「うぐ……っ、う、うぐっ」

泣きべそをかきながら僕はダンジョンを歩いていた。

さっきまで狼(コボルト)に追われて、やっと振り切ることができたばかりだった。

モンスターを倒せない僕が、わざわざダンジョンに來たのはちゃんとした理由がある。

普通、冒険者がお金を稼ぐにはモンスターを倒す必要がある。というのもモンスターを倒せば、ドロップアイテムが手にりそれを換金できるからだ。

じゃあ、モンスターを倒せない僕はどうやってお金を稼ぐつもりかというと、稀ではあるがダンジョンには寶箱が転がっていることがある。

寶箱の中にはいっているアイテムは貴重なため、換金すればそこそこのお金になる。

そう、僕は寶箱を探しながらダンジョンを探索しているわけである。

「全然、見つからない……」

僕はそう呟く。

寶箱は非常に貴重なものだ。

それに、このファッシルダンジョンでは寶箱が見つかる可能はほとんどないと言われている。

このファッシルダンジョンは、多くの冒険者たちが出りしているため、道中に落ちている寶箱はすべて取られた後だとされていた。

もうし難易度が高いダンジョンなら寶箱が見つかる可能も高くなるが、恐らくこれ以上難易度の高いダンジョンに潛ったら、モンスターに殺されるのがオチだ。

狼(コボルト)しか出てこないダンジョンだから、僕は逃げ続けながらもなんとか探索ができている。

もし僕が死ねば、家で眠っている妹も死ぬことになる。

だから危険な賭けはできない。

「だからって、なんで本當になんにも見つからないのさぁあああああああっ！」

結果、なにも見つからなかったので泣いた。

僕はどこにいるかというと、ボスの部屋の手前まで辿り著いてしまったわけだ。

「ここまでがんばってきたのに……」

途中、何ものの狼(コボルト)と遭遇したが、全部逃げることに功していた。

だというのに、寶箱を見つけることができなかった。

「今日食べるご飯すらないのに、どうしよう……」

その場でしゃがんで泣きべそをかく。

まさかボスの部屋にるわけにはいかない。

もし、部屋にったら、ボスを倒すまで部屋から出ることは許されない。それが、ダンジョンのルールだ。

攻撃手段のない僕がったら、それは自殺行為と一緒。

「仕方ない、來た道を戻ろう」

ここまで無傷でこれたんだ。

僕ならファッシルダンジョンを抜けることはそう難しいことではないはず。

「ウォオオオン！」

狼(コボルト)の咆哮が奧から聞こえた。

恐らく僕のいるところまで狼(コボルト)がやってきたのだろう。

とはいえ脅威にはじなかった。

これまでのように逃げればいいのだから。

「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」「ウォオオオン！」

「――う、うそでしょ！？」

複數の狼(コボルト)が共鳴しあうかのように鳴き聲をあげていた。

気がついたときには、すでに手遅れ。

何十ものの狼(コボルト)が群れをなしたかのように、僕に襲ってきたのだ。

まさか、ここまで僕を追ってきたのか……っ。

「うわぁあああ、どうしよう……！？」

確かに、道中、たくさんの狼(コボルト)から遭遇しては逃げ切っていた。てっきり僕は行方をくらますことに功していると思っていたのに！

まさか、今まで遭遇していたすべての狼(コボルト)たちが、執拗に僕のことを追いかけてきたとは！

恐らく、數え切れないほどの狼(コボルト)たちがここまでやってくる。

「「「「グルルルルルルッッッ！！！」」」」

気がつけば、大勢の狼(コボルト)たちが僕の逃げ道を塞ぐかのようにひしめき合っていた。

真後ろはボスの部屋へ続く扉が僕の逃げ道を塞いでいる。

「あ、あ……あぅ」

「「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアア！！」」

息を合わせたかのように狼(コボルト)たちが同時に襲いかかってくる。

死んだ。

これは絶対に死んだ。

一瞬、そんな予が頭を過ぎる。

いや、死ぬわけにいかないッッッ！！！

僕には養わなきゃいけない妹がいるんだッッッ！！！

「〈回避〉！」

僕はがはち切れるんじゃないかという思いで、んだ。

そして、僕の唯一のスキルかつ最弱のスキルを発させた。

瞬間、全方位から襲いかかってくる狼(コボルト)たちの攻撃を避けようと、が勝手にき出す。

〈回避〉というスキルは、攻撃を避けるための最善の行を自で行なってくれるというもの。さらに、がくスピードも一瞬ではあるが速くなるというおまけ付きだ。

〈回避〉が絶絶命のピンチから生き殘るためにした判斷。

それは、非常にあっけないものだった。

結果は、僕のがただ真後ろへと下がっただけだった。

真後ろにはボスが待ちけていることを〈回避〉は考慮してくれなかったというわけだ。

「やっぱり最弱のスキルじゃないかぁあああああああ！！」

僕は思わずぶ。

すでに、扉は閉まりボスの部屋に閉じ込められている。

道中のモンスターはボスの部屋にはってこないため、狼(コボルト)たちの攻撃は避けられたということになる。

「グォオオオオオオオッッッ！！」

真後ろから雄びが聞こえる。

そこにはファッシルダンジョンの主が待ちけていた。

人狼(ウェアウルフ)。

二メートル以上の巨が僕のことを見下ろしていた。

このボスを倒せない限り、この部屋から出ることはできない。

攻撃手段がない僕にとってそれは絶絶命としか言いようがなかった。

「うそでしょぉおおおおおおおおおおお！！」

僕の絶が木霊した。