《【書籍二巻6月10日発売‼】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです【Web版】》第42話 リベンジ

30分後の14時、コロシアムにて2VS2のデュエルが始まる。

「ちょっとコンさん。どういう事ですか!」

店番をドナルドとレンマに代わってもらった3人は、コロシアムに向けて歩いていた。

「どうって何が?」

「全部です。ギルド対抗戦とか、あの無茶苦茶な値上げとか……」

「何か理由があったの?」

ギルド対抗戦の告知は12時頃に屆いていた。召喚石を取引するなかで、コンはいつの間にか目を通していたらしい。

「理由、そんなんあらへんよ。金を毟り取れるところから、取れるだけ毟り取る。それだけや」

「コンちゃん。無理に悪役ぶらなくていいのよ」

ヨハンは橫からコンの肩を抱く。

「私たち、仲間でしょ? 良かったら話してくれない?」

ヨハンの言葉に、コンはどこか照れくさそうに頬を掻いた。

「仲間……ね。ああもう……魔王はんの前だと調子狂うわ……うちはね、悔しかったんよ……」

「悔しい……?」

コンは頷いた。

「ゼッカちゃんは最強のギルド言うたら、どこやと思う?」

「そりゃ、さっき會ったあの二人の居る【最果ての剣】でしょう?」

「あんたはそう言うやろな。でもな、違う。最強のギルドは【決闘宿】や!」

「あ……」

ギルド【決闘宿】。その名に、ゼッカは聞き覚えがあった。それはかつての最強ギルド。召喚師のみで構されたギルド。召喚師の最盛期、【最果ての剣】が手も足も出せなかった、そして召喚師の弱化により、崩壊したギルドである。

「うちはそこのサブギルドマスターやったんよ。さっきの二人とも、ゼッカちゃんとも殺(や)りおうた事あるんやけど……」

「すみません……覚えてないです」

「ええんよ別に。けどうちらは絶対に忘れへん」

當時、プレレフアの能力もあって、召喚師は召喚師と組むのが最強と言われていた。故に召喚師は固まって、このゲームにおいて獨自のコミュニティを形していた。

そしてそんな召喚師一強時代、最果ての剣や神聖エリュシオン教団を始めとした他職業のプレイヤーが行ったのは、運営への抗議だった。

『召喚師だけバランスがおかしい』『ナーフしなきゃゲーム辭める』『召喚師調整しろ』

「なぁゼッカちゃん? うちらなんか悪い事した? あんさんらはうちら召喚師の事チートチート言うてはったけど、チートって意味知ってはる?」

「コンちゃん。ゼッカちゃんに八つ當たりしないの」

「いいんですよヨハンさん。コンさんの言っていることは……全て正しいんですから」

召喚師全盛期、ゼッカも『召喚師はバランスがおかしい』と唱えていた一人である。いや、あの時代、召喚師以外の全ての職業のプレイヤーがそう思っていて。

だから運営も、調整という名の弱化をするしかなかった。

「うちが大好きだった居場所はもう無い。みーんな辭めてもうた。攻略サイトにも『新規で召喚師を始めるのは愚か』って書かれてもうてるし……もう新しい召喚師なんて増えへんやろ」

化以來、コンは毎日仲間を失った。

『私もう辭めるから。あ、召喚石あげるね』

『別のゲームにもサモナーあるし、そっちを楽しむことにするよ』

『この糞ゲーまだ続けるの?』

ログインする度に減っていくギルドのメンバー、すり減っていく心。そして、いつしか大好きだった彼のギルドは消えていた。最低構人數の5人を下回ったからだ。

いつしか最強のギルドは【最果ての剣】という事になっていた。それがコンには許せなかった。あれは偽だ。本當の最強は自分たちだ。その思いが、彼をこのゲームへと縛り付けた。

「せやからね、許せへんかったんよ。平気な顔してうちの所に召喚石を買いに來たあいつらが……本當に……」

いつの間にか、コンは涙を流していた。ゼッカがその涙を優しく拭う。ゼッカは後悔していた。召喚師最強時代。自分達は負ける度に「運営仕事しろ」「調整早くしろ」と言っていた。最早それはスラングであったと言っていい。召喚師に負けたプレイヤーが必ず言う、決まり文句のようなものだ。

「いや……違う。多分、言い訳」

ゼッカだって、ヨハンと會うまでは、召喚師を選ぶ人は、強ければ何でも良い、勝てればそれでいい、プライドなんて無い、そんな連中なんだと思い込んでいた。でも、違った。

目の前で涙を流すは、召喚師という職業をし、仲間達と楽しく遊んでいた、自分たちと同じプレイヤーだった。

ゼッカはコンの手を握ると、彼の目を真っ直ぐ見つめる。

「は? 何?」

「コンさん。このデュエル、絶対に勝ちましょう!」

「いや……何でいきなりやる気になったんこの子? うちは魔王はんと……」

「うん! ゼッカちゃんとコンちゃん! このデュエルは貴方たちでやるべきだと思う。良いコンビになると思うわ!」

「ちょ、魔王はん……この二人で組んでも勝てへんて……召喚師は召喚師で組まへんと」

「そんな事はありません! 私も最果ての剣のやり方が気にくわなくて辭めた者! きっとコンさんとの相は良い筈です!」

「いや、そないな事言われても……え、ほんまにやるん?」

こうして、凸凹コンビの小さな逆襲(ぎゃくしゅう)が始まる。

***

***

***

コロシアムに踏み込む3人。するとヨハンは観客席に、ゼッカとコンはフィールドに、それぞれ転送された。

「あら、魔王は溫存って訳?」

「ほう……あの時の続きが出來ると思っていたのですが、興醒めですね」

ギルティアとロランドは明らかに落膽する。彼らがデュエルを引きけた理由はもちろん召喚石の購だが、もう一つにヨハンとの力関係をはっきりさせておきたいという狙いがあったからだ。

「舐められとるね、うちら」

「ええ。ですがすぐに後悔するでしょう。私たちを侮ったことを」

その時。14:00を迎えると共に、デュエル開始の合図が鳴り響く。

「お兄ちゃんは手出ししないで。私一人で相手をするわ」

「……了解しました」

前に出るギルティア。敵の狙いはこちらの手のを探る事なのでは? と疑っているロランドは、むしろギルドマスターである妹に戦ってしくなかった。ロランドは自のビルドや戦法、戦闘における思考などを全て自分のチャンネルで公開している為、隠している手のが一切無い。

全てオープンにしていて尚最強なのだ。一方ギルティアはユニークスキルの使い手である。あまり表立って戦わない方が良いのだが。

「ま、いいでしょう」

妹の格上やりたいようにやらせておこう。そう思うロランド。

「行きます! 援護を!」

「わかっとる、召喚獣召喚――スケープゴート!」

幾何學的な魔法陣から、玉のような羊のモンスターが出現する。

「【増】してゼッカちゃんを援護や」

「メェー」

「よし!」

自慢のユニーク裝備【デッド・オア・アライブ】を構え、スケープゴート達と共にギルティアへと突っ込むゼッカ。

「スキル【換裝】発――【芭蕉剣(ばしょうけん)・羅剎(らせつにょ)】を我が手に!!」

ギルティアは戦闘中に自由にストレージの裝備と自分の裝備を換できるスキル【換裝】を発。それにより扇形の剣を手に握ると、仰ぐように一振りした。

「ぐっ――!?」

「なんなんコレ!?」

ギルティアが軽く振っただけで、凄まじい突風が発生し、ゼッカとコンはその場に倒れてしまう。

ユニーク裝備【芭蕉剣・羅剎】。攻撃能力は一切持たないが、突風により、敵を寄せ付けない無敵の防力を持つ剣である。

「なぁにその悔しそうな顔、超ウケる。え、もしかしてアタシに勝てるつもりだったの?」

ギルティアは地に伏した二人を嘲笑った。

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