《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》マスカレイド・パーティー 02
著の著のまま逃げてきたマイアは、全面的にルカのお世話になっている狀態である。
そんな狀態でルカよりも先に部屋付きの浴室を使うのは気が引けたので、マイアはやりかけの自分の服への刺繍を仕上げてしまう事にした。
シンプルな白のブラウスと、アルナに買ってもらった中では一番のお気にりの赤のワンピースに刺繍をれた。
ブラウスの刺繍は既に完しているので、後はワンピースの裾部分の刺繍を仕上げてしまったら一式が完する。
まずは魔布にするのを優先しているので、今は月晶糸による金の刺繍をれただけだが、どこかで時間ができたら、糸で花や蔓草の刺繍を加えて可らしくしつつ、魔式部分をぱっと見ただけではわからないようにする予定だ。
魔力を込めて無心で針をかすと、もやもやとしたが忘れられる気がした。
完した刺繍を眺めてその出來栄えを確認していると、ルカが戻ってきた。
ドクンと心臓が嫌な音を立てるが、普段通りを心掛けてマイアは表を作る。
気持ちを隠すのは得意だ。ずっとそうして生きてきたから。
みなんてないと突き付けられたのだ。それならばさっさとこんな気持ちは振り切って次に行くべきである。
「お帰りなさい、セシル」
何もなかったかのように話しかけると、ルカはあからさまにほっとした表を見せた。
ルカは手に大きめの籐の籠を持っていた。
「買いに行っていたの?」
「うん、保存のきく食材を々と。あ、でもこれは違うんだ。オーリアさんがここの主人(マダム)に預けてた俺たちあての品らしくて。溫泉にはらなかったの?」
「うん。セシルを差し置いてるのはどうかなと思って」
「なんでそんな……」
「だって今の私はセシルに養ってもらってるようなものでしょ。だから……」
「そういう気の使い方はしなくていい」
ため息をつかれてしまった。
「無理だよ。だって私はこういう格だもん」
マイアはきっぱりと言い切って近くまでやって來たルカを見上げた。
「ベッドは今日はセシルが使って。明日は私が使うけど、明後日はセシル。それならいいでしょ?」
この宿には三泊する予定である。テルースの祭禮を見して、その翌日には再びアストラを目指すつもりだった。
「……逆にしよう。今日と明後日がリズ、明日が俺。リズは酔うから移の前日はちゃんとベッドで寢た方が良い。その代わり出発の朝には治癒魔をかけてしい」
妥當な落としどころに思えた。
「わかった。そうしましょう」
頷くと、ルカは蓋の付いた籐の籠をテーブルに置いてマイアの座るソファの向かい側に腰かけた。
「もしかしてそれ、完した?」
ルカが指さしたのはマイアの手の中にあるワンピースだ。
「うん。わかるの?」
「魔力をじる」
「とりあえず式部分だけ完したの。もうし糸で刺繍をれたいんだけど、それはまた今度にして、セシルの服を先に魔布にしたいなと思って。魔布に変える服を出しておいてくれる?」
「わかった」
ルカは頷くと、立ち上がって床の片隅にまとめてある手荷の方に向かった。
「これ、中は何なの?」
マイアは目の前に置かれた籠の中が気になってルカに尋ねた。
「さあ。何も聞いてない」
「開けてみるね」
マイアは斷ってから籠の蓋に手をかけた。そして中を見て目を丸くする。
「何だった?」
「仮裝の服みたい。これは……神と人狼かな……?」
神と人狼は、人同士や若い夫婦に人気の仮裝だ。
これは、大地母神テルースと天空を司る主神エアの求婚の神話が元になっている。
天空神エアは、天上よりテルース神を見初め、金の狼に変して地上に降り立ちしずつ親を深め結ばれたと言われている。
籠の中にっていたのは、神の象徴であるダークブラウンのドレスと若葉を模した髪飾り、そして金の耳付きのヘアバンドと尾がっていた。それと二人分の目元を覆い隠す仮面も。
裝も仮面もしっかりとしたつくりになっているが、髪飾りが特に綺麗だった。
寶石に似た輝きを持つ水晶硝子のビーズがふんだんに使われていて、かなり値の張るものに見えた。祝祭が終わっても、ちょっとしたお出かけの時に使えそうなものである。
「カードがってる」
マイアは籠の中にっていたカードを取り出す。すると、『これでテルースの祝祭を楽しんでください』と書かれていた。
「明日お禮に行かないとね……」
「そうだね。お見舞いがてら様子を見に行こうか」
マイアは髪飾りを手に取ると、ドレッサーの前に移して自分の髪に當ててみた。
◆ ◆ ◆
ルカから対象外だと突き付けられたのはかえって良かった。
天風呂から上がったルカを見ても、雰囲気のある部屋で一夜を過ごすという事にも心臓がうるさく抗議してくる事が無くなったからだ。
自分でも自分の切り替えの速さに驚きだが、結局ルカの言った通り、マイアの心らしきものは錯覚で、本のではなかったのかもしれない。
テルースの祭禮が終わったら、朝早くにキリクを発つ予定だった。
だから街で補給をする機會は今日しかない。マイアとルカが仮裝の裝のお禮の為にライウス商會に行けたのは、日が傾き始めた頃だった。
祭禮を翌日に控えた中心街の市場は、祭りを當て込んだ大道蕓人に屋臺、そして既に仮裝している気の早い人たちのせいで恐ろしい混雑になっており、必要なものを買うのに一苦労だったのだ。
ライウス商會はキリクでは大きな薬種商で、店構えは立派だし従業員の服裝なども清潔がある。
仮裝裝と宿の手配のお禮兼お見舞いとして、季節の果に花を添えてライウス商會に持參すると、商會の人々からは逆に恐されてしまった。
エミリオの所には友達がお見舞いに來ていたので、マイアとルカはまずアンセルの所で時間を潰してからエミリオの部屋へ顔だけ出しに行った。
「セシル兄ちゃんとリズ姉ちゃん!」
マイア達がエミリオの部屋を訪問すると、幸い既に見舞いに訪れていた子供たちの姿はなくてマイアはほっとした。
エミリオは命の恩人であるマイアたちに懐いてくれて、言葉使いはちょっと暴だがおおむねいい子だ。
そんなエミリオの友達だから、ライウス商會と似たような商家の子供たちだろうし、そこまで暴な子供はいないとは思うのだが、いかんせん心の中に刻み込まれた男の子への苦手意識はどうしようもないのだ。
「友達は? 帰ったのか?」
ルカの言葉にエミリオはこくりと頷いた。
時計を見ると五時を回った所だが、季節的に既に外は薄暗くなっている。
「最近下町や貧民窟で子供が消える事件が起こってるらしいんだ。それで家の人や店の人が迎えに來て、皆帰っちゃった」
「消えるって拐って事?」
マイアの質問にエミリオは頷いた。
「うん。人売買組織の仕業じゃないかって大人たちは噂してる」
隨分と騒な話だ。ルカも眉をひそめている。
「キリクはそんなに治安が悪い街だったかな?」
「ううん、先月の末あたりからだよ。一番最初は下町での子が居なくなったって騒ぎになったのがきっかけだったかな? それから立て続けに二人いなくなって……貧民窟でも浮浪児の徒黨(チーム)がいくつか姿を消してるもんだから、今ちょっとした噂になってるんだ」
どこの街の貧民窟にも、路上生活を営む子供たちがおり、街の治安を悪化させる要因となっている。
彼らの大抵は貧困層に生まれた子供たちだ。
親が娼婦だったり、同じ路上生活者だったり、逃げてきた被待児だったり――。
子供たちは徒黨(チーム)と呼ばれる集団を作り、乞いや簡単な雑用を請け負い生計を立てているのだが、中にはスリや強盜といった犯罪に手を染める悪質な徒黨(チーム)も存在する。そんな連中が最終的に行き著く先は暗黒街だ。
寄りのない子供の中でも孤児院という枠組みの中に保護される子供はほんのひと握りだというのがこの國の福祉の実だ。
孤児院も限られた予算の中でやりくりしており、決して良い環境とは言えない。しかし、なくともその中で生活してきたマイアは、貧民窟の浮浪児よりは恵まれていたと言えた。
「怖いね。気を付けてね」
何にしても貧民窟の徒黨(チーム)が消えるというのは穏やかではない。マイアが聲を掛けると、エミリオは眉を下げた。
「出掛けたくても當分は無理かなぁ。ほら、こんな狀態だからさ」
昨日の今日だからエミリオの顔にもにも、痛々しい打撲痕が沢山殘っている。
「そうだったね。お大事にしてね」
(完全に治してあげられなくてごめんなさい)
マイアは何度目になるかわからない謝罪を心の中でつぶやいた。
傷薬や腹痛の薬、酔い止めなど、常備薬をいくつか買ってからマイアたちはライウス商會を後にした。
アンセルやエミリオとは再會を誓って別れたものの、その日がきっと來ないのだろうなと思うと、後ろめたくなった。
聖はどの國に行っても大切に保護され囲いこまれるものだ。亡命に功したら、きっとアストラから簡単には出國できなくなる。
この國にあまりいい思い出はないけれど、首都の神殿には両親が眠っている。會いに行けなくなるのだと今更ながらに思い至って、切なさと悲しさが湧き上がった。
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