《【書籍化】雑草聖の逃亡~出自を馬鹿にされ殺されかけたので隣國に亡命します~【コミカライズ】》檻の中 02

カーヤの治療は終わったものの、意識が回復するまではしかかりそうだ。

命の危険にさらされていた重癥者にはよくある事である。

「マイア様はどうしてキリクに? 今は冬の討伐の時期ではないのですか?」

ネリーがぽつりと尋ねてきたのは、カーヤが冷えないようマイアの仮裝裝を使い、保溫のためにくるんであげてからの事だった。

「……し事があって」

どう答えたものか迷いながら返事をするとネリーは眉をひそめた。

「もしかしてマイア様……駆け落ち……」

そういうことにしておいてもいいだろうか。

貴族の娘であるネリーに、命を狙われたから隣國に亡命するところです、と真実を告白するのはためらわれてマイアは口ごもった。

「やっぱりそうなんですね? だって第二王子殿下とはあまり上手くいっていないって評判でしたもの」

ネリーは勝手に納得したようで、うんうんと頷いている。

「そんな事がネリー様のように小さなお嬢様達にも噂になっていたのでしょうか」

マイアが尋ねると、ネリーははっと口元を抑えた。

「えっと……友人からではなくていとこのお姉様から聞いたんです。申し訳ありません、ご不快でしたよね……」

「いえ……事実なので……」

「まあ……アベル殿下ったら何がご不満なのかしら」

ネリーは憤慨した表を見せた。

「マイア様は素晴らしい聖様です! お祖父様は孫の私から見てもなかなかのクソジジイでしたもの。そんな人を嫌な顔一つせず治療して下さったでしょう? そんなマイア様が気にらないだなんて、逃げて正解です」

ネリーの中では駆け落ちは決定事項のようなので、もうそれでいい気がしてきた。

討伐隊の中でも恐らくマイアは一緒に埋められていた騎士と駆け落ちしたことになっているはずだし。

「あの、參考までにお尋ねしたいのですが、お相手はどんな方ですか?」

「えっと……討伐隊に參加していた傭兵です」

この流れだと駆け落ち相手はルカにするしかない。

心の中で冷や汗をかきつつ返事をすると、ネリーはきらきらと目を輝かせ始めた。

「聖様と一介の傭兵のだなんてまるで語みたい! ねぇ、お相手はどんな方ですか? 顔は? 傭兵という事は屈強なつきをなさっているんでしょうか」

矢継ぎ早の質問にマイアはを引いた。

「そ、そんな事よりもネリー様、どうして貴族のお嬢様のあなたがこんな所に……」

「まあ、どんな方がマイア様のお相手かは大変重要なのですが……それは後でゆっくりとお聞きするとして、私が攫われたのは護衛を撒いてお祭りを楽しんでたからですね」

そう言ってネリーは肩を落とした。

「キリクはうちが飛び地で持っている領地で……當家は毎年キリクで湯治がてらこの祭の時期を過ごす事になっているのです。でも折角のテルースの祭禮も、護衛が一緒だと楽しめないんですよね。屋臺の食事は不衛生だの、的當ては淑のする事ではないだの口うるさくって……」

し気持ちは分かるかもしれない。大人の干渉が鬱陶しくて仕方がない時期は誰にでもあるものだ。

「連中には分は明かされたんですか?」

「ええ。ですが代金等を要求するつもりはないようです。足がつく恐れがあるから、當初の予定通り『依頼主』に売り飛ばすと鼻で笑われました」

はあ、とため息をつきながらネリーは落ち込んだ表を見せる。

「あのセルマとかいう老婆が聞いてもいないのに教えてくれました。私達はどこぞの頭のおかしい魔師貴族に人実験の材料として売り飛ばされるそうです」

「人実験っ……!?」

生きた人間を使った魔実験は當然倫理的な観點から許されない。

しかし、一部の人を人とも思わない魔師の中には、裏の市場を通じて人間を売買し、人実験に用いる者がいると言われている。

「貧民窟や下町で子供が拐される事件が起こっていると聞きました。もしかして関係が……」

「あるかもしれません」

ネリーは頷くと目を伏せた。そして吐き捨てる。

「腹が立つのはあの老婆、貴族が気に食わないそうで私の恐怖に歪む顔が見たい、などと言い放ったのです! ……絶対に泣いてなんかやらないわ。きっとうちの者が私を助けに駆けつけてくれるんだから」

言葉は気丈だが怖いのだろう。ネリーの表は今にも泣きだしそうだった。

「私も同じ貴族に売られるのかしら……」

魔力保持者のはさぞかしいい実験材料になりそうだ。マイアはを震わせた。

「悪黨の思考はわかりかねますが、ろくな目に合わないのは確かだと思います」

「……ネリー様、できれば私が聖だということは黙っていて頂けるとありがたいのですが……」

「そうですね。不幸にも拐された聖様の中には治癒能力を限界まで搾取された方がいらっしゃったと聞いております。隠しておかれた方がいいでしょうね」

頭のいい子だ。初めは生意気に見えたネリーだが、こうして話してみるとまるで大人を相手にしているような錯覚を覚えた。

「ネリー様はおいくつでいらっしゃるんですか?」

「十三歳です」

見た目通りの年齢だった。

「とてもしっかりされていますね」

「……褒めても何も出ませんよ。こんな狀況ですもの」

恥ずかしそうに頬を染めるとネリーは目を逸らした。

「私のことはリズと呼んで頂けますか? 駆け落ちに協力して下さる方が用意してくれた偽名なんです」

マイアという名前から経歴がたどられるかもしれない。マイアはネリーに偽名で呼ぶよう依頼をしておく事にした。

「ますます語みたいです! リズ様ですね、間違えないようにしなくては……」

幌馬車を外界から隔てるカーテンが開けられたのは、ネリーとそんな會話をわしいてた時だった。

「商品同士隨分と仲良くなったみたいだね」

顔を出したのはセルマだった。後ろにもぞもぞとく麻袋を二つ抱えた大男を従えている。

「お仲間だよ。こいつらとも仲良くしてやんな。短い付き合いになると思うけどね」

セルマが檻の出口を開くと、大男が麻袋を中に放り投げてきた。暴な扱いに、中からはくぐもったうめき聲が聞こえた。

再び檻も幌馬車のカーテンも閉ざされる。

マイアはネリーと顔を見合わせると、麻袋に近付いた。

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