《魔力ゼロの最強魔師〜やはりお前らの魔理論は間違っているんだが?〜【書籍化決定】》―41― チーム戦
チーム戦が始まった。
この日は通常の授業はおこなわれない。
戦う場所は學院の近くにある森の一部。
魔法陣による結界が張られ、その中で戦えとのことだ。
結界といえば、外に出られなくなるような壁のようなものを想像しがちだが、今回使われる結界はそういった制限はなく、出ようと思えば出られるらしい。
ただし外にでたら試験を管理している先生たちに知られる仕組みだ。
そうなれば、もちろん失格となる。
「一応、ここも學院の敷地なんだっけ?」
決められたスタート地點に移中、俺は隣を歩いているミレイアに話しかけていた。
「ええ、そうです。ですので、アゾット剣の加護は無事得られるらしいです。だから安心して魔を放ってください」
ふーん、と俺は頷きながら、ふと気になったことを話す。
「アゾット剣の加護があっても、絶対死なないわけじゃないんだろ?」
あくまでもアゾット剣の加護は、自然治癒力を高めるや、致命傷をけにくくなるというだけだ。怪我を負わなくなるわけではない。
「そうですね。死にづらくなるってだけで死なないわけではありませんから。いくらアゾット剣の加護があったとしても、殺意さえあれば人を殺すことは容易かと思います」
例えば、すでに気絶している人に対して追い打ちをかけるように、心臓を刃で刺せば、流石に死ぬのだろう。
まぁ、そんなことをする生徒は恐らくいないだろうが。
と、そんな會話を続けていたら開始地點に辿り著く。
他のチームもそれぞれスタート地點を事前に割り振られており、恐らく、他のチームも著いた頃合いだろう。
「そろそろ時間になりますね」
懐中時計を手にミレイアがそう呟く。
「それじゃ、みなさん手筈通りにお願いします」
ミレイアの言葉とともに、作戦は始まった。
およそ一時間後。
非常に簡素な砦が完していた。
辺り一帯の木々を伐採し平坦な土地にしてから、〈土の壁《ティエラ・ムロ》〉による囲いを造り上げる。
ただし、砦の中にって籠城はしない。
砦はあくまでも囮。
実際には、砦から離れた森の中に潛伏していた。
他のチームが砦に近づいた瞬間、遠隔から攻撃する。それが今回の主な作戦だ。
索敵が難しいのであれば、相手に見つかるよう導すればいい。
そして俺たちが砦の中にいないとは予想できないはずだ。
あえて外から攻撃することで不意をつく。
「アベルくん、よくこんな作戦を思いつきましたね。素直に心しました」
俺は一人森の中で潛伏していると、ミレイアが近くに立っていた。
そう、今回の作戦を提案したのは俺である。
「持ち場を離れるとはどういうつもりだ?」
俺たち四人は砦に近づくチームを見落とさないために、固まらずに離れた位置で監視する手筈だった。
だから持ち場を離れて俺の元に來たミレイアに苦言を呈する。
「しだけアベルくんとお話をしたいな、と思いまして」
「それなら、この戦いが終わってからにしてくれ」
「いえ、今じゃないとダメです」
ふと、ミレイアの目を見る。
別に冗談を言っているわけではないらしい。
「この前、私に協力してくれるって言いましたよね」
「異端のことか?」
「ええ、そうです」
「詳しく聞かせろ」
俺は監視をやめ、ミレイアのほうに意識を集中させる。
チーム戦なんかよりも異端者のほうが優先順位は高い。
「私の中に偽神が潛んでいるって言いましたよね」
「あぁ、言ったな」
「実をいうと、この偽神はまだ完全ではないのです。完全になるにはひとまずする必要がありまして、そのためには10人ほど生贄が必要なんです」
「生贄か」
生贄と聞いて、生徒會長のことを思い出した。
あれは蛾を使役させる魔であると同時に、蛾の魂を自の魔力に転換させる魔でもあった。
それは言い換えると、蛾を生贄に捧げて魔を発させるってことになる。
「はい、それでこのチーム戦を利用しようと思うんです」
「確かに絶好な機會ではあるな」
森の中は校舎と違って大勢に見られる心配がない。暗躍するなら、もってこいの場所だ。
「ぜひ、アベルくんにも協力してほしいと思っているんです」
俺はすぐに返事ができなかった。
なんて答えるのがベストなのか、考えていたのだ。
俺の目的は〈賢者の石〉を生して、妹の呪いを解くことだ。だが、妹の呪いを解けるなら、〈賢者の石〉以外の方法でも構わないと思っている。
もし、偽神の化に協力することで、偽神ゾーエーの呪いを解く方法に近づけるなら、ぜひとも協力すべきだろう。
「それで、なにをすればいいんだ?」
結果、俺は協力を申し出ることにした。
「――え?」
どういうわけだか、ミレイアは目を見開いて戸っていた。
「どうした? ミレイア」
「い、いえ、その、まさか協力してくれるとは思わなくて……」
「お前から言い出したことだろ」
「ですが、生贄ですよ……? 生贄って意味わかっていますよね?」
「ようするに殺すんだろう?」
「そんな簡単に言わないでください!」
突然、ミレイアが怒鳴った。
を震わせて、目は見開いている。まるで、俺が協力すると言ったことが不服だといいたけだ。
矛盾している。
ミレイアは一見偽神に積極的に協力しているが、本心では恐らく協力するのが嫌なはずだ。
まぁ、そんなことはとっくに見抜いていたけどな。
ミレイアが渡した暗號で書かれた研究資料。あれは偽神について詳しく書かれていたが、なぜそれを俺に渡したのか。
あれは正確には偽神の討伐法だ。あの研究資料を読めば、偽神の殺し方がわかるという算段なわけだ。なぜ、暗號という回りくどい方法で渡したかは考察の余地があるが、恐らく自分の策略がに潛む偽神にバレないようにと考えてのことだろう。
ともかくミレイアは『偽神ごと、私を殺してくれ』。そう、暗に伝えているわけだ。
だが、悪いな、ミレイア。
俺は正義のためにくようなできた人間ではない。
俺の行原理は、妹と知的好奇心の2つのみ。
だから、俺は、お前も中の偽神も殺すつもりは頭ない。
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