《【書籍化】隻眼・隻腕・隻腳の魔師~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔の探求をしたいだけなのに~》17
ライカたちブランディ家の騎士と盜賊及びコルベッリとの衝突は、終わってしまえば、ブランディ家の圧勝となった。というのも、エインズのポーションと、エインズの魔によってコルベッリが討取られたことが大きい。
盜賊側は、騎士たちの手によって処分された者、エインズの魔によって命を落とした者、合わせた全てが骸となった。
コルベッリについては、魔法結社『次代の明星』の一員ということもあり、今はエインズの魔法によって眠りにつかされており、そのは騎士が監視する馬車の中にあった。
複數臺で連なる馬車の先頭から二臺目にライカとエインズ、ソフィアが著席していた。
「でも、本當によかったの? 僕たちは別に歩いてもよかったんだけど」
田舎道を走り、その馬車の揺れにし気持ち悪さを覚えながらエインズがライカに尋ねる。
「いいわよ。行き先は王都で一緒なんだし。それに何から何まで助けてもらった恩人だわ。このままエインズを放置してたら騎士たちになんて言われるか分からないわ」
ライカだけではない。ブランディ家騎士たちもコルベッリを下したエインズに恩をじている。それになにより、彼らが直接使用したエインズ製のポーションである。あれがなければ命を落としていた者や、の欠損により今後の職や生活に苦労する者もいただろう。
そんなポーションを無償で分けてもらった恩人を、彼らの主君であるライカが馬車に乗せなかったとしても、彼ら自が手を差しべただろう。
そしてそのままライカへの不信につながってしまう。
「(まあ、間違っても私もそんな恩を仇で返すようなことはしないけどね)」
ライカは騎士たちの思いも理解しながら苦笑いを浮かべた。
「それは正直助かるよ。本當は途中のどこか村に泊まろうかと考えてたんだけど、ごたごたが続いて時間を食ってしまって、野宿も覚悟してたからね」
エインズは空の右袖を左手で握りながら、
「ほら、僕ってこんな腕でしょ? だからあんまり料理って得意じゃないんだよね。……ソフィアも得意じゃなさそうだよね」
「エインズ様? どうして當然のように私が料理できないと思うのですか?」
「だって、喪なんでしょ??」
「……なっ。だから、私はっ」
一瞬にしてソフィアの顔が真っ赤に茹で上がる。
涼しい眼差しで、リンとした雰囲気を持っていたソフィアのそんな意外な姿を見て、ライカは銀雪騎士団の騎士であっても人間なんだな、と思わず口角が上がってしまう。
「……さっきから、ライカ様も失禮な方ですね。私の料理の腕前を知らないでしょう」
「それじゃあ、得意なの?」
「それはっ。……まあ、生まれてこの方、剣に生きてきたものですから料理をしたことはありませんが……」
後半につれソフィアの聲量が小さくなっていく。
「ちなみに私は人並みにはできるわよ?」
「っ!? ライカ様、なぜ私にマウントを取るような発言をするのですか。私だってし習えば簡単にマスターできます。剣も包丁も同じ刃です。刃の扱いに関してはライカ様には負けません」
ふんっ、とを張るソフィアを橫目にエインズがる。
「いやー、マルチタスクをこなせなさそうなんだよね。あと、力加減もできなさそう」
「エインズ様の中での私の評価はどうなっているのですか……」
がっくりと肩を落として落ち込むソフィア。
ライカもそれには思わず聲を出して笑った。
「それにしてもエインズ、あなたすごい魔師なのね! まだあんまり魔法と魔の違いが分かってないけど、それでもさっきの戦い方を見てて恐怖を覚えるほどだったわ!」
「そうかな? あれくらいの魔法なら優秀な魔法士ならできるものだけどね。まあ、それでも一応自信はあるかな」
褒められることに慣れていないのか、エインズは照れた様子を見せる。
「コルベッリが自分で言ってた拘束魔というのは、結局エインズのいうところの『魔法』だったってことなのよね?」
「そうだね。あれは、魔法だね」
「魔というのが、えっと、自然界の摂理から外れたをもって世界に干渉するってことなんだよね? ということは、魔法っていうのが、」
「自然界の現象や法則を自らが持つ魔力の放出によって発現させることだね。僕がコルベッリに使った『則事項』も魔法だよ」
なるほど、なんとなくエインズが使い分けていた魔法と魔について分かってきたライカ。
「でもエインズのその魔法、無敵じゃない! あんな、きを完全に支配するなんて卑怯よ」
コルベッリの魔法は「損得の助長」によるもの。しかし、エインズの魔法は完全な作の止を示していた。
「いや、あれもそんなに効率のいいものではないね。『則事項』の由來は宗教における教祖と、その教祖に畏怖と敬意を持って教えを信じて疑わない熱狂的信者の関係なんだよね」
エインズは流れゆく外の風景を窓越しに眺めながら続ける。
「だから魔法の対象者には、畏怖と敬意を覚えさせないといけない。初対面の人間にその二つを覚え込ませるなんてなかなか難しいでしょう? 僕の場合は、コルベッリの知らない魔法で彼の火槍と拘束魔法を打ち消したことが鍵となったけど」
萬能な魔法なんてないからね、とエインズは結んだ。
「なるほどね。私も魔法の勉強途中だけど、全然知らなかった。もっと勉強しないとだね」
「えっ? ライカって剣士じゃなかったの?」
「違うわよ。一応指揮をする以上、帯剣してるけど魔法士志よ。もうすぐ魔學院の試験も控えてるし」
「あっ、だから魔學院に関して融通が利くって言ってたのか」
「そう。一応、侯爵家の娘だからね。私が通うとなるとなんとかしてくれると思うわ」
「さっすが貴族様だね。そのコネと権力には田舎者の僕なんかではまったく頭が上がらないね!」
「……なんだかあくどい貴族みたいな言われで、もやっとするわね」
「いいや、褒めてるよ! 僕が手にれられないものを持ってるんだからね!」
「なんか腑に落ちないわね」
にこやかに、それこそ本心から褒めているエインズと対照的にライカは眉を寄せながら首を傾げる。
「おっと!」
ある程度大きさのある石に車が乗ったのか車が大きく揺れ、エインズは橫に座るソフィアにもたれかかる。
もたれかかってきたエインズの肩を手で押さえ、真っすぐに戻すソフィア。
「そういえば、エインズ様。あのを抱えていた年はどうなされたのですか? 私共に合流なさる前に年となにかなさっていたと思いますが。……は助かったのでしょうか?」
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