「金が盡きた……」

ある晝下がりのことだった。

俺は自室のベッドで呆然としていた。

ぐぅ～とお腹が鳴る。

ここ５日ぐらいなにも食べていない。

それでいざ、食べを買おうと財布を見たら、金が一銭もなかった。

家を追い出されて、２ヶ月が経とうとしていた。

魔が功してから、新しい魔の開発や科學的な実験を次々と行ってきた。

それらに必要な道を揃えたりして々お金を使いすぎてしまったわけだ。

別に後悔はしていない。

だが、困っているのは事実だ。

こうなったら本屋の店主に頼るしかないか。

「よぉ、アベル。例の本の件どうなった。容わかったか？」

本屋の店主に言うと開口一番、そう言われる。

そういえば、そんな話だったな。

すっかり忘れていた。

「て、店主、うぐ……」

俺は地面に倒れた。

もうお腹が空きすぎて限界だった。

「はっはっはっ、アベルが腹減って倒れるとはな！　おもしろいこともあるもんだ！」

俺は店の片隅で、ご飯を食べていた。

店主に奢ってもらったのだ。

「ホント、ありがとうございます」

そう言いながら、俺は恐で肩を丸めてしまう。

「別にいいってもんよ！　けど、なんで腹なんて空かしたんだ？」

飯を奢ってもらったんだ事を話さないのは失禮だろうと思い、俺はこれまでの経緯を話すことにした。

「まぁ、いつまでも親のスネかじって生きていくわけにいかないしなぁ」

説明を終えると、店主は父さんの考えにも一定の理解を示したようだった。

俺としては魔の研究で生計を立てるつもりではあったんだけどな。

「だったら、うちで働いてみないか！」

と、店主から提案される。

「アベルの魔導書の知識量が半端ないのは知っているからな。うちでも魔師相手に魔導書を売る機會は多い。俺だとどうしても魔の知識がないからやりづらくてよ。アベルならその點安心できる！　まぁ、働いてもらうなら魔導書以外の本に関する知識もつけてもらわないと困るがな」

「なるほど……」

確かに悪くない提案だと思う。

この俺が働くとするならば本屋以上に適した場所もないだろう。それに店主とは気心知れた仲だ。店主が頼りになる人なのは俺が一番知っている。

「けど、遠慮しておきます」

「お、おい！　なんで斷るんだ？　他にやりたい仕事があるのか？」

「俺にはやらなきゃいけないことがあるので」

「やらなきゃいけないことって……」

店主はそう言うと、「ふぅ」と肩でため息をついた。やらなきゃいけないことがなにか、すぐに察しが付いたのだろう。

「なぁ、アベル。いい加減、現実を見るべきだと俺は思うけどな」

現実を見ろ。最近、他の人にも言われた言葉だな。

「お前が魔を誰よりも好きなのは知っている。だがな、お前は魔力ゼロなんだ。人には、どうしたってできないことがある。それをいい加減理解すべきだと思うけどな。それに、お前の妹さんもそろそろ験だって言うじゃないか。しかもあの難関のプラム魔學院ときたもんだ。お前も兄なんだから、妹なんかに負けていられないんじゃないか」

「プラム魔學院……」

そうだ。

今の今まで忘れていた。

この前話したとき、妹がプラム魔學院の験があると言っていたじゃないか。

「店主、プラム魔學院の験っていつでしたっけ？」

「確か明日だと思ったが」

「まだ間に合うな」

思わず俺は立ち上がる。

「お、おい、どうしたんだ、アベル？」

「俺、プラム魔學院に學します」

「はぁ!?お前、なにを言っているんだ？　お前は魔力がないはずだろ！」

「店主、実を言うと俺、つい最近魔を使えるようになったんですよ」

「な、なにを言ってるんだ……」

困した様子で俺のことを見つめている。

魔力がゼロなことを店主は知っているからな。困するのは仕方がない。だから魔を使えることを証明しようとこう口にした。

「まぁ、見ていてください」

ここ5日ほど、俺はほとんど寢ないでひたすら魔の可能を探っていた。

俺はポケットからあるものを取り出す。

「魔石をどうするんだ？」

と、店主が口にする。

通常なら、魔石に含まれた魔力は微量なため、この魔力を使って魔を発することはできない。

だが、俺の新しい科學に基づいた魔なら、この微量な魔力でも十分問題ない。

「〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉」

手に持った魔石を中心に魔法陣が展開される。

そして、〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉が生された。

「こんなぐあいで、魔を使えるようになったんですよ」

「ま、マジかよ……」

店主は口をあんぐりと開けて呆然としている。

「信じられないがアベルが魔を使えるようになったのはわかった。だが、プラム魔學院は難関校だぞ。かる自信はあるのか……」

「それに関しては大丈夫だと思うんですよね」

「まぁ、アベルが言うならそうなんだろう。だが、プラム魔學院に行く通費はどうする？　今、金がないんだろ」

「あ、そうか」

忘れていた。

プラム魔學院はここから歩いていくには遠い場所にある。

行くためには魔導列車を使わないといけない。魔導列車とは魔的なエレルギーを元に走る列車のことだ。

「よし、俺が金を工面してやるよ！」

「え？　いいんですか？」

「ああ、ほらお前に古代語で書かれた本の解読を頼んだだろ。その依頼料だよ」

「そういうことなら、ありがたくけ取ります」

「で、あの本の容はわかったか？」

「原書シリーズを批判する容でした。恐らく見つかったら書扱いとして処分されるかと」

噓はついていない。

実際に見つかったら、あの本は処分される。

「あー、そうだったのかぁ。うーん、殘念だなぁ」

「あの本は俺が処分しておきます」

「おっ、いいのか」

「ええ」

まぁ、処分するってのは噓だ。

俺が大事に保管しておこう。

そんなわけで通費も手にれたし、プラム魔學院の験に向かうことになった。