「それじゃ、私が先にるから。大丈夫そうだったら合図送るから、そしたらってきて」

妹の制裁から生還した俺は無事に自分の部屋までたどり著くことができた。

「えっと、これとこれは必要だな」

俺は実験道をカバンの中に詰めていく。

「そんなガラクタ、なにに使うのよ」

ふむ、妹にはこれらがガラクタにしか見えないのか。

「崇高な魔の実験に使うんだよ」

「呆れた。まだ魔を諦めてなかったの？　お兄ちゃんには魔力がないんだからどうしたって魔師にはなれないのに」

中々理解してもらえないものだ。

まぁ、俺の歩いている道は険しい道だ。常人に理解されないのも仕方がない。

「せっかくだし、これも持っていくか」

俺が手にしていたのは魔導書である。

魔導書は荷になるため置いていこうと考えていたが、一冊ぐらいお守り代わりのつもりで持っていくことにしよう。

「ホントお兄ちゃん魔導書好きよね」

「この魔導書は特別な魔導書なんだよ。もしかしてしいのか？」

「いらないわよ。読めないし」

俺が手にしているのは俺の魔導書コレクションの中で最も貴重な一冊。

魔師の祖、賢者パラケルススが書いた七巻ある原書シリーズの一冊。

しかも現代語に翻訳されていない古代語で書かれたものだ。

見るからに古い時代に書かれたものなので、ほころびがあちこちにある。

「古代語読める人なんてお兄ちゃんぐらいよ」

「學校にもいないのか？」

「先生でも読めないわよ。別に読める必要なんてないし」

「そうか？　現代語に翻訳されたものより古代語で読んだほうがより理解が深まると思うがな」

「魔師でないお兄ちゃんが言っても説得力ないわよ」

ふむ、そういうものか。

と、そうだ。

俺はある考えに至った。

火には空気が必要なのを俺は実験にて証明したわけだが、〈火の弾(ファイア・ボール)〉の場合はどうなんだろうか？

せっかく妹がいるし、今のうちに検証しておきたい。

「なぁ、このガラス瓶の中に〈火の弾(ファイア・ボール)〉を作ってくれないか」

蓋をしたガラス瓶を見せて、妹にお願いする。

「はぁ？　なんのために」

「魔の実験のためだ」

「いや、意味わかんないし」

「お兄ちゃんの一生のお願いだ！　聞いてくれ」

「まぁ、別にいいけど……」

なんだかんだ妹は俺の言うことを素直に聞いてくれる。

いい妹を持ったな。

お兄ちゃんで泣きそうだ。

「〈火の弾(ファイア・ボール)〉」

そう言うと、プロセルの左手の先に魔法陣が浮かび上がる。

すると、ガラス瓶の中に〈火の弾(ファイア・ボール)〉が発現した。

「もう一つ、同様の〈火の弾(ファイア・ボール)〉をガラス瓶の外に作ってくれないか」

「……わかったわよ。やればいいんでしょ」

そう言って、プロセルはガラス瓶の外にも〈火の弾(ファイア・ボール)〉を作る。

「そしたら2つとも限界まで維持し続けてくれ」

さて、俺の予想では閉された〈火の弾(ファイア・ボール)〉の方が先に消えるはずだが、どうなる？

「ねぇ、これいつまで続ければいいの？」

５分ぐらい経っただろうか。

どちらの〈火の弾(ファイア・ボール)〉も消える気配がない。

「なぁ、どっちにも魔力を送り続けているんだよな」

「うん、そうだけど」

「どっちかの〈火の弾(ファイア・ボール)〉の維持が難しいとかないか？」

「別に変わらないけど」

おかしい。

俺の見立てでは、この２つにはなんらかの差がつくはずだか。

「あぁ、もう限界！」

そう言ってプロセルは２つの〈火の弾(ファイア・ボール)〉を消した。

閉されたほうも、そうでない〈火の弾(ファイア・ボール)〉も同時に消える。

「なぁ、もう一度ガラス瓶の中に〈火の弾(ファイア・ボール)〉を作れないか？」

「えー、嫌よ。疲れるもん」

「別にさっきみたいに維持する必要はないからさ。〈火の弾(ファイア・ボール)〉ができたのを確認したらすぐ消していい」

「えー、どっちにしろし休憩させて」

そう言って、妹はぐでーとベッドに寢転がる。

そこは俺が使っていたベッドだ。

まぁ、魔力の消費には力を使うらしいから、仕方ないか。

ふと、俺はある実験を思いつく。せっかくだし妹が休憩している間にやってしまおう。