「あ、寢ていたのか」

目を覚ました俺はを起こしつつ、そう言う。

確かここは保健室だっけ。

験の際、妹に負けたときもここで寢かされていたのを思い出す。

もう夜も遅い。

寮に戻ろうと思い俺は黙って保健室を出た。

〈雷撃《ライヨ》〉を使えば最後の攻撃、本當に防げたのだろうか？

ふと、今日の決闘を回想していた。

妹のときもそうだったが、相手に近づかれると俺は弱い。

新しい魔を開発して対策を練るべきか。

……いや、正直どうでもいいな。

俺は純粋に魔の研究がしたいだけで、魔戦に強くなりたいわけではない。

そんなことより研究のほうを進めたい。

図書室で借りた魔導書『霊魔に関する概要』を歩きながら開く。

タイトル通り、霊に関することが長々と綴られていた。

霊とは。

火、風、水、土の四大元素それぞれに住まう霊のことである。

賢者パラケルススが発見した。

霊に命令をくだすことで我々魔師は様々な事象を起こすことができるわけだ。

ただ、元素に住まう霊は微霊と呼ばれるが、その微霊は非常に小さく意思の疎通なんてもってのほか。

対して霊魔といえば、それら微霊を長させ上位霊にまで昇華させることでその力を発揮する魔だ。

と、霊魔に関する概要はこんなものだが、俺は別に霊魔を行使したくてこの魔導書を読んでいるわけではない。

てか、魔力がゼロの俺ではしたくてもできないだろう。

今、俺は磁力の研究をしている。

俺の読書である『科學の原理』にも磁力について解説されていた。

それによると、磁石が鉄を引き寄せるのは磁石から発せられるネジ狀の微細粒子が渦しているからと書かれていた。

そうなのか、と俺は納得しその理論を元に魔を構築してみたところ、なにも起きなかった。

つまり、『科學の原理』に書かれていた理論は間違っていたことになる。

俺は原書シリーズが必ずしもあっているとは限らないことを學んではいたが、それは『科學の原理』にもいえることだったとはな。

結局、磁力の研究はそこで行き詰まりになった。

そこで俺は一度原點に立返ることにした。

それでなぜ霊なのかというと、霊がいるとされる拠が磁力にあるからだ。

磁石がひとりでに鉄に引き寄せられるようにくのは、磁石に魂があるからであり、そして磁石に限らずあらゆる質にも霊魂が備わっているとされる。

そして活論が唱えられ、最後には四つの霊の存在が示唆される。

なんとも飛躍した考え方だと、今ならわかるが魔師たちの間では常識となっている以上無視するわけにいかない。

そんなわけで寮に戻ってから『霊魔に関する概要』を読み続けた。

そして磁力に関する手がかりがつかめたらいいな、と思いはしたが、結局なにも得るものはなかった。

そもそも四大元素が間違っているならば、四大霊も等しく間違っているということだよな。

けれども霊魔は実際に存在するわけで。

謎が深まるな。

例えば、霊魔は質に眠っている霊を呼び出すのではなく、霊をゼロから創造する魔なのだとしたら。

それならば、矛盾は解消されるか？

いや、ゼロから霊を生むのは不可能というのが常識だ。

……いや、常識を疑うのが最近の俺のやり方だったな。

別に霊に限らず魂を創れたとしてもおかしくはないはずだ。

と、そこまで思考を巡らせて、ふと一つの可能が頭に浮かぶ。

そもそも魂の本質ってなんだ？

考えたところで結論は出ないか。

そう結論づけた俺は眠ることにした。