謎解き復活です

白蓮は醫がった風呂敷を片手に桜奏(オウソウ)宮に向かっている。

普段だったら朱閣宮に往診に行く時間だけれど、出掛けに侍が訪ねて來て、同僚が足を痛めたので見てしいと言ってきた。ちょうど他の醫が出払っていて、醫局には韋弦(イゲン)と白蓮しかいなかったので、白連が向かうことになった。

「申し訳ありません。醫様に來ていただくなんて」

「足を怪我してけないのですから仕方ありません。ところで怪我をしたのは昨晩と聞きましたが」

道中、呼びに來た侍が詳しく教えてくれる。

「はい、彼が言うには、寢る前に以前親しくしていた人から頂いた簪がないこと気づいたそうです。朝になってから探しに行こうかと思ったようですが、誰かに先に見つけられるかもと思い夜にこっそり探しに出たようなのですが……」

そこまで話すと、侍は急に口ごもった。

「どうしたのですか？」

怪訝な顔で問い返す白蓮に、侍は慌てて首を振った。

「いえ、それで……探している最中にし驚いたようで、転んで足を捻挫してしまいました。一晩冷やしていたようですが、朝になっても腫れが治まらず、こうして來ていただくことになった次第です」

會話に々ひっかかるものをじながらも、白蓮は案されるまま桜奏宮の奧にある侍の部屋にっていった。

そこで待ってたのは、予想だにしなかった意外な再會だった。

その夜、こっそり部屋を抜け出して朱閣宮へ向かった。途中、蔵書宮を通るとき窓を覗いて明かりがないか確認するのも忘れてはいない。

朱閣宮の門を叩くと明渓が出迎えてくれた。

この宮の人間は比較的眠るのが速い。い公主がいるせいだろうか、それとも仲の良い主人達に気を遣っての事だろうか、侍も早くに自室に戻ることが多い。

「白蓮様、珍しいですね、こんな時間に。東宮は先程寢室に向かわれましたが、いかがいたしましょうか？」

「東宮に用事があるわけではない。良かった、明渓がまだ起きていて。し聞いてしい話があるんだ」

白蓮が最後まで言い終わらないうちに、剣呑な雰囲気が二人の間に流れた。

発しているのはもちろん明渓だ。全のを逆立てるようにして白蓮を威嚇している。

とはいえ、暫く逡巡したのち、玄関口で皇族を帰すわけには行かないと諦めたようで、渋々宮に案した。

白蓮が部屋にると、奧の長椅子に座る男と目が合った。二人同時にこめかみがピクリとく。しかし、椅子に座る丈夫はすぐにいつもの表に戻ると、弟に話しかけた。

「珍しいな、ここで會うとは」

「はい、いらしていたのですね」

見れば椅子の前に置かれた機には、琥珀のがった瓶と玻璃製の杯が三つ並んでいる。そのうちの一つは空だった。

「東宮と明渓の三人で呑んでいたのですか？」

「そうだ。空燕(コンイェン)の所からくすねてきた酒で一杯やっていたのだ。お前も飲むか？」

だったら東宮が寢室にったら、さっさと自分の宮に戻れ、と言いたいところをグッとこらえる。

「いえ、私は酒はやめておきます」

白蓮がそう言うよりも速く、明渓はお茶をれたを持ってきた。もとよりこの場で酒を飲ますつもりはないようだ。

そのお茶を青周の隣の席に置く。

青周の前の席にも琥珀のがった杯が置いてあり、そこが明渓が先程まで座っていた場所だった。

白蓮はお茶を持つと明渓の隣の席に移る。

明渓はそれを呆れたように見ながらも、先程まで座っていた場所に腰を下ろした。

「それで、私に話とは何でしょうか」

通常は侍から口を開くことはないし、明渓もこの二人以外にこんな態度はとらない。ただ、この二人といる時は例外だといつの間にかなっていた。

「新しい『暁華(シャオカ)皇后の呪詛』の話が出た。しかもどうやらこれが一番始めに起きたの呪詛のようだ」

明渓は思わず青周を見る。

暁華皇后は青周の母親だ。呪詛と言われて気を悪くするのではと一抹の不安がをよぎった。

しかし、青周は気にも止めずに杯を傾けている。

その様子を見てほっとしつつ、白蓮にピシャリと言い放った。

「そうですか、でも別に良いのではありませんか。どんな噂が立っても。私には関係のないことです」

明渓としてみれば、頑張って呪詛の謎を解いても噂はなくならない。しかも、割れた白水晶や蔵書宮の幽霊も全て『暁華皇后の呪詛』としてすでに後宮に話が広まってしまっている。

今更どうしようもないし、むしろ呪詛となっている方が蔵書宮に行きやすいとさえ思える。

だから、自分にはもう関係のないと話だと、飲み掛けの酒に口をつけた。

「……その『呪詛』の話をしたのが、珠欄(シュラン)だったとしてもか？」

その名前を聞いて明渓の手が止まる。

後宮にいたころ親しくしていたい侍の名前だった。別れる前に魅音(ミオン)に頼んで簪を贈ったことを思い出す。

「どうして珠欄が後宮に？　彼は主と一緒に後宮を離れたはずじゃなかったの？」

「一度は離れて実家に帰ったらしい。でも以前の主人の友人がする事になり、後宮で働いた経験のある侍を探していたそうだ。珠欄も次に働く場所を探していたので渡りに船とばかりに話をけ、後宮に戻ってきたらしい。なぁ、會いたくないか？」

會いたくないかと聞かれれば、會いたいに決まっている。

明渓の反応を見て白蓮はほくそ笑んだ。しかし、予想外の反応が思わぬところからも出てきた。

「なんだか面白そうだな。その謎解き、俺も加わろう」

向かいの丈夫が、形の良いの端を上げて笑っている。

「いや、そんな。青周様が気にされるような話ではございません」

白蓮は慌てて顔の前で手を振るが、

「俺だけ謎解きの現場に立ち會えていないのでな。どんなふうにして明渓が解いていくかに興味があるのだ。それに俺の母親の呪詛だ、十分に関係はある」

そう言われると、言い返す言葉が出てこない。白蓮は口をへの字に曲げながら分かりましたと呟いた。

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