《【書籍二巻6月10日発売‼】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです【Web版】》幕間の語 哀川・妹編

とある日曜日。

哀川圭の妹、哀川真澄はキッチンで晝食の準備をしていた。リビングでは息子と姉である圭がマリオンカートというレーシングゲームで戦っている。

「お晝ご飯できたよ! はい、ゲームはおしまい!」

真澄はテーブルにカレーを並べながら、ハキハキとした聲で二人に告げた。真澄が畫面を見ると、丁度ゲームが終わった所のようである。息子の作する1P側の畫面に、金の1位という文字が輝いていた。

「お姉……別に子供相手だからって、手加減する必要はないのよ?」

真澄は勝負事において、相手が例え6歳の息子だろうと手を抜いた事はなかった。強い方が勝つ……弱い方は勝てない。そういう教育理念を持っている。

だが聲を掛けられた姉、圭は微だにしない。

「……お姉?」

不審に思った真澄は回り込み、その顔を覗く。

「あ、ああごめんなさい。今そっちに行くわ」

「お姉まさか……」

「い、言わないで……」

酷く青ざめた圭の顔を見て、妹・真澄は確信する。

(まさか、一切手加減しなかったのに、6歳児に負けた!?)

***

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***

「それにしても、流石真澄の子供よね。ゲームが鬼のように強かったわ」

晝食後。遊び疲れたのか、息子が晝寢を始めたので、姉妹二人でコーヒーを飲みながら、のんびりと雑談をしていた。6歳児にまさかの敗北を喫した圭は落ち著きを取り戻している。

「昔から上手だったわよね? ろくよんのマリオンカートでも貴方に勝った記憶がないわ」

「ま、私天才だったからね」

昔から不用な圭に比べ、真澄は恐ろしい程に出來のよい娘だった。圭は妹に何かで勝ったという記憶が殆ど無かった。

「羨ましいわ。私ももうしゲームが上手だったら、みんなの役に立てるんだけど」

「それって今やってるGOOの話?」

「ええ。とっても楽しいんだけど、ほら、私ゲーム下手っぴじゃない? だからみんなに心呆れられてないか、不安なのよね」

実際は心恐れられている。

「ま、お姉のゲーム下手は筋金りだからねぇ」

真澄は姉が下手すぎて他のプレイヤー達に引かれている様を想像する。実際は強すぎて引かれている時がある。

「でも、新しい友達が出來たんでしょ?」

「ええ。真澄より年下だけど、尊敬できる良い子達なの」

「なら、良かった。上手い下手より、そっちの方が大事だって」

そう言うと、姉である圭は嬉しそうにコーヒーをすすった。その様子が本當に楽しそうで……真澄は思わず口を開いた。

「あーあ。私もVRMMOやりたいなー」

「やってみれば? 機材はあるんでしょ?」

真澄は以前、旦那と二人で一緒に始めようと計畫していた事があった。だが子供がいる以上、どっちかがついていなくてはならず……。結局、旅行系のソフト以外には手を出していなかった。

「やりたいけど、この子がねぇ。まだまだ目離せないし」

「お願いすれば、旦那さんが見ててくれるでしょ?」

「まぁ、アイツは見ててくれるよ? でもアイツに面倒見させて、私だけ遊ぶってのもねぇ?」

「確かに気が引けるわね」

互にやるってのも違うじゃない? 絶対一緒にやった方が楽しいし」

もうちょっと息子が大きくなってからだねーとソファーに倒れる真澄。

「楽しみね。貴方に似てゲーム上手だから、きっとすぐ一番になれるわ。無敵よ」

「無敵ねぇ。無敵って私はどうかと思うんだよ」

「え、どういうこと?」

「私はね、子供には適度に負ける経験ってのが必要だと思ってる」

「そうかしら?」

「そうよ。ほら、この子四月生まれじゃない?」

「ええ。それがどうかした?」

「四月生まれって、同じ學年の中でも、一番長く生きてるの。四月學の日本において、四月生まれってのは、人生でかなり有利な訳」

例えばプロサッカー選手は、4月生まれの選手が一番多く、逆に三月生まれの選手が一番ない。誕生日が早くなれば早くなるほど、同學年での長は早くなる。その的アドバンテージは絶大で、の頃より運で活躍することが出來る。

小さい頃からの験は大きな自信につながり、後の人生をより良くしていけるというものである。その他のスポーツにおいても、やはりプロの誕生日は4~6月が多い傾向にある。

「誕生日か……考えた事もなかったわ」

ちなみに圭の誕生日は3月である。今では長の圭だが、背の順は小學校の上級生になるまで、ずっと前の方だった。

「結構重要なのよ? 例にれず、稚園じゃ背の順は一番後ろ。かけっこも負け無し」

「良いことじゃない……自慢の甥っ子だわ」

息子を褒められ、真澄も悪い気はしないが、それでも話を続ける。

「けどね。4月生まれが必ず人生で功しているってデータはないの。思い出してお姉。私たち陸上やってたでしょ?」

「ええ」

圭もを鍛える目的で高校まで陸上の短距離をやっていた。中學くらいまではそれなりの結果を出していたが、高校にってからは勉強に重きを置いた為、ほぼ趣味と化していた。

「なんで勉強に重きを置いたの? 進學の為だった? 違うんじゃない?」

妹に言われ、圭は思い出した。

「ああ、そういえば。高校にってから初めての大會で、レベルの高さに圧倒されて……」

やる気がなくなったのだ。つまり、心が折れた。三年間死ぬ気でやっても勝てない……そう思ったから、勉強に力をれ始めた……それを思い出した。

「お姉はそうやって切り替えて、いい大學行ったからいいんだけど。その冷淡なくらいの切り替えの早さがお姉の強さだと思うけど」

「れ、冷淡……!?」

「けど、それで心が折れて、立ち直れない子だって大勢いる訳でしょ? 小學校、中學校、高校、大學。人生のステージが進む度、世界が広がる度、信じられないくらいスゴイ奴が沢山現れる。倒しても倒しても強い敵が現れる年漫畫みたいにね。人生は挫折の連続。避けられないわ。そんなときにね、また立ち上がれる強さを持った子に、なってしい訳よ」

「それが真澄の教育論なのね」

「どちらかというと神論かな」

圭はそれでも負け無しの人生の方がいいのでは? と思っているが、甥っ子の母親は妹なので、そう深くは口出ししない。要は妹・真澄も、自分の息子がかなり出來る奴だと思っているのだろう。だからこそ、天狗にならず、上には上が居る……それを理解し、自分を高める努力を忘れないでしいと思っているのだ。

「だからこそお姉には、ゲームでくらい、軽く息子をひねり潰してしかったな~」

「あ、あれは違うのよ……アイテム運が……」

「むにゃむにゃ……ああ圭ちゃんまだ居た! 続きやろう!」

「あら、起きたのね! 水飲む?」

「いらなーい。ほら、早く早く」

「わかったわ。次は負けないわよ」

「よしっ、それじゃあ息子よ。今度は母も參戦するぞ」

「げぇ……」

「げぇ……」

「息子はわかるけどお姉まで嫌な顔しなくても……」

そしてこの後、圭は妹親子にずっとボコボコにされまくった。

前回のお話のカウンター的なお話。次回からは本編に戻ります。

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