《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》欠けゆく月 01
ルカを見ると気持ちが落ち著かなくなるのは、きっと月が痩せ細っているせいだ。
マイアは市場をルカと並んで歩きながら、こっそりとため息をついた。
今の月齢は二十八。明後日は新月だ。霧月(ブリュメール)ももう終わるのかと思うと慨深い。
この大陸にあるほとんどの國は、月の満ち欠けを基準とした暦を採用していて、新月の日を朔日(ついたち)としている。
アベル率いる陸軍の魔蟲討伐部隊は恐らく既にフェルン樹海を引き上げて次のホットスポットへと向かっているはずだ。
陸軍第一部隊が擔當するもう一つのホットスポットは、ここから更に北に位置するヴィアナ火山の山麓部である。
時折小規模な噴火を繰り返しているヴィアナ火山は周辺の地熱が高いため、長く魔蟲が活発にくし氷點下まで冷え込んだ日に雪が降っても決して積もらない。
そのため第一部隊の魔蟲討伐遠征は、先にフェルン樹海に向かい、更に気溫が下がるのを待つのが慣例となっていた。
これで一旦は逃げきれたはず、というのがルカの見解だ。
とは言え油斷はできないので、マイアはアルナに協力してもらって化粧を派手にし、髪を巻いて顔の印象を変えた。
髪も瞳も魔の指で茶にを変えているし、そう簡単には気付かれないはずだ。
この街に著いたのは月齢が二十四の日だったから、これでローウェルにやってきて四日目だ。
二日をかけてクライン商會の棚卸の手伝いが終わったので、マイアはルカにわれて旅の準備の為の買い出しに來ていた。
このローウェルは商人や傭兵の行き來が盛んなので旅の必需品を扱う店が充実している。
まず向かったのは鞄を扱う商店だった。
「セシルさん!」
店にるなり、店番をしていた十代後半と思われる若いの子がこちらに向かって駆け寄ってきた。
金髪に飴の大きな瞳の持ち主で、なかなか可らしい。
「ご依頼頂いていたれの修繕ですが、もうできあがってますよ」
「えっ、もう終わったの? 仕上がりは後二日後って聞いてたのに」
「お父さんが頑張ってくれました。すぐお持ちしますね」
想良く出てきたの子だったが、マイアの姿に気付くとぴくりと頬を引き攣らせた。
「今日は彼の鞄を見に來たんだ。……リズ、鞄は背嚢と肩掛け、どっちがいい?」
「どれくらいの収納力のがあればいいのかにもよるかな……」
「基本は馬車移になるから、當座の著替えに貴重品、それから二、三日分の食料がればいいと思う」
「うーん、あまり大きくなくていいのなら肩掛けの鞄がいいかも」
背嚢より肩掛けのほうが圧倒的に見た目が可い。
マイアは店を一通り見回すと、シンプルな焦げ茶の肩掛けの鞄を手に取った。
帆布に皮を組み合わせて作られたその鞄は、主素材が布なので見た目よりも軽い。
「……それ、私が考えた鞄です。お気に召しましたか?」
どこかムスッとした顔で店員のの子が聲を掛けてきた。
「もうし見てもいいですか?」
「……どうぞ」
その仏頂面は店員としてどうなんだろう、と思いつつも、マイアは鞄を開けて中の仕切りや外側のポケットのマチ幅などを確認した。
の子の態度に思うところはあるし、彼が制作に攜わったとおもうとちょっと複雑だが、品自は使いやすそうで結構いい。製がしっかりしているところが特に気にった。
「それにする?」
ルカに尋ねられ、マイアは頷いた。
「じゃあこれと修繕の終わったれと、支払いは一緒で」
ルカがマイアの手から鞄を取り上げての子に渡した。
「合計で三萬ベルになります」
の子は慌てて笑顔を作ると會計をし、鞄をルカの修繕を頼んでいたれと一緒にして藁紙に綺麗に包んでくれた。
「仲良さそうですね。羨ましいです」
どこか未練がましい言い方に苦笑いが浮かんだ。
店をふらりと訪れた格好いいお兄さんにちょっと憧れを抱いたけれど……というの子のが一連の態度からはけて見える。
「……特別な関係に見えたのかな」
マイアは店を出てからぽつりとつぶやいた。すると、ルカは目を細めて微笑んだ。
「あの子にそう見えたんだったら旅がやりやすくなる」
その淡々とした発言に、意識しているのは自分だけなんだと思い知らされた気がした。
冷靜に考えればルカはアストラに戻れば貴族に相當する階級の人だ。所作や腰からは育ちの良さが窺えるし、顔だって格好いい。
だからきっと國に戻れば々な意味で不自由していないに違いない。
ルカが優しくしてくれるのはマイアが聖で、それがアストラの國益に繋がるからだ。それ以上の意味なんてない。
こんな事で一喜一憂するなんてばかみたい。
マイアはルカの隣を歩きながら心の中でつぶやいた。
◆ ◆ ◆
保存食にマイア用の寢袋、そして追加の防寒。
々と買い込んた結果荷が持ちきれなくなったので一旦クライン商會に戻ると、店舗の方からやってきたアルナに聲をかけられた。
「お帰りなさい。ちょうどいい所に帰ってきたわ。セシル、悪いんだけど店番変わってくれない? ゲイルがかなり調子悪いみたいなのよ。でも今日はお得意様の所への配達があって……」
「店番変わるのは構わないけど、何、あのおっさん、もしかしてもう新月癥候群の癥狀出てんの?」
「たぶんそうだと思う。あの人、特に月の影響が出やすいみたいだから」
新月癥候群とは、新月前後の魔力保持者に特有の調不良の事である。
月経前後のに似ていて、緒不安定になったりが思うようにかなくなったりするのだが、のそれに個人差があるように、魔力保持者の場合もどれくらいの癥狀が出るかは人によって大きな違いがある。
「今月は近點月だからそれも影響してるかもなぁ……」
「えっ、今月って近點月だっけ?」
ルカの言葉にマイアは思わず反応した。
長い観測の歴史の中で、月は二年に一度の周期で地上に近付いたり遠ざかったりを繰り返していることがわかっている。
『近點月』とは、月が地上に最も近付く月周期を指す言葉だ。
その時期の新月は魔力保持者のや神に、いつも以上に大きな影響を與えると言われている。
「リズは大丈夫なの?」
アルナに尋ねられ、マイアはこくりと頷いた。
「今のところは。私の場合は新月の日以外はあまり影響はないんですが、今月が近點月だともしかしたら寢込むかもしれないですね」
普段はし気持ちの浮き沈みが激しくなるのと、がだるくなる程度で済むのだが、近點月と聞くと不安になった。
二年前の近點月の時の新月は、ベッドから一日中起き上がれなかった記憶がある。
「大丈夫よ、もし寢込んでも私やセシルが付いてるからね。じゃあセシル、悪いけど店はお願い。私は配達の準備をするから」
そう言い殘すと、アルナは慌ただしく裏手の倉庫へと向かった。
「セシルは平気なの?」
「俺はあんまり新月の影響はけない特殊質なんだ。調はともかく魔の威力はかなり落ちるから外に出たくはなくなるけど」
アストラが魔大國にも関わらず、他國への領土的野心を示さないのは、この魔力保持者の質のせいだと言われている。
能力が普通の人間よりも低く、長期の遠征には耐えられない上に新月時には戦闘力ががくりと落ちる。
アストラは新月の侵略対策に強固な魔による防衛線を引いており、守りに特化した姿勢を貫き続けている。
「さてと、俺は店の方に出るからリズはゆっくりしてて」
そう告げると、ルカは店舗の方へと向かった。
ゆっくりしろと言われても、本當にぼんやりするのは気が引けるので、マイアはゲイルの様子を見に行く事にした。
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***マンガがうがうコミカライズ原作大賞で銀賞&特別賞を受賞し、コミカライズと書籍化が決定しました! オザイ先生によるコミカライズが、マンガがうがうアプリにて2022年1月20日より配信中、2022年5月10日よりコミック第1巻発売中です。また、雙葉社Mノベルスf様から、1巻目書籍が2022年1月14日より、2巻目書籍が2022年7月8日より発売中です。いずれもイラストはみつなり都先生です!詳細は活動報告にて*** イリスは、生まれた時から落ちこぼれだった。魔術士の家系に生まれれば通常備わるはずの魔法の屬性が、生まれ落ちた時に認められなかったのだ。 王國の5魔術師団のうち1つを束ねていた魔術師団長の長女にもかかわらず、魔法の使えないイリスは、後妻に入った義母から冷たい仕打ちを受けており、その仕打ちは次第にエスカレートして、まるで侍女同然に扱われていた。 そんなイリスに、騎士のケンドールとの婚約話が持ち上がる。騎士団でもぱっとしない一兵に過ぎなかったケンドールからの婚約の申し出に、これ幸いと押し付けるようにイリスを婚約させた義母だったけれど、ケンドールはその後目覚ましい活躍を見せ、異例の速さで副騎士団長まで昇進した。義母の溺愛する、美しい妹のヘレナは、そんなケンドールをイリスから奪おうと彼に近付く。ケンドールは、イリスに向かって冷たく婚約破棄を言い放ち、ヘレナとの婚約を告げるのだった。 家を追われたイリスは、家で身に付けた侍女としてのスキルを活かして、侍女として、とある高名な魔術士の家で働き始める。「魔術士の落ちこぼれの娘として生きるより、普通の侍女として穏やかに生きる方が幸せだわ」そう思って侍女としての生活を満喫し出したイリスだったけれど、その家の主人である超絶美形の天才魔術士に、どうやら気に入られてしまったようで……。 王道のハッピーエンドのラブストーリーです。本編完結済です。後日談を追加しております。 また、恐縮ですが、感想受付を一旦停止させていただいています。 ***2021年6月30日と7月1日の日間総合ランキング/日間異世界戀愛ジャンルランキングで1位に、7月6日の週間総合ランキングで1位に、7月22日–28日の月間異世界戀愛ランキングで3位、7月29日に2位になりました。読んでくださっている皆様、本當にありがとうございます!***
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