《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》03 出會い
結局、その日は野営場まで辿り著けず、到著できたのは次の日の晝過ぎだった。
消費した食料は殘っていた白パンと塩辛い干しが一欠片。その他はそこら中にある黒いベリーで空腹は誤魔化した。
計算では切り詰めても食料は三日分。隣町まで移を考えると二日で何かしらの戦闘手段を考えないといけない。
晝間から野営場を使う人はいないから私の他には誰の姿もない。
私は周囲を警戒しながら近づいて焚火後の灰に手でれる。灰は新しいが熱はほとんど殘っていない。多分、今朝にすれ違った旅人が使ったのだろう。水をかけられた跡もないので朝は火を使わなかったのか。
私は街道沿いの森の中で獣道を使っていたので、その旅人には見つかっていない。私が使った獣道は狼が人を襲うために使っていた道だろうか? でも新しいもフンも落ちていなかったので狼は本當に出てこないのだと思う。
火を付ける用意をしていないので種火でも殘っていれば助かったのだけど、無いねだりはしない。
私は灰を一握り摘まむと頭にまぶす。
長い髪は切り落としたけど、私の桃がかった金髪はとても目立つ。これでしは目立たなくなってくれれば後が多楽になる。
近くの木の影に荷を隠してから、ナイフと水筒だけを持ってまずは水場を探す。
あるはずだと思って探してみると街道の踏み固めた道を橫斷するように小川が流れていた。し正確じゃない。街道の下を通って低いほうの森の中で水が湧き出していた。
上の方を見てみるとし分けったところにも小川があり、巖の割れ目というか窪みに流れ込んで、道の下を通ってまた湧き出しているのだ。
基本的に川の水は上流のほうが綺麗だと思うけど、それでも煮沸もせずに飲むのは危険だと判斷する。
とりあえず川の水で手を洗い、布を濡らしてを拭う。別に綺麗好きというわけではないけど、汗や垢を放置して匂いで存在がバレるのは馬鹿らしい。
水もそうだけど火の用意が出來なかったのは、あの孤児院に火打ち石が見あたらなかったからだ。あの孤児院では年上の孤児が【生活魔法】で火を熾していた。
この世界には『魔法』がある。正確には一般的に使われるのは『魔』と言われている。その二つの違いは、『魔法』が昔からある原初のもので、學的に解析されて比較的大多數に使えるようにしたものが『魔』だ。
例えば、自分で一から部品を考えて作った馬車が魔法で、市販品の馬車が魔みたいなじかな? 使えるようになるまでどちらが楽か考えるまでもない。
あのは魔師らしくその手の知識を多く持っていた。ただ興味のあること以外は不勉強で、所々怪しい部分はある。……厄介な。
魔法には、・闇・土・水・火・風の六種類の屬があるけど、正確には屬のない無屬の魔法があるので七種類とも言える。
人は自分に合った屬で、一定以上の魔力があれば魔を行使できる。
自分がどの屬を使えるのか簡単に調べる便利な道はないので、それなりに手間がかかるし、その時點で平民の大部分は魔を使うのを諦めるらしい。
あのは、手をかざすだけで屬が分かるような便利な道があると想像していたらしく、現実に憤慨していた。……いらない知識だけはよく覚えている。
いずれ私も魔を覚えるつもりでいるけど、今必要なのは【生活魔法】だ。
生活魔法は無屬に分類される。それで火を熾したり水を出したり出來るけど、どうしてそれが屬魔法ではないかというと、一般的にはよく分かっていない。
あのの師匠は、使用する魔力量の差だとか、それによって空間に干渉する因果律だとか、世界の源に関係しそうな凄く重要なことを教えてくれていたのに、あのは興味がなかったようで碌に覚えていなかった。
生活魔法は六種類あって平民でも使える人は多い。でも全員じゃない。使える人でも一つか二つだけだと“知識”にあった。
一応、あのは、魔師の嗜みとして六種全部を師匠に覚えさせられていた。
ロウソクほどの源を作る【燈火(ライト)】
燈火(ライト)を打ち消しランプのを遮る【暗闇(ダーク)】
土を固めてくする【化(ハード)】
小さな火を熾す【火花(ファイア)】
コップ一杯ほどの水を出す【流水(ウォータ)】
そよ風を起こす【流風(ウィンド)】
この六種類で、一番覚えている人が多いのは【燈火】で、二番目は【火花】。三番目は【流水】なんだけど、その他を覚える人は滅多にいない。だから全部覚えないのかといわれると、そうではなくて単純に覚えるのが面倒らしい。
……でも、これって『屬六魔法』の基礎になるんじゃないの?
この生活魔法、『魔』でなくて『魔法』というところがミソで、平民でも使える魔法ということで魔として解析されず、使える人間は使っている人を何度も見て、偶発的な“運”で覚えるそうだ。
だから狙って覚えるには、それを何度も見てと覚で覚える必要がある。
それと基礎的な話になるけど、屬魔法は呪文の詠唱が必須で、無屬魔法は単音節のみで発が可能になる。
なので、無屬である生活魔法は呪文が必要でない、ということで逆に使いやすいと思われている。実際には解析されている魔のほうが使いやすいと思うけど。
あのは師匠に嫌々覚えさせられたので、訓練方法をよく覚えていた。
だけど、私はその前段階で躓いた。その訓練方法をするには自分の中の魔力をじないといけないらしいが、私は自分の魔力が良く分からなかった。
とりあえず、あのの“知識”の中で魔力に関することを捜してみる。
まず前提として、この世界の生きは例外なく“魔力”を持っている。それはその世界にその基となる“魔素”があるからだ。
大気だけでなく水や土にも魔素が満ちており、それは霊のおかげだとか魂が生みだしているとか諸説あるけど、要するに呼吸をして水を飲み、大地の恵みやのを食べることで、が魔素を溜め込むようになるそうだ。
その溜まった魔素をエネルギーとして使える狀態にしたのが魔力で、一定以上の魔力を持つと、魔力を自力で生み出す『魔石』がに生されるらしいけど、それもひとまず置いておく。
要するに私の中にも魔力は必ず存在する。でも周りに魔素が満ちているせいか、自分の魔力が區別できない。
それは自分の中にある酸素量をじろというのと似ていると思う。
……へたに知識を得たせいで理屈っぽくなっているな。でも覚ですべてが覚えられると自惚れるほど自信家じゃないし、悠長にできるほど余裕があるわけじゃない。
うん……酸素量は分からないけど、水分量ならわかる。あのの知識では子供の水分量は約七割だそうだ。
自分の手首に指を當てて脈をじる。トクン…トクン…とが流れている。
魔石は魔素がを介にして生される。だったらこのの中にも魔力は流れているはず。目を閉じて魔力があるはずのの流れをじようと集中していると、微かに……何か……
結果として微かにじたそれが、魔力なのか気のせいなのかも分からなかった。
焦っても仕方ないけど余裕がないから気は逸る。でもこれだけをしているわけにもいかないので、とりあえず荷の隠し場所を捜しながら周囲の地形を把握し、黒いベリーを採取しながら、呼吸で多くの魔素を得られるようにイメージを繰り返した。
結局、魔力をじることは出來なかった。これは考え方を変える必要があるかもしれない。空気中の水分をじるのは難しいけど、雨は分かる。だから誰かに大きな魔力をぶつけてもらうのが早い気がしたけど、これは人を避けている私では現実的じゃない。 私はし小川を遡ったところに見つけた巖の隙間にを隠しながら、小川で洗ったベリーを口に運びながら考える。
魔法の他にやっておくことを整理してみた。
ナイフは使えるようになっておくべきだろう。あのは魔師だけど一応短剣を扱う技――【短剣スキル】を持っていた。
ここでし【スキル】のお復習いをしておこう。
スキルとは人間が持つ技能のことで、特別に凄いモノではない。
あのは【スキル】を特殊能力(チート)だと思っていて、それさえあれば好き放題できると考えていたようだけど、世の中そこまで安易じゃなくて例の如く勝手に憤慨していた。
特殊能力じゃなくて【加護】はあるようだけど、それはスキルとは違う。
スキルは一般技能の『焼き付け』だと、あのの師匠は言っていた。
人は意識的に行うその行為を何度も繰り返していると、それがの魔力と融合して“魂”に『焼き付き』という現象が起きるらしい。
それを分かりやすく言語化したものが【スキル】と呼ばれる。
だから別にスキルが無くても同じことは出來る。ただ魂に焼き付いた行為は失敗しにくくなるし、忘れなくなる。
例えば、剣は一日休むと取り戻すのに三日はかかるという。でも【スキル】で覚えた技は忘れないので、修行の効率が良くなり、さらなる技を覚えやすくなる。
調が悪くなったり焦った時でも、意識的に行っていた行為が無意識に出來るので、戦闘ではかなり楽になる。
ただスキルは簡単に得られるものじゃないし、『スキルレベル』を上げるにはそれ以上の修練が必要だった。
ただ型を覚えたからスキルレベル1とか安易なものではなく、正確な作を何度も何度も繰り返さないとスキルは得られない。
あのの場合は、嫌々やっていたせいで【短剣スキルレベル1】を得るのに三年近くもかかっていた。その分、【火魔法スキル】を數ヶ月で得ていたけど、それは才能じゃなくて単純に好き嫌いの差じゃないかな?
あのは【ランク2】の魔師だった。
ランク2とは、戦闘に関する【スキル】が『2レベル』あるということだ。あののスキルは火魔法と水魔法が2で、短剣が1だったかな? 他にもあるけど一般技能だから記憶は曖昧だ。
スキルレベル1とは初心者だけど素人じゃない。レベル2になってようやく一人前っていうのがこの世界の常識みたい。
スキルレベルが3になるとプロってじになって、貴族とかにも雇ってもらえる。レベル4だと貴族や國が勧に來て、レベル5にもなると師範とか尊敬されるようになるし、一般的には『達人』と呼ばれるようになる。
ところがこの上もあって、レベル6だと人の枠組みを超えるような人達で、大國の筆頭宮廷魔師や騎士団の指南役で『剣聖』とか、雲の上の存在になるそうな。
未確定報だとスキルレベルは10まであって、そこまでいっちゃうと『亜神』とかになって、もう“人”じゃないらしい。あくまでお伽話の伝説だけど。
あのはスキルが特殊能力(チート)じゃないことをずっと不満に思っていたみたいだけど、私は【スキル】が、あのが思っていたような『神から與えられた安易な力』じゃないことに安堵している。
だって、それって『神』という不確定な存在に支配(・・)されているってことでしょ?
安易に與えられた特殊能力(チート)は、それを與えた存在の気まぐれで簡単に消えてしまうかもしれない不安を常に抱えている。
だから私は世界に1本しかない強力な武にも興味はない。奪われたらなくしてしまう強さなんて、自分の“強さ”なんて言えないから。
そんなことを考えていると辺りが暗くなってきた。ベリーを食べていたからお腹は減っていない。でも水筒の水はかなり心許なくなってきた。
ベリーで水分補給はしているけど、それだけじゃ足りないので生活魔法を覚えられなかったら、危険を承知で小川の水を飲むしかない。
魔力は暗くなってから考えるとして、暗くなる前にしだけナイフを練習してみようと考えた。
あのの知識にある【短剣スキル】でナイフの構えからやってみる。どうやらあのを刺した時から、握りだけは無意識にちゃんと出來ていたみたい。
「…………っ」
攻撃をける面積を減らすように半になって片手でナイフを突き出してみる。
遅い。まともに使うのが初めてだとしてもあまりにも稚拙すぎる。型も々いっぺんにやるのは止めて、まずはこの突きだけを練習しよう。
何度か突きの型を繰り返し、が落ちて碌に見えなくなったところで息を吐く。
結構集中していたのか辺りはすっかり闇に包まれ、近くを流れる水の音だけがやけに耳に響いた。
し魔力をじる練習をしたらもう寢てしまおうか。そう考えていると、遠くにチラチラと緋の明かりが見えた。
野営場に人がいる? まだ人と接するつもりはないけど、もし野盜か何かだったらここを離れたほうがいいだろう。そう考えて靜かに野営場を茂みから覗いて、焚火の近くで串に刺したを焼く黒い革鎧を著た大きな男の背中を見ていると、唐突にその男が聲を張り上げた。
「誰だっ!? 出てこいっ!」
アーリシアが住むサース大陸と、舞臺となる大國クレイデールの地図になります。
大陸の大きさはオーストラリアくらいだと思ってください。
歴史的にはクレイデール國が二つの國家を併合した形になります。
主人公の現在地點は、北にあるトーラス伯爵領の寄子であるホーラス男爵領です。小さく見えますが東京23區の半分程度の広さはあります。
小さく區切られている部分が貴族の領地です。
同じ貴族でも士爵や準男爵は、領地ではなく男爵以上の貴族の下で町や村を治めています。屋敷だけでどこの土地も治めていない貴族も存在します。
次回、その男の正
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