、王座の間に木霊した。

次回。大手ギルドに召喚石を売り込みます。

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