《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》東へ 02
昨日更新分、結婚腕の石の表記や祭の容について修正をれています。
詳しくは活報告をご覧下さい。
ライウス商會の馬車が去って行くのを見送ってから、マイアはルカと一緒に荷馬車へと戻った。
外の空気を吸ったことで気持ち悪いのは一旦治まった。
「まずいなぁ。テルースの祝祭の事すっかり忘れてた。宿が取れるかな」
ルカが眉をひそめてぽつりとつぶやいた。
祭は全國的に行われるものだが、キリクは溫泉で有名な保養地だから、もしかしたら周辺の町や村からの観客で混みあっているかもしれない。
「選ばなければ泊まる所はあると思うんだけど、馬と積荷が預けられるような宿は空きがないかも」
確かに積荷がある以上信頼のおける宿を探す必要がある。場末の怪しい宿には泊まれない。
「最悪素通りして次の街に進むことになる?」
「……そうだなあ……補給と公衆の溫泉にだけ立ち寄ってってじになるかも。ごめん、本當は祭に行きたいよね?」
「あまりに多すぎる人混みは苦手だからそっちは別に……シャボン玉(ソープバブル)を飛ばすのはちょっと見てみたいけど」
「街に夜滯在するとなると宿を取らないといけないから、祭が見れるかどうかは宿次第になるかな」
夜が更けるとどこの街でも門が閉ざされ、出りができなくなる。
「私もすっかり忘れてたからその時は仕方ないよ」
マイアはあえて明るくルカに微笑みかけた。
「……そうだ、もらった薬はどうする? 飲む? ライウス商會の名前は聞いた事があるから、たぶんそのまま飲んでも問題はないと思う」
「一応《浄化》の魔をかけてから飲む事にする」
「そうだね、用心深いのはいい事だ」
マイアはルカから薬の包みをけ取ると、羽筆(クイル)を使って《浄化》の魔をかけた。
その間にルカが魔で水を用意してくれる。
もらった酔い止めの薬は丸薬になっていて飲みやすい。
マイアが薬を飲むのを見屆けてからルカは立ち上がった。
「寒いけど者席に座ってみる? 風に當たった方が酔いにくいかもしれない」
「確かにそうかも」
マイアは立ち上がると、ルカに続いて者席へと移した。
◆ ◆ ◆
外の空気を吸っているせいか薬が効いたのか、どちらかかはわからないが、馬車に揺られて一時間が過ぎてもまだ気分が悪くなることはなかった。
今はまだ広めの街道を進んでいるので、時折行商人や巡禮者と思われる旅人とすれ違う。
馬車を使う人もいれば徒歩の人もいて、そんな人々を見ているだけでも目新しい。
「リズは楽しそうに景を見るね」
「こんな風にゆっくりした旅をするのは初めてだから」
思えば七歳で両親を亡くしてからは、常に何かに必死だった。
孤児院は環境に慣れるまでが大変で、慣れてからも日々のやらなければいけないお手伝いが多くて忙しない日々を過ごしていたし、魔力が急発達してからは治癒能力を高めるための勉強に追われた。
聖認定をけてからも、施療院の仕事やら討伐への同行やらで今思えば気の休まるがなかった。
「聖なんかに生まれるよりも、きっとそこそこ余裕のある平民のお家に生まれるのが幸せだと思うわ。今までずっと忙しかったもの」
「ごめん、アストラに著いてしまったら、治療の仕事が々と回されると思う……」
「新參者の私には『汚れ仕事』が回されるのかしら?」
こんな事を聞いてしまったのは、ちょっと意地悪な気持ちになったからだ。
「汚れ仕事?」
ルカは眉をひそめた。
「イルダーナでは平民の聖には面倒だったり汚らしい患者が押し付けられるのよ。変な事を言っておをろうとしてくる貴族の気持ち悪いおじさんとか」
「分差別が激しいイルダーナの連中がやりそうな事だ」
ルカは舌打ちじりに吐き捨てた。
「アストラでリズがそういう扱いをけることはたぶんないと思う。ナルセス・エランドがリズに興味を示してるから」
「月晶糸とアストラシルクを作った人?」
「ああ。アストラでは研究者として有名な《貴種(ステルラ)》だ。あの人の影響力は馬鹿にできないから、たぶんリズに変な奴は近付けなくなると思う。ただ、本人がかなりの変人だけど……」
「えっと……そうなの……?」
「……天才となんとかは紙一重って言うだろ? そこまで悪い人ではないけど……頭の螺子(ねじ)がちょっと飛んでるというか何と言うか……」
ルカはそう言うと言葉を濁した。
「あんまり変な人だったら困る……魔布を見せに行くことになってるんだけど……」
「うっかり研究の話を振ると、ものすごく嬉しそうに訳の分からない専門用語をまくし立てて熱く語ったり、実験のやり方が過激だったり……俺は死んだら解剖させてくれって言われたことがある……」
「それ、私も魔研究院で言われたことがあるわ」
「…………」
「倫理観飛んでる系の危ない人なのね。あの……ナルセスさんに會いに行く時はセシルも一緒に來てくれると嬉しいんだけど……」
「それはもちろん。リズへの反応がわからないからな……最初は二人きりにはならない方がいいと思う」
あっさり了承してくれたので、マイアはほっと息をついた。
その時だった。前の方に見覚えのある荷馬車か見えて、マイアは口元をほころばせた。
「あれ、ライウス商會の馬車じゃない? 追いついちゃったのね」
「……そうだね」
どうしたんだろう。ルカの顔が何故か厳しい。
「の匂いがする」
「え……」
「あの馬車の荷臺の方から腥(なまぐさ)い匂いが漂ってくる」
マイアにはじ取れない。ルカの強化魔には、五を鋭敏にする効果も備わっているのだろうか。
戸いつつルカの橫顔を見つめると、手綱を手渡された。
「ちょっとだけ変わって」
「ええっ!? 私馬の作なんて……」
「大丈夫。パティは賢いからちゃんと歩いてくれる。そうだろ?」
ルカが話しかけると、パティはこちらを振り向いてぶるる、と小さく嘶(いなな)いた。
まるで會話しているみたいだ。ルカの言う事だからきっと聞くんだろうけど。
マイアが手綱を預かると、ルカは周囲に人がいない事を確認してから羽筆(クイル)を取り出した。
空中に書き始めた魔式は確か探知系の魔だ。
人、魔蟲、、探知範囲にいるあらゆるものの生命反応を探る魔である。
「者席に二人、馬車の中に二人、でも馬車の中の生命反応がどちらも弱い。特に二人のうちの一人はたぶん瀕死だ」
一何があったんだろう。マイアは眉をひそめながら手綱をルカに返した。
「……面倒ごとの予がする」
ルカは手綱を引くと、パティの速度を落とさせた。
「関わらない方がいいと思うんだけどどうする?」
「私もそう思う。冷たいかもしれないけど……」
今はこちらも後ろ暗いだ。厄介ごとに自分から首を突っ込むべきではない。
「同じ意見で良かったよ。なんせこっちも分詐稱中だ」
ルカはそう言って苦笑いした。
しかし、事は殘念ながらそう簡単には終わらなかったのである。
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