《【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。》2日目 その6

お知らせ

本作のタイトルを『いつも馬鹿にしてくるたちと絶縁したら、実は俺のことが大好きだったようだ。』と改めまして、講談社ラノベ文庫様より8月2日に発売されます!

イラストレーター様にヒロイン達を素敵に描いていただき、作品としても大幅な修正・加筆を行なっているため、より楽しんでいただけるかなと思います。

また、店舗特典でssも付きますので、ぜひよろしくお願いいたします。

「「おかえりなさいませ! 主人殿!」」

赤い鳥居を抜けた先には畳に障子と、和風の裝が広がっていた。

三味線で奏でられる優雅なBGMに、暖系の燈りが雰囲気をより心地よいものにしている。

俺たちを出迎えてくれたのは、狐の耳や面を著けた可憐なの子たち。

そう、ここは狐のコンセプトカフェなのだ。

「わ〜! ただいま〜!」

「お待ちしておりましたコン! 二名様でよろしいでしょうか?」

「大丈夫です〜!」

語尾の雑さはさておき、キャストのメイクは赤系、服裝は巫服で統一されていて、なかなかに力がっているのが伝わる。

さらに、席へと案してくれる時に後ろ姿が見えたのだが、なんと尾まで完備していた。

「……それで、ユイちゃんが行きたかったところがここ?」

キャストの子が「どうぞコン」と、またまた雑な語尾と共に水を置いていってくれたので、それを口にしながら問いかける。

「そうだよ? ここはコンカフェ の中でもかなり人気のお店らしいから、偵察してみたいなって思って!」

「偵察か……」

良いところを學んで自分の糧にするというのは大切なことだ。

の店でもたまに「制服デー」とか「ハロウィンデー」のような特殊なイベントをやっていることがあるし、そのための勉強なのだろう。

「ほら見て優太くん、あの子がSNSでかなりバズった子だよ」

ちょんちょんと俺の腕を押し、小さく聲をかけられる。

細い指がれた時に飛び上がりそうになってしまったのをバレないよう、後ろへ振り返りながら目を細めた。

「どの子……?」

「あの『マイコン』って子だよ」

指をさしている方向には、カウンターに座る客と笑顔で話している、緑髪のショートカットの子がいた。

「……なるほど」

この店で働いている子たちは総じて整った容姿をしていたが、あの子は一際輝いて見える。

というのも、切長の吊り目に細型と、「狐」というコンセプトにかなりマッチしているからだ。

そんなクールそうな子が、真っ白に赤い縁取りがされている可い系の巫服を著るというギャップもたまらないのだろう。

の視線は彼が獨り占め……とまでは言わないが、かなり目立っているのは間違いない。

「…………」

ふと視線を前に戻してみると、ユイちゃんは真剣そうな表でマイコンを見つめていた。

やっぱり、同業者として吸収できるところがあるのだろう。

が何を考えているのかは推量れないが、きっとその道の人なら理解できるような深い――。

「すっごい綺麗な腳してる……うへへ……」

前言撤回。ただのおっさんだった。

「あ、優太くんは見ちゃダメだよ?」

「見ないよ!?」

ユイちゃんが目の前にいるのに見るわけがない。

まぁ、後でたまたま目にっちゃうことはあるかもしれないが、それはセーフだよな?

その後、各々が注文を済ませ、これまでの修學旅行の思い出なんかを語っていると、例のマイコンがこちらへ料理を運んできた。

「お待たせしましたコン。コンコンジュースがおふたつだコン」

「ありがとうございます〜!」

もはや「コン」がゲジュタルト崩壊しそうなメニューである。

なんのジュースなのかと思っていたが、味的にオレンジジュースっぽいな。

「……あれ、お姉さんもしかして、東京のメイドカフェで働いてませんか?」

「え、働いてます!」

「やっぱりそうですよね。実は私、プライベートのアカウントでお姉さんのことフォローしてます」

「そうなんですか!?」

さすがユイちゃん。

遙か京都にまでその名が轟いているとは、再び人気に火が付いているだけのことはあるようだ。

俺が一人で頷きながら心している間にも、彼たちは多のぎこちなさで會話を続けている。

「ねぇ優太くん聞いてた!?」

「あぁ、ユイちゃんの名前が京都にまで轟いてたってこと? 全國制覇ももうすぐだね」

「いや、そんな騒な話じゃないんだけどね? マイコンちゃん、今度私の働いてるお店に來てくれるんだって!」

「へぇ、すごいね」

めでたいことだ。俺がユイちゃん推しの先輩として、彼の魅力的なところを教えてあげないとな。

「そういえば、お兄さんはこっちの人なんですか? 制服が違うけど……」

「いえ、學校は違うんですけど、たまたま修學旅行の日程やら何やらが被ってて」

「なにそれ。そんなことあります?」

いや、俺が聞きたいくらいだ。

ウチの高校とユイちゃんの高校が裏で繋がっている可能すらある。

「すっごい偶然ですよね! 私たち運命なのかなって思っちゃいます!」

「……あぁ、そういう……」

ユイちゃんの言葉を聞いて、マイコンさんは口の端を吊り上げる。

ん?これ、普通に危ないんじゃないか?

「いや、違うんですよ言葉のあやっていうか……」

「え、あ、そ、そうです! ほら、運命って言ってもライバル的な……ね?」

「そうそう!」

二人して下手くそすぎる誤魔化し方である。

言われ慣れているので気付くのが遅れたが、いくら遠く離れた地とはいえ、彼についての報は出回らないほうがいいだろう。

「大丈夫ですよ、誰にも言わないんで。私たちもたまにそういうことありますし」

「あ、ありがとうございます……」

青髪の彼はほっとで下ろしている。優しい人で助かった。

「ま、だったらあんま邪魔しちゃうのもあれなんで、私は戻りますね。ユイちゃんさんもまた今度會いましょう」

「うん! 楽しみにしてます!」

「でもいいなァ、高校生のうちからこんなイケメンとデートなんて。マジ病みコンコンってじ〜」

額に手を當てながらフラフラとカウンターへ戻り、再び接客を再開するマイコンさん。

「……なんか、結構獨特な人だね」

「そう……かも?」

「それじゃあ、そろそろ俺は戻るね」

「うん! わざわざホームまで來てくれてありがとね!」

一通りコンカフェ を楽しんだところで約束の時間も迫っていたので、名殘惜しいがここでお開きにすることにした。

ユイちゃんの乗る電車が到著するまで數分。雑談も終わりを迎えるところだ。

「數時間とはいえ、やっぱり知らない土地に一人は寂しかったから、ユイちゃんに會えてよかったよ」

それはそれでいいものではあるんだけどな。

獨特の寂しさというか、希的な孤獨というか。

聞く人によっては「酔ってる」と言われてしまいそうだけど。

「わ、私も嬉しかったよ? ……でも今のはちょっとキュンとしたかも……」

普段は視線を逸らさない彼が、珍しく恥ずかしそうに目を泳がせている。

自分的には素直に謝の気持ちを伝えたつもりだったのだが、やはり心というのは複雑なようだ。

そんなことを考えているうちにユイちゃんの乗る電車が到著し、馴染み深い空気がれる音と共に扉が開く。

「それじゃあ優太くん、殘りの修學旅行も楽しんでね! こん!」

両手を狐の耳のように立て、俺の顔を覗き込んで微笑みかけたユイちゃんは、そのまま軽い足取りで車両に乗り込んでいった。

「……可い」

手を振りながら遠くなっていく姿に、同じく手をかしてこたえるが、脳ではずっと狐ユイちゃんを再生し続けていた。

「さて……俺も戻るか」

淺川の予定もそろそろ終わるだろうし、俺は若干呆けたままホームの階段の方へと足を進めた。

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