《【書籍化決定】読家、日々是好日〜慎ましく、天無に後宮を駆け抜けます〜》23.啜り泣きの正 2
次の日の夜、白蓮と珠欄(シュラン)は桜奏(オウソウ)宮からし離れた場所にある涸れた井戸の傍にいた。雪がし舞い始めた寒い夜だった。
暫くすると北の方からこちらに向かう人影が二つ。明渓と青周だ。珠欄は、先に聞いてはいたものの間近で見る皇族に全がこわばっている。
「珠欄!」
名前を呼び明渓が駆け寄ってきた。
いつもの侍の服の上に見たこともない黒い外套を著ている。風にひらりと舞う外套の側は深い赤で、どちらのを表にしても著られるようになっている中々灑落ただった。
久々の明渓との再會に喜ぶ朱蘭が落ち著くのを待って、白蓮は下級賓の間で話題になっている話について語り始めた。
話は今から二ヶ月以上も前に遡る。
丁度その頃、四人の新しい嬪がした。全員下級嬪だったので、後宮の南東にある宮がそれぞれに與えられた。
始めにそれを見たのは、四人の中で一番北側の宮に仕えている侍だった。
蟲の聲が心地よいので窓を開けていると、闇夜に浮かぶ人影が目にった。それは宮の前を通り過ぎそのまま南の方へと向かって行ったらしい。背中にぞくっとするものをじ慌てて窓を閉め、布団を頭から被り眠りについた。その日以降は日が沈むとすぐに窓掛け(カーテン)を閉めるようになったので、人影を見たのは一度切りだそうだ。
次に怪異に遭ったのは、四人の中で一番西側の宮に仕えている侍だった。
北の方から歩いて來た人影が南に向かうのを見たらしい。しかし、その侍はなかなか肝が據わっていたようで、幽霊とは思わず、どこかの妃賓か侍が會を重ねているのではないかと考えた。
生き馬の目を抜く後宮で、彼はその正を暴こうと考えた。夜になると急に冷え込む季節になっていたけれど、侍は宮の前に隠れその人影が通りすぎるのを待っていた。
果たしてその幽霊は現れ、いつものように南へと向かって行く。侍は足音を立てぬよう後を付けていった。
しかし、何もない空き地の辺りでその人影は忽然と消えてしまった。
次に怪異に遭ったのは、四人の中で一番南側の宮に仕えている侍だった。
強く冷たい風が吹き抜け本格的な冬が始まった頃、のすすり泣くような聲がどこからとなく聞こえるようになった。數日に一回程度なので始めは空耳かと思ったけれど、確かにその聲はすすり泣きに聞こえる。
聲は夜通し聞こえる訳ではないので、布団を頭から被り、耳を塞ぎ夜をやり過ごしているらしい。
そして最後に昨晩、四人の中で一番東側にある桜奏宮の侍が、何やらささやくの聲を聞いたという。
侍は大事な簪を落としたことに気づき、宮の周りを探していところ偶然その聲を耳にした。そしてびっくりして慌てて走り去ろうとして足を捻挫した。
その侍こそが珠欄だった。
「はい、醫様、質問があります」
小さく片手を挙げたのは明渓だった。
だからと言って、決してやる気になっているわけではない。むしろ、もうどうにでもなれと自暴自棄になっているだけだった。
「今、後宮では『暁華皇后の呪詛』が話題になっていますが、二ヶ月も前から始まってるこの怪異が噂になっていないのはどうしてですか?」
「それはこれらの怪異を見たのが、たまたま最近した嬪の侍達だからだよ。彼達はまだ後宮に來て間もないから、噂話をするほど他宮の侍と親しくしていない。中には同僚や主人にさえ話していない侍もいたぐらいだ」
醫は數日おきに各宮を往診に行く。
特に何もない場合は、玄関先で言葉をわし帰ることも多いがそれも仕事の一つではある。
白蓮は今朝この辺りの宮の往診を買って出て、侍や賓から話を聞き出していたのだ。
「侍達の話をまとめると、幽霊は南の方に向かったのよね。そして聲が聞こえた場所は南側と東側の二か所。……そうね、とりあえず白い影が消えた辺りに行ってみない?」
不承不承ながら明渓が提案し、四人はそちらに向かっていった。
その場所は確かに空き地だった。
きれいに整備されている後宮では珍しく、ぽっかりとそこだけ何もない空間が広がっていた。
その空き地の向こうには古びた小さな蔵があった。
「ここが消えた場所か……これは『皇后の呪詛』に相応し場所かもな」
ぼそりと呟いた青周を皆が一斉に振り返った。
「青周様、それはどういう事ですか?」
白蓮が問いかける。
他の二人も意味が分からないといった風に首を傾げた。それを見て意外そうな顔をしたのは青周の方だった。
「お前たち知らないのか? ここに昔何があったかを」
こくこくと首を縦に振る三人。青周はあきれ果てた顔で白蓮を見下ろす。
「よもやお前まで知らないとは……、まぁ、よい。順を追って話してやろう。そもそも後宮が出來たときここは洗濯場だったんだ。しかし何十年か前に井戸の水が時々涸れるようになった。丁度同じ頃、後宮を西の方に広げるという話が出てきたんだ。それならばと、ついでに西側に何か所かを掘ると水が湧いてきて、使えそうな井戸がいくつか出きた。それで拡張工事とともに洗濯場も移転したのだ。いくら井戸が涸れたといっても、ほかの場所に比べれば気が溜まりやすいこの場所には、下級嬪の宮とあれ(・・)が作られることになった」
そう言って、空き地の向こう側に建つ小さな蔵を指さした。その指の先を目で追いながら、明渓が問いかける。
「あれは何でしょうか?」
白い息がはっきりと見てとれた。寒いのか、手をり合わせているその様子を見て、青周は手袋も贈ればよかったとし後悔する。
「あれは、罪を犯した者が一時的にれられていた牢舎(ろうしゃ)だ。もう古くなってしまったので、今は使われていないし、扉は鎖で固く閉ざしている」
その代わり今は後宮にある塔が使われている。
明渓も居た事があるあの塔がそうだ。
「皇后によって真偽が分からぬ罪を被された者も多くあの牢舎にっただろう。それだけじゃない、皇后自もった事がある。噂には打って付けの場所だろう?」
自嘲気味に言うその口調からは、が読み取れない。ただ白い月明かりに照らされるその橫顔は、草臥(くたびれ)ているようにも無関心のようにも見えた。
そのまま半刻(一時間)程、広場や牢舎の周りを歩いてみたが、不審な人影も音も聞こえなかった。その、散らついていた雪が本降りとなってきたので、五人はそれぞれの宮に戻って行った。
後宮の地図作ろうかな。書いていて何処に何があったか分からなくなる時があります。
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