《たとえ夜を明かすのに幾億の剣戟が必要だとしても【Web版】(書籍版タイトル:幾億もの剣戟が黎明を告げる)》39◇雪華

『階段穿摑(かいだんせんかく)』

純白の粒子が舞い、杭の形をとる。

そして勢いよく飛んで行く。

魔力防壁に突き刺さる。

壊せはしない。分かっている。

雪華は次々と、段差を設けるようにして魔力防壁に刺さっていく。

『踏破』

ヤクモは杭に足を掛けた。

急速に広がる魔力防壁の表面を、突き刺さった杭を頼りに駆け上がる。

ヤクモが跳んだ直後に、その杭は粒子に戻ってヤクモの周囲をまた漂う。

「……形態変化し、自在にれる粒子、なのか」

トルマリンがヤクモを見上げながら呟いた。

そう。それが雪夜切・赫焉の追加武裝。

新たな魔法は得られない。得られたところで使えない。

刀だけでは兄を勝利に導けない。折れる刃であってはならない。

妹の思いが形になったのだと、ヤクモは思っている。

「ぷっ。形態変化だぁ?」「誰でも出來ることの延長じゃねぇか」「……いや、でもおかしいだろ。最初から出來るならやれって話だし、出來なかったなら……」「いやいや、殘飯処理係が黒點化とか有り得ねぇって」「でも、《黎き士》って例もあるし、あいつらはその弟子だって……」

評価が、割れ始めている。観客が、迷い始めている。

はたしてこのは、見下していいものかと。

くだらない。

『白翼』

トルマリンが魔力防壁を消した。

足場を失ったヤクモは落ちる――ことはない。

翼だ。

空を飛ぶことは出來ないが、空することは出來る。

空中できのとれないヤクモを狙ったトルマリンの魔力攻撃は、鳥のように宙を舞うヤクモには當たらない。

『小刀』

純白の小刀が左手に収まる。

ヤクモはそれを投擲。

トルマリンは新たな魔力防壁を展開し、これを弾いた。

魔力防壁の展開範囲が、先程のものよりも狹くなっている。

地面に降り立つ。

翼が粒子に戻る。

「……把握したよ。その粒子は君が念じる形をとるが、魔法にはならない。武や翼にはなっても、炎や魔力防壁にはならない。魔力ではなく……それは拡張されたアサヒのなのだな」

さすがに理解が早い。

答えず、駆ける。

「そして、粒子の分までしかものを創れない。ならば――」

剣、だった。

無數の、空を飛びう剣。

魔力をあそこまで凝し、自在にれるのか。

「手數で勝負するとしよう」

迫りくる無明の剣の群れに、駆けながら対応する。

必ずしも破壊する必要はない。小さな盾や剣を作り出し、こちらのに到達するより前に軌道を逸らす。綻びを衝ける場合は斬る。

接近するヤクモに向かって、トルマリンは魔力防壁の拡張を行った。

またしても、綻びは後方。

だが、ヤクモとトルマリンの位置関係は『踏破』から『白翼』の流れで先程までと逆になっている。

言い換えるなら、トルマリンの後方は、先程までヤクモの立っていた場所だ。

「――――こ、れはッ」

トルマリンの表が驚愕に染め上げられる。

直後に気づいたようだが、その頃にはヤクモはほとんど距離を詰めていた。

粒子を、殘しておいたのだ。

そして彼の魔力防壁の綻びが見えた後で、刃の形に変えて切り裂いた。

「最初から(、、、、)っ。君は、君たちは――まったく」

トルマリンは愉快げに微笑む。

空中を舞う剣の回転率が、更に上がった。

魔力防壁を再展開せず、ヤクモを粒子不足にさせることに集中したのだ。

やがて、粒子が盡きる。

全て何かに変えて剣を防いでいる狀況だ。

そこから更に、トルマリンは魔力攻撃を行える。

「いくら君でも、初めてだろう。作には慣れていない。まだ無駄が多い」

もしかすると、これは魔力作の覚に近いのかもしれない。

なるほど、ますますもってトルマリンの才能と努力が恐ろしくなる。

「アサヒ」

『いいんですか』

「あぁ――雪解(ゆきどけ)」

夜切が、溶けた。

純白の粒子となり、迫り來る魔力攻撃に対応する。

「――っ。そうか! 黒點化の能力は――」

白い粒子が、拡張されたアサヒのであることまでは合っていた。

ただそうであれば、雪夜切もまたそれによって形されているとも考えられる。

刀の分の粒子によって、対応は間に合った。

あと數歩。

「だがヤクモ! 君には最早武が無い!」

彼がロングソードを構える。

トルマリンのことだ、剣技も手を抜かず鍛えたことだろう。

徒手空拳で果たして勝てるか。彼はなくとも、勝つ気でいる。

そこが勝機だった。

踏み込む。

ロングソードがヤクモの左半に向かって斜めに振り下ろされる。

――見つけた、綻び。

ネフレンの大剣を斬ったように、あらゆるものには綻びがあり、ヤクモの目はそれを見抜く。

「いいや、マイカは拳では砕けない!」

ただの拳なら、そうだろう。

刃の側面・樋を毆りつけた。

魔力強化(、、、、)した右拳で。

「――――!?」

ヤクモはただの一度も、魔力強化が使えないと明言したことはない。

『魔力耐が低いので仮に魔力強化など行おうものなら管が破裂しが爛れてしまうだろう。』というのが、魔力強化を使わない理由。

戦場で腕が爛れようものなら、刀を握れない。一瞬の強化の為にそんな愚は犯せない。

だが、これは試合だ。

一対一の。模擬太の下、壁の側で行われる。

そしてこの狀況では、一瞬の強化が勝利に繋がる。

行うだけの、価値があるのだ。

彼のロングソードが折れ、そのことを予想もしていなかったトルマリンは代理負擔の苦痛を、そのけた。

マイカが人間の姿に戻る。

極度の集中を要する魔力攻撃は維持できなくなり、霧散。

それによってヤクモは粒子を引き戻し、雪夜切・赫焉を左手で摑み、膝から崩れ落ちる彼の首元へあてがった。

今から痛覚を切って再展開しようしようものなら、即座に首を刎ねられるという警告。

「…………あぁ、結局、わたしも他の人間と同じだったのだな。ヤマト民族だからと、君に魔力強化は出來ないだろうと無意識のに考えてしまっていた」

彼は、悔しそうに笑っていた。

マイカが彼に寄り添い、俯いている。

結局、彼は最後まで魔法を使わなかった。

だが、彼は本気でヤクモ達に勝とうとしていた。

そこに偽りは無いと分かる。

あぁ、だから答えは一つしかないのだ。

ヤクモはその真相に察しがついていた。

「トルマリン先輩、あなたは――」

「言わないでくれ、ヤクモ。勝者にけを求める無様を承知で、頼むよ」

トルマリンはそのまま審判の方へ向く。

「これ以上続ければ首が飛んでしまう。すなわち、わたしの負けだ」

う審判と観客を無視して、再度トルマリンが言うと、勝敗の判定が下された。

ランク七位《無謬公》トルマリン=ドルバイト

ランク四十位ヤクモ=トオミネ。

勝者、ヤクモ。

いや、正確にはヤクモとアサヒ。二人が勝者だ。

一回戦、突破。

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