《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》マスカレイド・パーティー 04

人の群れからどうにか細い路地に避難する事に功し、マイアはほっと一息ついた。

騒ぎの中心になっている馬が暴れているあたりは大変な騒ぎになっている。

きっと怪我人が出ているのだろう。

治癒魔を使えばその人たちの傷を癒してあげられるけど、今は名乗り出ていい狀況ではない。

また目を逸らさねばいけない事に心が痛んだが、マイアは気持ちに蓋をして、自分の事を考えた。

ここはどこだろう。

魔力に目覚めてから、マイアの周りには常に誰かしら人がいた。純粋に一人になるのは初めてだという事に思い至ると途端に不安になった。しかもここは土地勘のない場所である。

一応お小遣い程度のお金は持たせて貰っている。

(誰かに道を聞けば大丈夫。親切そうな人を探そう)

マイアは気持ちを落ち著けるために深呼吸をしてから周囲を見回した。

その時だった。

「ママ!」

そんな高い子供の聲がしたかと思うと焦げ茶の服が後ろから引っ張られ、マイアは目を見開いた。

後ろを振り返ると、六、七歳くらいだろうか、妖の仮裝をした小さなの子がマイアの仮裝裝の裾をぎゅっと握っていた。

の子と目が合った。すると母親ではない事を認識したのだろう。の子の目にみるみるうちに涙が溜まったかと思うと、堰を切ったように大聲で泣き始めた。

マイアはその場にしゃがみ込むと、の子と目線を合わせて慌ててなだめた。

「どうしたの? お母さんとはぐれたの?」

マイアが苦手とするのはエミリオには悪いが十歳前後の男の子で、このくらいの年齢の子供なら男問わず平気だ。

そんなに子供が好きという訳でもないが、孤児院時代に小さな子供の子守は年長者の仕事だったので扱いには慣れている。

が、の子はひきつけを起こしそうな勢いで泣いていて話にならない。

マイアは言葉でなだめるのを早々に諦めると、立ち上がっての子を泣き止ますためのタネを仕込むことにした。

準備が終わったら、髪に挿した花を右手に取っての子に差し出す。

現金なもので、の子がぴたりと泣き止む。

でもすぐには渡さない。の子が花をけ取ろうと手を出してきたところで、くるりと手首を返して裝の袖の中に花を隠し、代わりにこっそりと仕込んでおいた飴玉を出す。

「ええっ!? お花はどこいったの?」

「お花はこっち」

マイアはにっこりと微笑むと、左手に仕込んだ花を取り出しての子に差し出した。

この手品は孤児院時代、祭の出しの為にに付けたものである。久し振りでちょっと不安だったがうまくできて良かった。マイアは手持ちの小さな鞄の中から手巾を出して、の子の涙と鼻水を拭いてやった。

「お姉ちゃんは魔師なの?」

「まさか! 今のはただの手品。魔師はおめめの外側が金になるのは知らない?」

「そっか! そうだった! ねえねえ、どうやったの?」

マイアは微笑むと誤魔化した。服の袖と手の技、そして視線の導などを利用した簡単な手品だけど、タネを明かしたら白けてしまう。

「それよりもお母さんを探していたんじゃないの?」

「あ……」

の子の顔がくしゃりと歪み、また今にも泣き出しそうになった。

「探そう! 私も一緒に探してあげるから!」

マイアは慌てて聲をかけた。

「……ほんとに? 一緒に探してくれる?」

「うん。実はお姉ちゃんも迷子なんだ。旅をしてるんだけど、泊まってる宿の場所がわかんなくなっちゃったの」

「何それ、大人なのにおかしいよ!」

の子はようやく笑顔を浮かべてくれて、マイアはほっとしながらの子に手を差し出した。

カーヤと名乗ったの子は、自分の住んでいる通りの名前がちゃんと言えたが、殘念ながらよそ者のマイアにはそれがどこなのかわからない。

きょろきょろとあたりを見回しながら、當初の予定通り人に道を聞く事にした。

「もしかして何かお困りかな、お嬢さん」

聲を掛けてきたのは腰の曲がった老婆だった。人の良さそうな優しげな顔をしている。

「迷子を保護したんですが、この街は初めてなので家の場所を聞いてもわからないんです」

「旅行かい? この街の溫泉はいいからねぇ……」

「そうなんです。夫と來たんですけどはぐれてしまって」

夫、とルカを表現するのは凄く恥ずかしい。

「あの……もしおわかりになるようでしたら宿の場所も教えていただけると嬉しいんですが」

「私でわかれば教えてあげるよ。まずは迷子をお家に連れて行ってあげようねぇ。お嬢ちゃん、お家はどこだい?」

「フレーベル通り……」

カーヤは恥ずかしいのか、マイアの影に隠れながら老婆に家のある通りを告げた。

「フレーベル通りはこっちだよ。ついといで」

どうやら口頭で説明するのではなく連れて行ってくれるようだ。マイアはカーヤの手を引くと、ゆったりと歩き始めた老婆の曲がった背中に従った。

◆ ◆ ◆

それは唐突だった。

老婆に従って細い裏路地をゆったりとした速度でカーヤと一緒に歩いていたところ――。

背後から突然手がにゅっとびてきて、マイアの口に手巾と思(おぼ)しき布を押し當ててきた。

「!?」

ぎょっと目を見張ったマイアのが背後から羽い絞めにされる。布を押し當てている人とは別の男の腕だった。

「やあ! なにす……!」

手を繋いでいたはずのカーヤはと言えば、麻袋のようなものを頭からすっぽりと被せられている。

抗議の聲が途中で途切れたのは、袋を被せた暴漢が蹴りをれたからだった。

「やめな! 傷付けたら価値が下がる!」

一喝したのは老婆だった。いつの間にやらその背筋はしゃんとび、鋭い眼を暴漢に向けている。

(演技だったんだ)

瞬時にマイアは理解した。戸っているうちに、襲い掛かってきた男たちによってマイアは縄で縛り上げられ、口には猿轡を噛まされていた。

暴漢たちは祭の日にふさわしく全員が様々な仮裝裝にを包んでいた。派手な仮面に隠れてはっきりとした顔立ちはわからないが、手慣れているような印象をけた。

マイアの側に老婆がやってきて、冷たい眼差しを向けてきた。

「気の毒にね。折角新婚旅行に來てたってのに」

ちっとも気の毒になんて思っていない口調だった。

……最悪だ。こんな連中に捕まるなんて。

自分はこれからどうなってしまうのだろう。

(ルカ……)

マイアの目にじわりと涙が滲んだ。

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