《12ハロンのチクショー道【書籍化】》番外編:そして魔王は西より來る-12
■JC直前! おっさんだらけの急座談會!■
タトナカ(以下ト)「さあ皆さん。ジャパンカップですよ。はいはい押さないで押さない」
タケナカ(以下ナカ)「ねえトさん。毎度思うんだけどね、そのりは必要なの?」
ト「必要ですとも。お約束というのはね、続けてこそ意味がある。調教と同じよ」
キシマ(以下キ)「うわ、この人無理やりこじつけた」
オオイリ(以下オ)「まあ字コンテみたいなところのあるこの企畫じゃ仕方ありませんよ」
ト「はい、ということでね。毎度お馴染み! お馴染みですよ、お馴染みの直前座談會ですわ。今回もジャンジャンバリバリ皆さんの本命、推し馬を挙げてってちょーだい」
オ「テレビどころかウェブも普及してる今日日、雑誌の紙面で文字だけの座談會って言われてもってじですけど」
キ「これ毎年言ってる気がするんですが、この企畫、付録か何かで映像化した方がいいんじゃないですか?」
ト「やかましー! いいからさっさとしゃべらんかーい!」
ナカ「そういうトさんから話せばいいじゃない」
ト「オレか? いいよじゃあオレから行くぜ。オレはなんと言ってもサタンマルッコだわ。ここで本命にしないのは考えられないね」
オ「まあそりゃそうですよね。なんと言っても日本初の凱旋門賞馬。ここで切る手はないよね。それやるのは相當なひねくれだよ。それで本命はいいとして、対抗は?」
ト「斷然セヴンスターズ。やっぱ実績が違うわ実績が」
オ「セヴンスターズは正直どうなのって疑っちゃいますけどねぇ? そりゃ強いんでしょうけど、日本競馬への適があまりにも未知數ですよ」
ト「そう言われ続けてあっちこっちで勝ちまくってきた馬なんだよ。まあでもいきなりの日本遠征ってことで割り引いて、今回は対抗にしてみたわ」
キ「雑っ!?」
ト「ほんで三番手にはスティールソードだわ。なんといっても府中専用機トニービンの家系だしな。近走の績も抜群にいい。どうよこの予想。キマってない?」
ナカ「上から順番に並べただけってじだねぇ」
オ「誰でも買えるよそんな馬券」
ト「うるっさいわっ! ならお前らも言ってけ!」
ナカ「じゃあ僕が。僕は今回スティールソードから買おうかと思ってるよ」
キ「ほうスティールソード。ナカさんはサタンマルッコ贔屓だから今回もそうなのかなぁと思ってたんですが、ちょっと意外です」
ナカ「僕はいつだってシビアに馬券やってるつもりなんですがねぇ。まぁとにかく、本命はスティールソード。対抗は選びきれないねぇ、サタンマルッコ、ストームライダー、それからフランスのリスリグなんかが刺さるんじゃないかなって見てますよ」
オ「リスリグですか。マイルで実績を挙げてる馬でしたよね。凱旋門賞を見る限りではクラシックを走る力があるのは分かるんですけど、ここではどうなんですかねぇ。トさんじゃないですけど、それなら僕もセヴンスターズを挙げておきたいですよ。やはり実績に裏打ちされた実力はコースを選ばないと思うんですよね」
キ「いやいや待ってください。ここまで挙げた馬のほとんどが先行馬ですよね? 府中のながーい直線を考えれば、後ろからの馬も見逃せないですよ。ということで私の本命はキャリオンナイト。昨年度も唯一後ろからの競馬で上位に食い込んだ馬ですから、今年もやってくれるんじゃないかなと期待していますよ」
ト「ぐうわからずや共め、あれこれ理屈をつけようとも実力のある馬が捻じ伏せるのが競馬だ。力強さという點においてサタンマルッコに勝る馬はおるまい!」
ナカ「強いのは認めるんだけど、予想家としてその発言はどうなんだろうねぇ」
キ「それじゃ臺無しですよ」
オ「まったく」
ト「うっさいわぼけー!」
~以降聞くに堪えない醜い言い爭いとなってしまったので終了~
ト
◎サタンマルッコ
○セヴンスターズ
▲スティールソード
ナカ
◎スティールソード
○
▲サタンマルッコ、ストームライダー、リスリグ
キ
◎キャリオンナイト
○ラストラプソディー
▲サタンマルッコ
オ
◎ストームライダー
○セヴンスターズ
▲サタンマルッコ
編集部追記:竹中氏、今週の追い切りを見てのコメント。
「やはりスティールソード。
調教がいい。細原廄舎はコレと決めたレースへの調整が本當に素晴らしい。去年でしたら青葉賞。あの時のこのお馬さんは本當によかった。當日見てみないとまだわかりませんけどね、やはり私はこの馬からってみたいなと思ってますよ」
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秋めく葉が枯れ落ちて、いよいよ冬の帳が近づく11月中旬。
ここ、栗東トレーニングセンターでは週末のレースへ向けて駿馬たちが調整を行っていた。今週末には凱旋門賞馬二頭が參加するジャパンカップを迎える競馬界は、靜かな期待と確かな興を帯びていた。それらは熱気となってトレセン全の空気を変え、関係者の気分をキリリと引き締めるのに一役買っていた。
そんな中。
砂上を駆ける栗の馬。
木曜日。サタンマルッコと馬上の橫田友則は追い切り調教を栗東トレーニングセンターいつものEダートコースで行っていた。
ダイナミックな前肢の掻き込みが砂を弾き飛ばし、直線を駆け抜ける。
「う、うーん……」
小箕灘は顎に手を當て奧で低く唸った。搾り出すようなその音が苦渋を滲ませる。
端的に言って、マルッコの調教は良くなかった。調が悪く彩を欠いているというより、やる気がじられないと評するのが相応しい。
覚えがあった。羽賀で2歳の時、まだ主戦が高橋だったころのマルッコだ。
普段の態度と飼葉食いから推測するに、恐らく調子自はそれなりに良いと思われた。凱旋門賞での激走の影響で消耗が心配されたが、一時はそれなりに疲れを見せていたの、日本の空気や大好のリンゴのおかげかいまやすっかり元気になっていた。
元々というかそもそも、マルッコは調教でまともに走らない馬ではある。思い返してみれば年末から春先までの間や渡仏してからの間は至極真面目に調教に取り組んでいたように思える。その反が今來たと考えれば現狀にある程度納得は出來る。しておきたい。
ピピッと小さく電子音。トレセンの機から送信された経過ラップが小箕灘の個人端末に表示された。マルッコの場合、押そうが引こうが自分のペースでしか走らないため、やる気の有無は走破ラップで判別できる。レースを意識したラップ、例えばコーナー出口付近で一度ペースを緩め、直線でスパートをかけたりしていると、レースへ意識が向いている証左となる。逆に、
「14.1秒フラット……8ハロンだぞ、むしろすげえよ」
タイムが平らになればなるほど意識はレースから遠く離れていると言って良い。何も無ければマルッコはマラソンランナーのように平均的なペースで走る。ちょっとした運のつもりなら全く以って正しいのだが、馬ならぬ人のからすると週末のレースに対してがっていないのではないかと小言を言いたくもなる。
さらに心配事の種はまだあった。
「せるくる!」
「ひぃ~~ん!」
抱擁に応じ鼻先をのうなじに埋めて耳と尾をぶるんぶるん振りまわすマルッコ。
デレッデレのドロッドロだ。
悩みの種と言えばこのもそうだ。フランスに居た頃、どういうわけかマルッコと非常に仲良くなったらしい。それだけなら想のいいこの馬の事だからと、どうということのない話だが、しかもこれまたどういうわけかオーナーの中川夫人からこのがマルッコに會えるよう手配してしいと依頼されてしまった。
フランス遠征の資金について頭の上がらないオーナーからの依頼である。そりゃあ小箕灘も手を盡くし、が訪問した際に廄舎の中にれるように手配したのだ。會うのはその日の予定を全て消化した後で、所謂午後の暇な時間だ。だから邪魔にはなっていないのだが、いないのだが……
「xxxxxx? xx! xxxx あはは!」
「うぃ、うぃぃ~ん、ぶるぶる」
甘えた聲を上げながら、用にをくねらせてしでもとをれ合わせようとしている。さがならを鳴らす貓である。
この馬についてそれなり以上に詳しい自負のある小箕灘はある確信を抱いていた。
(マルッコ、お前調教中この子の事考えてたな?)
それでいいのかサタンマルッコ。
凱旋門賞馬、前代未聞、調教評価Eの最低評価で本番を迎える。
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浦トレーニングセンターWコース。
鹿の馬が鞭一発で発するように弾けた。
見守る記者団からおおっ、と唸るような歓聲が上がり、ストームライダーはそれらの前を一瞬にして橫切った。
見守る山中の口元に笑みが浮かぶ。
ストームライダーは呼吸を完全ににした。
あの、凍てついたラスト2ハロンはもうありえない。
「ダービーとは違いますよ」
調教後、集まった記者達に山中はそう口火を切った。
「天皇賞後も好調を維持しています。同じ府中ですし、かつては負けたダービーのコースとも言えるわけです。ここらで雪辱を晴らしておきたいところですね。
えぇ、厳しいレースになると思っていますよ。
けれど、そんなのこの時代に生まれた宿命みたいなものです。厳しい戦いだからこそ価値がある。勝利にも、敗北にもね。
時代が違えば七冠馬だなんて聲もよく聞きますが、看板だけ立派な馬なら私は惜しいとは思わないですね。この世代、この時代にライダーが生まれたことに謝しています」
躍抜群。ストームライダー王者へ挑む。
短め
ノリとしては寒いのになんか読んじゃう雑誌とかウェブ予想のああいう予想ネタ
次回更新は9/9 19時の予定です。
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