《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》2-3:ヴァルハラへようこそ
オーディス神殿に屬する、の戦士団。
腕利きの冒険者ばかりが屬する、ダンジョンの専門家。
迷宮は魔石やを僕らにもたらす。王族には『封印』に関するスキルを持った人がいて、神様がなした迷宮の封印をきちんと管理することもオーディス神殿の役割だった。だから王族と神殿は関係が深いという。
でも、ダンジョンは危険な場所。魔もいるし、冒険者だって敵に回るかもしれない。
だから必要に応じて迷宮を制圧できるように、オーディス神殿は鋭戦力を持っていた。
それが『の戦士団』。
なんだけど……
「そ、総長ぉ……!?」
僕とミアさんはそろって聲をあげていた。
目の前にいるのは、どう見ても普通のの子だった。歳だって15、16――僕と3つは離れていないと思う。
「あんたが?」
ミアさんは腕を組んで信じないそぶり。
東ダンジョンで助けた新米冒険者パリネさん。
今は白いローブと高い帽子で裝って、僕らに落ち著いた笑みを送っている。
「信じがたいでしょうが、総長です」
「……そんなに若いのにかい?」
「事がありまして。ただし、立場は本です」
僕らは後ろに立つの戦士団と、パウリーネさんを見比べた。戦士団は全く否定しないし、だとすれば本當のことなのかも。
「パリネも仮の名前です。改めまして、パウリーネと申します」
が暑くなったり寒くなったりした。
聞き違いでなければ、さっき王様とも言っていた。目もくらむような分だし、どんな風に話せばいいんだろう。
「ふぅん? ならなんでダンジョンに……」
「み、ミアさんっ。ええと、その、総長様は」
言いよどむ僕に、パウリーネ……さんは苦笑した。
「今はまだ、パウリーネで構いません。戦士団とあなた方は、同じ冒険者同士ですから。それよりも本題に」
こつこつ、とロッドで地面を突く。パウリーネさんは翡翠の目を馬車に向けた。
「至急、私達と來ていただきたいのです」
「それは……」
失禮かもしれないけど、僕はパウリーネさんをまっすぐに見上げた。
「それはダメです。僕、まず家に帰らないと」
ルゥと母さんが心配だ。戦闘が家の方に及んでいないか、確認しなければどこにも行くつもりはない。
「オーディス神殿には、必ず顔を出します。ダンジョンの封印を解いたことであれば、きちんと理由もお話しします」
それに、と僕は言い添えた。視線を橫に向けるだけで、ボロボロの街とき回る冒険者が見える。
「……まだここも心配です」
戦場となった通りは、いまだに混沌だ。さっきみたいな力が役立つかもしれない。
パウリーネさんは目を見開く。真っ白い頬で、労うように笑いかけた。
「冒険者はかくあるべき。素晴らしい心がけです。が、あなたはし休むべきです。たとえば……治療魔法の途中に者が倒れると、治癒が途中で止まりかえって大変ですよ」
「それは……」
「オーディス神殿からも、調萬全の魔法使いを派遣しています。それに私たちがまず向かうのは、あなたの住まいです」
驚いてしまった。
「ぼ、僕の家……ですか?」
「ええ。あなた方を保護させてください。罪どころか、むしろ最重要の客人です」
パウリーネさんの目つきは真剣だった。
『保護』という言葉にいろいろな疑問が沸き上がる。でも、議論している時間も惜しいんだって直観した。
そういえばスコルとの戦いに出る前、家の近くでの戦士団を見かけている。
近所で危ないことがあったのかもしれない。
「わ、わかりました」
僕たちは馬車に乗り込んだ。
馬が2頭で引く大きな四馬車。中は広くて、天井には照明用の魔石がっている。
き出しても構えたほどには揺れなかった。近所の荷馬車とこれを比べるのもおかしいけど。
夜はまだ深い。城壁から遠くて戦闘を免れた區畫でも、家々は木戸をしっかりと閉めている。
貧しい區畫にやってくると視線をじた。立派な馬車がやってくることなんてないから、何が起こっているのか心配なんだろう。
やがて馬車が家の近くにくると、僕は異変に気付いた。
屋の上。
時折、マントをなびかせる人影が現れる。
「の戦士団……?」
向かいの席でパウリーネさんが頷いた。
「あなた方が城門で魔を防いでいる間、この區畫にも敵が來ました」
すっと背筋が寒くなる。
「ここで戦いが……?」
「はい。ですがご安心を、戦士団が撃退しました」
淡々と話すパウリーネさんだけど、空気はどんどん重くなる。
「相手は、私達が追っている奴隷商人です。貴族を通じて『珍しいスキル』を持った奴隷を集めていたようですが、あなた方兄妹に狙いを定めたということかと考えます」
スコルとの戦いを思い出してしまった。
――ああ、この分だと妹の方もダメねぇ……。
そう言い殘して逃げたが確かにいた。
ぐらりと揺れたのは、馬車が止まったせいだけじゃない。
「ル、ルゥも……狙われた?」
「はい。東ダンジョンの封印を解き、王都を破壊したのも同じ奴隷商人でしょう」
到著です、と者さんの聲がした。
そうでなければ僕は立ち上がってパウリーネさんを問い詰めていたかもしれない。街をあんなにしたのも、僕らを奴隷にしようとしていたのも、同じ人達ってことになるんだから。
「どういう……」
パウリーネさんは首を振って、手で外を示した。
「さぁ」
馬車を降りる。
慣れ親しんだ家の玄関。つい數時間前に出たばかりなのに、何年も帰っていない気がした。小さいころ僕とルゥが棒を振り回してつけた傷が、まだ柱に殘っている。
父さんの時と同じだ。幸せを壊す何かは、突然にやってくる。
「た、ただいまっ」
中にると、頭にお鍋を被った母さんが立っていた。
「り、リオン……」
母さんの目に涙がにじんだ。
「ただいま、帰りました」
ほうっと息をつき、母さんは僕を抱きしめた。母さんも安心したのだろう。父さんは僕と同じ玄関から出て、もう帰ってこなかったから。
母さんはやがて、後ろにいるミアさんやパウリーネさん達にも気づいた。
「後ろの方々は……? 仲間の方もいるようだけど……」
「主神のご加護がありますように」
パウリーネさんが一禮する。
母さんは目を見張り、いつものフードとローブから埃をはたいた。
「その帽子は、し、司教様……?」
そういえば、高い帽子は位を表すって聞いたことがある。
パウリーネさんは何もない、がらんとした居間を見て口を結んだ。『ルトガーさん、ごめんなさい』――そんな風に早口で言ったのが聞き取れてしまう。
ルトガーは父さんの名前だ。
「夜遅くに申し訳ありません。ですが、急ぎあなた方を保護します」
ロッドをついてパウリーネさんは宣告する。
母さんからの視線に、僕は頷いた。
「安心して、母さん。ルゥは2階?」
「ええ。また咳が出るから、ベッドで」
階段を上った。
「神様……聞こえてますか?」
神々に問いかける。なにか、確かなものが、回答がしい。
返事はない。なにか耳の奧で聞こえるんだけど、大勢の聲が一緒くたになって、聞き取れないんだ。
首を傾げて寢室のドアを開ける。
「お兄ちゃんっ」
妹がベッドからを起こしていた。
「ルゥ? 咳は大丈夫なの?」
合が悪いって聞いたけど、ルゥの息はれていない。ベッドに腰かけて、のあたりを押さえている。
ずっと前から一緒の茶いガウンが肩にかかっていた。
「だいぶよくなったの」
「いつ頃から? 冷えるからぶり返すと大変だよ」
「本當の、本當だよ。確か……『ぶおおっ』って角笛が聞こえたころ、かな?」
スコルを倒したことで、ルゥの病気もよくなったんだろうか。そういえば狼という強い魔と戦う前、調を崩してもいたし。
「遠くから、お兄ちゃんも戦っているような気がしたの。そうしたら治っちゃった」
よかった。本當に、元気そう。
あの時鳴らした角笛は、神様だけじゃなくてルゥも元気づけてくれたのかもしれない――なんてこと、し思ってしまう。それくらい謝だ。
「角笛か……」
『目覚ましの角笛(ギャラルホルン)』はポーチにれたままだ。
取り出してみる。
細工が施されたとてもきれいな角笛だ。ただ力を失っているような気もする。
<目覚まし>のすぐあとは、側から輝いているようだったのに。
「神様を目覚まししたから、逆にこっちが寢ちゃったのかな……?」
その時、耳奧に聲が聞こえだした。
『……! ……!!』
『――せ! ――めろ!』
『狹いっ』
ぶるる、と右ポケットでコインが振する。
神様達の聲だ。
『やめろ、みんな暴れるなっ』
『だってだんだん狹くなってきたぞ!?』
『し、仕方があるまい! もともとは、わたし1人のところに4人もってきたんだからっ!』
夏の雨雲みたいにむくむくと不安が巻き起こる。
「そ、ソラーナ!?」
『リオンか! この金貨にいきなり4人も増えたのは、ちょっと狹すぎたみたいだ……!』
ポケットからあふれる黃金の。
慌ててコインを取り出すと、もう眩しいほどに輝いていた。
「お兄ちゃんっ!?」
震える金貨。勝手に空中に浮きあがり、と一緒に『中』を解き放った。
「うお!」
赤髪の巨神が母さんのベットに落ちる。
トール神だ。2メートルの巨でベッドがひしゃげる。
「うわっ」
「きゃっ」
茶髪の神様、ウルがけをとって著地する。でも鎧を著た神様――シグリスがさらにその上に落ちて、2人で棚を盛大にひっくり返した。
たぶん、1階どころかご近所中に聞こえただろう。
「やれやれだねぇ」
最後に黒髪の神様、ロキが僕のベッドに著地した。足を組んで座り、壁に寄りかかる。
たれ目をさらにとろんとさせて、ロキ神は言った。
「金貨の中よりはマシだけどさぁ……ここもなかなかに狹くなぁい?」
ソラーナが金貨から飛び出した。ふわりと宙に浮き、辺りを見回し、わしわしと金髪の頭を抱える。
「あああもう!」
やってられないといわんばかりに金髪を振りした。
「き、君達!? ただでさえ狹いのに、大勢で暴れるとなお狹くなる! どうしてそんなこともわからないんだっ!?」
トールが頭をかく。広場の彫像のように研ぎ澄まされた、筋さえ無駄なものは削ぎ落した。でもばつが悪そうに鼻頭をかく姿は、なんというか、とてもとても気やすく見える。
「特にトール! 背中で潰しているのは母君の……」
「リオン、どうしたの?」
一階から、母さんの呼ぶ聲。
何人も階段を上がってくる。
「な、なんでもない!」
慌ててドアを塞いだ。いつか全部を説明しなくちゃいけない――そんな思いもあるにはあるけど、こんな狀態の寢室を見せたくなかった。
「み、みんな小さくなれ! それか、コインに戻れっ!」
ソラーナが號令を下すけど、神様は誰も従わなかった。1000年後の世界が珍しいのか、窓の外を眺めたり、棚を開いたり。
「特にトールっ。君は早急に小さくなれっ」
「小さく?」
「魔力を制限するんだっ」
「セイゲン? マリョ、ク……?」
「本當に戦い以外はからっきしだなぁ!?」
わいわいがやがや。起き上がろうとしてどっすんばったん。
主神オーディス様……。
封印解除、ありがとうございます。
でも今は、今だけは……!
『封印解除』じゃなくて『再封印(お帰り願う)』がしいです!
「リオン、開けなさいっ!」
「は、はいっ」
ドアは破られた。
の戦士団やミアさんが寢室に流れ込んでくる。母さんは部屋中にいる見知らぬ神様、そして宙に浮かぶソラーナに、カチコチになった。
「……き、君の家が、その……神々の家(ヴァルハラ)になるというのは、現実になったなぁ」
ソラーナが目を泳がせて、よくわからないフォローをする。
「り、リオン……?」
母さんはへたり込んだ。まん丸の目で、寢室を見回す。
今の景で『神様です』と紹介する勇気はちょっとない。酒場の冒険者が流れ込んできたといった方が、納得してくれるかもしれない。
「お、お友達が増えたのね……?」
「ええと、これは……お友達じゃなくて……」
パウリーネさんが咳払いする。どん!どん!とロッドで抜けそうなほど床をついた。
「皆様、馬車に乗ってください! もう今夜のうちに、の戦士団の拠點へお連れしますっ」
ミアさんだけが、吹っ切れたみたいにからからと笑っていた。
『角笛は吹かれたり』――そんな冒険者に伝わる、『進むしかない』という意味の銘句を口ずさみながら。
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