《【書籍二巻6月10日発売‼】お前のような初心者がいるか! 不遇職『召喚師』なのにラスボスと言われているそうです【Web版】》第50話 イベント準備

「ギャアアアアアアアアア☆!?」

イベント前日。ヨハン達のギルドホームにドナルドの野太い悲鳴が響く。何事かと集まったギルドメンバーに振り返るドナルドは、怒りで目を釣り上げていた。

「ちょっとちょっと誰よ~誰なのよ~☆」

王座の前にはこのギルドホーム全の模型が置かれた広いテーブルが設置されている。そしてそこには召喚石を設置する為のが開いていて、より視覚的に召喚獣の配置が出來るようになっていた。

ドナルドはそんな模型の庭を指さし言う。

「庭は下級をバランス良く設置して、どれだけやれるか実験するって計畫だったでしょ~? それが見てよこれ」

「庭を守る召喚石が、全部ヒナドラに変わっとる!?」

「一誰がこんな真似を!?」

と言いつつ、メンバーはヨハンの方を向いた。漆黒の鎧をに纏ったヨハンは顔を逸らすと、靜かに手を挙げた。

「私がやりました」

「しょーもないことするんじゃないわよ。ブラックフレイム一発撃ったら消えちゃうヒナドラは、今回のイベント向きの召喚獣じゃないんだから」

このイベントでは、召喚獣を実化させる時と、実化している間のMP消費はない。だが、召喚獣側がスキルを使えばMPは減っていくし、殘量がなくなった場合、通常の召喚獣と同じように消滅し、そこから1日、再召喚出來なくなる。

「だって私、どうしても大量のヒナドラが見たかったのよ!」

「後になさい☆」

「そ、それじゃせめて、この最強のクロノドラゴンを……」

「それはやめといた方がええ」

ストレージからクロノドラゴンの召喚石を取り出したヨハンをコンが止めた。

「な、どうして?」

「そのクロノドラゴン【タイムメイカー】しか使えへんやつやろ? それなら辭めておいた方がええよ」

「何故? タイムメイカーはあの海賊王を倒した最強のスキルなのに?」

「それはな……」

コンは自分のクロノドラゴンを取り出すと、メニューを開き、ヨハンに見せる。クロノドラゴンのスキル解放には多くのレア素材を要求されるため、コンですらまだスキル解放に至っていない。だがそこにはクロノドラゴンのスキル【タイムメイカー】の説明と、その橫に赤い文字で【リミット1】と書かれていた。

「この文字がどうかしたの?」

「【リミット1】ってのは、強力な上位スキルについている制限の事よ☆」

「クールタイムが24時間かかるのと、さらにリミット1を使った後、そのクールタイムが終わるまで、そのプレイヤーは他の【リミット1】のスキルを使用する事はできないんです」

例えば【リミット1】制限のついたスキルAとBを持っていたとする。もしAを使った場合、Aのスキルは24時間経たなければ再使用することが出來ない。だが同時にBのスキルも、Aのスキルが再使用可能になるまで使用できないのだ。

「ええと……つまりギルドホームがコントロールするモンスターが【リミット1】を使うと、他のモンスターがリミット1のスキルを使えなくなるという事?」

「そういう事。ま、そもそもタイムメイカーみたいな複雑なスキル、このゲームのAIに使いこなせる訳あらへんしな」

「そういう事。だから予定通り、明日、初日は複雑なスキルの無い召喚獣達を使うわよ。というわけでヒナドラは外すわ~ほいほいほーい☆」

「ああ……」

ドナルドはその大きな手で、手際よくヒナドラの召喚石を引っぺがしていく。

庭に初級、ロビーに中級。そして各階層に上級や超級を設置。とりあえずこれが初日の編である。

「何の面白みもないわね」

ヨハンはつまらなそうに呟いた。

「ハイハイ、いい歳して拗ねるんじゃ無いわよ☆」

「私たちのギルドホームって、本來100人規模で使用するですから、きっと襲撃は厳しくなると思うんです」

「……だから、確実な戦法をとったほうがいい。面白みは確かにないけど」

竜の雛のように6人という最小規模のギルドならば、本來はアスカシティにある、一軒家のようなギルドホームを使うのが一般的だ。だが6人で大規模な城を使っているので、ヨハンが考えている以上に、今回のイベントは激戦となるだろう。だからこそ、このギルドホーム最大のメリットである召喚獣500制はフル活用しなくてはならない。

面白みを追求している余裕は、実はそんなにないのだ。

「皆さん、今回のイベント用のアクセサリーができあがりましたよ!」

そろそろ解散しようかという頃合いに、ミーティングルームに煙條Pがやってきた。無事氷のダンジョンを突破した煙條Pは、早速この城へとやってきたのだ。そして工房を見るや、すぐに人數分のイベント限定アクセサリーの作に取りかかってくれた。

「今回のイベント用アイテムは【守護者の指】です。裝備しているだけで撃退したときのポイントに微量のボーナスが付與されます」

煙條Pが各メンバーに指を手渡していく。見た目は異常者だが、生産職の腕は確かに本のようだ。イベントボーナスを貰える裝飾品は、イベント前なら素材なしで作れるが、難易度は高く、並の生産職プレイヤーには作できない。

「はい、ゼッカさんの分も」

「ありがとうございます」

初対面時は悲鳴を上げていたゼッカも今ではすっかり煙條Pの暴力的なビジュアルに慣れたようである。

「さぁ、イベント頑張って、【墜ちた天使の福音書】を集めますよ!」

と早速アクセサリーを裝備し、気合いをれるゼッカ。【墜ちた天使の福音書】とは、墮天使系モンスターが超低確率でドロップする素材アイテムだ。煙條Pの強化鑑定により、ゼッカの持つユニーク裝備【デッド・オア・アライブ】をトランスコードで強化する為に、このアイテムが10個必要だとわかったのだ。そしてこの福音書は、今回のイベントのポイント換報酬に含まれている。ゼッカのやる気が上がるの頷けるだろう。

「私も頑張ろう……頑張らなきゃいけないんだけど……」

ヨハンもカオスアポカリプスの強化に【黒竜の逆鱗】というレア素材が必要だ。この素材も換出來るのだが。ヨハンが今回のイベントに參加出來るのは実質土曜のみ。ギルドの中でも煙條Pと並び、最低の參加率となる。みんなは換ポイントを均等に分けようと言ってくれているが、流石にそんな真似は出來ない。

「仕事じゃしょうがないわよ☆」

「そうですよ。リアル優先!」

「……お姉ちゃんの分もボクが頑張る」

「みんな……ええ。でも仕事が終わったら可能な限り參加するから」

どうかその時にランダム襲撃がありますように。そう祈りながら、この日は解散となった。

投稿開始から一カ月ちょい。ようやく50話です。ここまで続けられたのも皆さまのおです。

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