《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》幕間・ヴィアナ火山
新しく來た聖を名乗るあのは、聖などではなく魔か妖魔の類に違いない。
早朝、アベル王子の天幕から出てくるティアラ・トリンガムの姿を目撃し、ジェイルの心には恐怖と苦いものがりじったが湧き上がった。
ジェイルは現在軍に所屬する宮廷魔師である。
潛在魔力の高さと結界魔の展開能力を買われ、三年前から陸軍第一部隊に出向していた。
月が変わり、第一部隊は擔當する二つ目のホットスポットであるヴィアナ火山へと移していた。
毎年同じ場所に張られるベースキャンプにて、ジェイルは第一に所屬するもう一人の宮廷魔師、リアラと一緒に結界の維持管理を擔當していた。
ティアラは初めてこの討伐遠征に參加してきた時から異質だった。
遠征の最中に現れるのも異質なら、欠損を癒す治癒能力も異質だ。魔力が二次徴の頃に急発達するという事例は有り得ない話ではないが極めて稀で、既に聖マイア・モーランドという存在がいるのに、更にもう一人現れたという事がなんだか引っかかった。
しかし、優秀な聖が二人も軍に同行するのはいい事だと心の中の疑問に蓋をして、ジェイルは自分の任務に打ち込んだ。
そうこうしているうちに、聖マイアが一人の若手騎士と失蹤した。
この國では、魔力保持者は貴重だから、魔師であれ聖であれ権力者に囲いこまれる。
マイアはフライア王妃に次ぐ治癒能力を持つ優秀な聖で、王家が第二王子の妃として目を付けてた。
だから年若い彼が政略結婚を嫌がって逃げたくなる気持ちは何となくわかった。
しかも彼は後ろ盾のない平民の孤児という事で々な人間から影でこそこそ言われていた。
下級貴族出のジェイルにも、それは覚えのあるやっかみだ。自分より高位の貴族出の魔師からの嫉妬に嫌味、仕事の押し付けは今後一生涯続くのだろう。
そしてジェイルは妻からも侮られている。伯爵家出の妻は気位が高く、子供を二人もうけた後は義務は終わったとばかりにジェイルを寢室から締め出した。
自分の場合は娼館やら飲み屋で発散しているからまだなんとかやっていけているが、であるマイアはそうもいかない。
しかし何もこんなホットスポットの中で逃げなくても、とは思ったが、冷靜に考えれば聖であるマイアには常に護衛と侍が傍に控えている。
きっと死の危険があっても逃げたいと思うほどに追い詰められていたのだろう。そう思うと可哀想だった。
ジェイルがティアラのおかしさに本格的に気付いたのは、マイアが失蹤した二日後だった。
貴重な聖を探さない訳にはいかず、討伐は中止となり、ける者総出でマイアの捜索にあたる中、ジェイルはリアラと一緒にベースキャンプに殘り、手分けして結界の維持管理や使い捨ての魔の作などに従事していた。
そんなジェイルの元をティアラがアベルと訪れ、疲労回復の為に治癒魔を使いたいと申し出て來た。
「魔師は討伐の命綱でしょう? ですから是非治癒魔をけて頂きたいのです」
「ティアラがこう申し出ているのだ、遠慮せずけるといい」
貴重な聖の治癒をたかが疲労回復に使うなんて、と思ったものの、ティアラとアベルから重ねて言われてしまえば、立場上ジェイルには否定的な言葉は言えなかった。
「……ではお願いします」
治癒魔を使ってもらう為に手を差し出すと、手袋ごしにティアラの手がれた。
まず疑問をじたのはこの時だ。
手袋など付けていると、魔力の伝導度が悪くなるはずなのに。
そして魔力を流され、の下を蟲が這い回るような悪寒をじてジェイルは顔をしかめた。
この気持ち悪さは何だ。
中を這い回る不快に鳥が立った。
おかしい。聖の魔力は流されると非常に気持ちいいものだと聞いている。
まるで湯船に浸かっている時のように溫かく、幸福をもたらすもののはずなのに。
頭がくらりとした。
これは魔の気配だ。それも神に作用する類の。
「どうだ? ティアラの魔は素晴らしいだろう? しかし妬けるな。必要な事とはいえ他の男の手を取るなんて」
熱に浮かされたようなとろりとしたアベルの眼差しに、ぞくりと背筋に寒気が走った。
ジェイルは反的に抵抗する。
の魔力を脳に巡らせ、神を侵そうとするティアラの魔力を遮斷する。
(これは……魅了系か……?)
気持ち悪い。嫌悪を心の奧底に隠し、ジェイルは目を細めて幸せそうに微笑んだ。
「殿下のおっしゃる通り、ティアラ様の魔力は素晴らしいですね。こんなにふわふわとしたいい気持ちになるのは初めてです」
王子、そしてトリンガム侯爵令嬢という権力者が関わっている以上、ここは魅了されたように振る舞うのが最適だと咄嗟に判斷をしたのだ。
その日から、魔蟲討伐部隊はしずつティアラの魅了に侵食されていった。
同僚のリアラもまた、今ではティアラの熱心な狂信者だ。
いくつか質問を繰り返し、確認してみたが、リアラは完全にティアラに心酔していて、ジェイルのように抵抗に功した形跡はなかった。
ジェイルがティアラの魅了に抗えたのは、魔力量の差が出たのかもしれない。ジェイルの魔力量はかなり大きく、イルダーナの魔力保持者の中でも五本の指にる。
にも関わらず軍への出向という宮廷魔師の職務の中では最も不人気な役目を押し付けられているのは、汚れ仕事を押し付けられがちなマイアと同じ理由だ。
「ジェイル卿、いい所に」
ティアラがジェイルに気付いた。彼は嬉しそうに微笑むと、こちらに優雅な足取りで近付いてきた。
「を綺麗にする魔をかけて下さらない? がべとべとで気持ち悪いの」
昨夜はお楽しみだったらしい。
アベルはマイアに気があるように見えたが、すぐに乗り換えるとは現金なものだ。
いや、魅力に犯されているのだから仕方ないか。ジェイルはすぐに思い直した。
「私にご用命頂けて大変栄です、ティアラ様」
ジェイルはとろりとした笑顔を意図的に作ると、羽筆(クイル)を取り出し、《洗浄浄化》の魔を使ってやった。
「ありがとう、ジェイル卿」
ティアラは禮を言うと、ジェイルに手を振り救護用の天幕へと向かって行った。
あのは聖なんかじゃない。
ジェイルは心の中でつぶやく。
欠損が治せるのは凄いが、格も能力もマイアとは雲泥の差だ。
あのはマイアのように魔力の限界まで治療をしない。
一日の中での対応人數を自分の中で決めていて、魔力の限界が訪れる前に治療を切り上げてアベルの天幕へと帰ってしまう。
鼻を出すものも吐するのもしくないというのがその理由だ。
そして恐らく魔力効率が悪いのだろう。一日に対応する人數がマイアの半分以下だ。
だからマイアの失蹤後は、討伐より捜索に重點を置いたとはいえ、じわじわと癒しきれない怪我人が増えていった。
結局捜索は打ち切って、ヴィアナ火山に移して本格的な討伐にった訳だが、この序盤の段階で、治療待ちの怪我人が順番待ちの狀態だと聞く。
しかし、そんな狀況にも関わらず、誰一人として疑問を持たないしティアラを褒め稱える。
ただ一人正気を保ち続けているジェイルは、どう対応したものか決めかねていた。
本人がトリンガム侯爵家という有力貴族の出で、第二王子のアベルが魅了されている今はかない方がいい。迂闊にいたら不敬罪など何らかの法的手段を取られて陥れられる可能がある。
何か対策をするとしても首都に戻ってからだ。ジェイルはこっそりとため息をついた。
一何人を一度に魅了できるのかはわからないが、恐らく王妃、神殿長、魔師団長の三人はティアラの魅了に抵抗できると思われる。
し前まではマイアもこの中にっていたが、失蹤したので數にらないのが殘念だ。
まさかそれを見越してティアラがマイアに何かした?
そんな疑がちらりと浮かんだが、さすがに飛躍しすぎかと考えを振り払った。
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