「これで僕の生徒會は決まりですね」

バブロ・スアレスは生徒會の面々のほうに振り向いて、そう口にした。

「ああ、そうだ。流石Ａクラスだな。圧倒的だった」

副會長のガルブ・ガルボーが稱賛する。

パブロは〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉を二発けたが、それは〈消去《コンセレイション》〉という上級魔に挑戦し失敗したからだ。

その後の戦いはバブロが圧倒的でアベルはすすべもなくやられたという印象だ。

「誰か、アベルの救出と治癒魔を。それとバブロにも治癒魔をかけてやれ」

ガルブは他の生徒會メンバーに指示を出す。

アベルは校舎の壁に衝突し、瓦礫にが埋まっている狀態だ。

死んではいないと思うが、救出をしなくては。

「アベルは大した男ではありませんでしたね」

ガルブは思ったことを口にする。

使った魔は氷系統の基礎魔ばかり。

あれでは平凡以下だ。

「會長も考え直すきっかけになったのでは。アベルなんて男を生徒會にれるよりバブロのほうが斷然いいと思いますよ」

そう會長に話しかける。が、おかしい。

反応がない。

「會長っ！」

いつもより大きな聲を意識して話しかけて、やっと、

「え――？」

會長は我に返ったとばかりに反応した。

「なんか、言いましたか……？」

「ええ、ですからアベルは大した男ではないかと。やはり會長の見込み違いでしたね」

「そ、そうかもしれませんね……」

「……？　會長、大丈夫ですか？」

やはり、さっきから會長の様子がどこかおかしい。

「……副會長、後のことは任せます。わたくしはなんだか疲れたみたいなので、今日はもう休みますね」

「わ、わかりました」

やはりどこか合が悪かったのだろうか。

ついさっきまでそんな様子は欠片もなかったが。

そんな副會長の心配を他所に、會長は一人で帰ってしまった。

◆

プラム魔學院３年Ａ組、ユーディット・バルツァー。

學業優秀であり、面倒見のよい格も合わさって生徒會長を務めている。

生まれつき他人より魔力知に優れ、それを生かした使役魔が得意。

そんな彼だから気がついてしまった。

（なに、あれ……？）

アベルとバブロの戦闘。

験時に見せたアベルの不可解な魔をまた見れたらいいな、と楽しみにしていた。

だが、実際に目にしたのは――

「〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉なのに〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉じゃない……？」

自分でもなにを言っているかよくわからない。

アベルの放った魔、〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉はどこからどう見ても基礎魔の〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉に思えた。

そしてバブロの放った〈消去《コンセレイション》〉。ユーディットの目からは魔構築に間違いは見當たらなかった。

なのに〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉が消える気配がなかった。

意味がわからない。

ユーディットはアベルの放った二度目の〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉を注意深く観察した。

そして気がつく。

アベルの魔法陣が通常の魔法陣と幹からして、かけ離れていることに。

魔法陣の持つ報量はあまりにも膨大だ。

見ただけは、ただ記號や文字が無作為に立しているようにしか見えない。

また、同じ魔でもその人の魔力の質によって魔法陣を大きく変える必要があるのと、人によっては魔を盜まれないように魔法陣をより匿の高いものに書き換えるものもいる。

以上のことから、魔法陣を見たところで、それがどのように構築されているのかわからないようになっている。

だから、あの場ではユーディットだけが気がついた。

アベルの放った〈氷の槍(フィエロ・ランザ)〉が通常のと大きく違うことに。

（どうなっているの……？）

ユーディットは混していた。

アベルの魔が通常と違うことに気がついても、それがどう違うのかまではわからない。

ただひたすら理解不能。

全く意味をなしてない暗號文を見せられた気分だ。

ユーディットは今まで、自分より才能がある魔師をたくさん見てきたし、自分では理解できそうにない魔もたくさん見てきた。

けど、こんなを彼らにはじなかった。

――異質。

それがアベルにじたユーディットの評価だった。

「なんとしてでも彼を手にれたいわね」

それがアベルに対して抱いたユーディットの率直な思いだった。