《最弱な僕は<壁抜けバグ>でり上がる ~壁をすり抜けたら、初回クリア報酬を無限回収できました!~【書籍化】》―37― 影との決著!!
「〈回避〉!」
迫ってきた影に対し、僕はスキルを発させる。
を一瞬、加速させ影の攻撃をさける。
そのまま僕はできる限り、遠くに逃げるよう地面を蹴る。
「あんたレベル1でしょ! なんで、こんなに速いのよ!?」
両腕で抱えているオーロイアさんが困していた。
僕の速さを伝えるなら、壁抜けのことまで伝えなきゃいけないが、あまり人には話したくない。それに、今の僕はレベル5だ。けど、そんなことは今、どうだってよかった。
「そんなことより、あれに対する対抗策を考えないと」
追ってくる影を目にそうぶ。
オーロイアさんも「それもそうね」と表を固くした。
「あなたなら、なんとかできないの?」
僕の足の速さを見てなんとかできるのでは、と彼は思ったのだろう。
だが、殘念ながら僕にはあれに対する対抗手段はない。今の僕は狼(コボルト)や子鬼(ゴブリン)に攻撃を與えるのでやっとなんだから。
いや、待てよ。甲冑にを包んでいた無人の駆騎士(リビングメイル)と違い、目の前の影には高い耐久値があるとは思えない。やってみる価値はあるか?
オーロイアさんを一度腕からおろし、僕は影へと突撃する。
「〈回避〉!」
迫ってくる影の攻撃を寸前でスキルを使ってかわし、攻撃の後にできた隙を狙ってナイフを振る舞う。
ガキンッ! とナイフが弾かれた。
やっぱ駄目だったかと判斷し距離をとる。
「オーロイアさん、さっきの巨大な火の魔法はうてないの?」
「無理よ。もうMPが足りないわ」
「それなら僕が引きつけている間にMP回復薬を飲めば」
「飲んだところで回復するのに時間がかかる。それにうてたところで當てる自信がない!」
と、會話の最中、斧を振り下げた影が軽快な足取りで突撃してくる。
「〈回避〉」
僕はオーロイアさんを再び両手で抱えて、それから〈回避〉を発させる。
「他に、使えそうな魔法はないの?」
影から距離をとりながら、僕は腕にいる彼に話しかける。
「……とりあえず、やってみるわ!」
頷いたオーロイアは杖を突き出し、呪文を口にする。
「〈火の球(ファイアボール)〉!!」
火の球が発される。
けれど、影は容易くよける。
それから、何度もオーロイアさんは〈火の球(ファイアボール)〉を撃つが、一向に影に當たる気配がない。
「申し訳ないけど、當たる気がしない! 正直、敵のきが速すぎて目で追うのも難しいし。逆に、あなたはちゃんと見えているわけ?」
影のきは僕には見えている。敏捷が高いおかげで、視力も高くなっているのだろう。
「倒すのは難しいか……」
「アンリ、ごめんなさい。あなたをこんなことに巻き込んでしまって。まさか、こんなにも強いモンスターがいるなんて想像もしなかった」
オーロイアさんが申し訳なさそうに謝罪する。確かに、オーロイアさんが「ついてこい」と言わなければ、こんなモンスターを相手にすることはなかった。けれど、それはオーロイアさんが僕を助けようとしてくれた結果なのを理解しているから、怒るつもりにはなれない。
「そんなことより、ここから生き殘ることを考えないと……」
「そんな方法あるの?」
オーロイアさんの疑問に僕はすぐ答えられなかった。
いつものボスなら、報酬エリアに接している壁をすり抜けたらボスを倒さずとも生還できる。
けど、ここは転移トラップで飛ばされた隠しボスの部屋だ。扉のようなものはどこにも見當たらず、他の部屋と繋がっているとは思えない。
もし、どこの部屋とも繋がっていない壁をすり抜けたら、死ぬ可能が高い。
「エレレート、僕はどうしたらいい?」
無意識のうちに妹に語りかけていた。隣にいるオーロイアさんはなにを言ってるんだろう、と思ったことだろう。
僕が死んだら、家で眠っているままの妹も死ぬ。だから、安々と自分の命を投げ捨てるようなことはしたくない。
嫌な汗が頬をつたう。
最悪の事態を想像してしまったからだ。
だけど、このままなにもしないよりはマシだ!
「オーロイアさん、僕に命をあずけてくれる?」
「……なにか策があるってこと?」
「うん、でも失敗する可能のほうが高いと思う」
正直に言わないと公平でない気がしたので、あえてそう言う。
「構わないわ。どうせ、このままなにもしなかったら死ぬだけだし」
それでもオーロイアさんは僕の話に乗ってくれた。
「防できるスキルはある?」
「あるわ。けど、攻撃を完璧に耐えれるかはわからない」
「それでも大丈夫。僕の言ったタイミングでスキルの発をお願い」
「わかったわ」
オーロイアさんは理由も聞かずに頷いてくれる。
だから思わず――
「僕を信じてくれてありがとう」
と、言った。
「ふぇ? い、いきなりお禮とかやめてよね。恥ずかしいじゃない」
なぜかオーロイアが顔を赤らめて不平を口にしていた。
なんで、そんな顔をするのか僕には見當もつかないけど。
「えっと、ごめんなさい……」
「別に謝ってほしいわけじゃない」
オーロイアは口を尖らせる。どうやら謝ったのは間違いだったらしい。
「そろそろ、準備お願い」
と、僕はお願いする。
するとオーロイアさんは「わかったわ」と頷いて真剣な表になった。
僕は今、彼を両腕で抱えながら影から逃げ回っていた。影と僕のスピードはほぼ互角。逃げ続けているが、差は一向に変わる気配はない。
そして、オーロイアさんは詠唱をしていた。魔法の準備をしているのだろう。
「今だ!」
オーロイアさんの準備が終わったのを見計らって、僕はぶ。
それと同時に、僕はその場に反転し壁に背をつけるようにして停止する。
立ち止まった僕に影が一瞬で距離を詰める。
「〈防陣(デフェンサー)〉!!」
オーロイアさんが杖を手前にしてぶ。
すると、の魔法陣が展開される。影は〈防陣(デフェンサー)〉に阻まれるも勢いをとめることなく突き進んでくる。
パリン、と〈防陣(デフェンサー)〉が割れた。
それと同時に、僕らは壁に押し潰される。
「〈回避〉!」
水に呑まれるかのように、僕のは後ろに倒れる。
壁抜けは功した。
だけど、安堵はできない。
壁の向こう側には未知の世界が広がっているのだから――。
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