天使シエナによる〈霊域解放〉によって、世界は塗り替えられた。

偽神のアントローポスの霊域とはまた違う。

地面がちゃんとあり、空もある。

それ以外はなにもないが、パッと見たじ現実の風景とそう差異はない。

アントローポスの霊域は神にしか作用せず、には作用しなかったため、いくら霊域で殺されても神を保ちさえすれば死ぬことはなかった。

ただ、それはアントローポスの霊域〈混沌の境域(カオス・アーレア)〉の固有能力ってだけで、ここも同じと考えないほうがいいだろう。

恐らく、この霊域で死ねば現実でも死ぬ。

「はい」

目の前のシエナがそう言って、両手を叩いていた。

「は？」

瞬間、地面がなくなっていた。

同時に空に投げ飛ばされる。

唐突に空に投げ飛ばされた俺はバランスをとろうとをかす。真下を見ても地面が見える気配がない。

さっきまでは地面に立っていたのに、突然、宙にいる。

地面の位置を変えられるのが、この霊域の特長ってところか。

「〈重力作(グラビティ)〉」

このまま落ちるのはマズいと思い、重力をって宙にとどまろうとする。

シエナの方を見ると、天使の羽をばして空を羽ばたいている。

「〈天使の剣《エンジェル・エスペイダ》〉」

そして、腕を振るったと思ったら、金に輝く剣のようなものが腕から生えていた。

ブワッ、と風が舞う。

「――は？」

放心狀態になったのは理由があった。

まるで瞬間移をしたかのように、遠くにいたはずのシエナが目の前にいたのだ。

瞬間移ではなく超高速で移したと確信できたのは、シエナが移した際に巻き起こったであろう突風が吹いたから。

そして、気がついたときには〈天使の剣《エンジェル・エスペイダ》〉で斬り裂かれる。

斬り裂かれた俺は當たり前のように出し、地面へと墜落しようとしていた。

まずいな。

恐らく、この怪我は致命傷だ。

俺は怪我を治すような治癒魔を使うことができない。

それに、治せたとしても、天使シエナのきに対応できなければ、また同じような怪我をするだけ。

萬事休すか。

よし、諦めるか。

◆

シエナは翼で宙に停止しながら、真下を見下ろしていた。

たった今、斬り裂いたアベルが落下していった。

この高さから落ちたら死ぬのは必至。仮になんらかの魔で落下の衝撃に耐えられたとしても、あれだけの深手を負わせれば生き抜くのは難しいだろう。

とはいえ、死を確認する必要はあるはずだ。

死んだと思った相手が実は生きていたなんてことは、この世界ではよくあることだ。

それは往々にして、死を確認しなかったせいで起こるのだ。

だから、シエナは両手をパチンと叩いた。

次の瞬間には、シエナは地面の上に降り立っていた。

地面の高さを自在にる。

それが、この霊域の特だ。

シエナは、この世界の地面の高さを自在にることができる。

「あった」

目の前に、落下の衝撃で砕けたアベルのが落ちていた。

頭は割れ、手足はおかしな方向に曲がっている。

よく確認しなくても、これは死んでいる。

念の為、足で蹴り飛ばしてみる。

すると死特有の重みがつま先を通じてじる。

「任務完了」

短く、シエナは言葉をそう発した。

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