翌朝も朝日と共に目を覚ます。まだ野営地には人がいるはず。そちらへ目を凝らすとほんのりと赤いが見える気がした。

晝間は夜よりも分かりづらいけど、まだ昨夜の魔素屬を『』で視る認識は続いている。どうやらこれは気のせいでなくて、本當に私の脳が魔素にがあると『認識』しちゃったせいみたい。

でもフェルドもあのの師匠も魔素は『じろ』と言っていた。では『視る』というのは異端なのかもしれない。今の私だと周囲の魔素をじるのは數メートルが限度だけど、『視る』のならもうし遠くまで分かる。

これは私の“武”になる予がする。

もうし魔素をじる覚を鍛えれば、目で視る魔素の範囲も広がるかもしれない。そして今の認識を強く意識して、もっとハッキリとを視えるように鍛えよう。

私は魔素を『』で視ることと覚で『じる』ことを意識しながら、野営地から離れるように日課にした野草と黒ベリーの採取をはじめた。

食料は本當に心許ない。干しやチーズは明日の分で終わるのでそろそろ町に向かうべきだろうか。

途中で寄った小川の上流で洗った黒ベリーを食べて顔を洗う。口をよくゆすいで削った薬草ので歯をるのは、両親が生きていたころから何度も言われてきた習慣のようなものだ。

最後に生活魔法の【流水(ウォータ)】で水筒に水の補充をしながら、昨夜最後に出來たことを考える。

魔素のが視えるようになって、周囲のを意識して吸い込み、私の魔力のを合わせることで、私の気配が森に溶け込んだような気がした。これが気のせいでないのなら【隠】にとても有利になるかも。

「…………」

魔素にがあると意識して目を凝らすと、周囲の景が薄く付き、見えていないところまでも“視えて”くる。

昨日の覚を思い出しながら呼吸で魔素を取り込み、私の中にある明な無屬の魔力を、周囲と同様の“”に染め上げていく。

周囲には屬の魔素が溢れているのに、どうして自分の魔素は無屬になるのだろう？　そういえば、魔力を使いすぎると飢狀態になるのは、この世界の生は魔素も栄養素の一つとして取り込んでいるからだ。ということは、が魔素の屬だけを取り込んでいるのだろうか？

考察は後にして、大地の黃、水の青、風の緑、闇の黒はなめにして、その代わりにの白を多めに取り込んだ。

……完全に同じにはならない。吸い込んだ屬の割合と言うよりも、その割合を微調整する私の魔力制が未なのだろう。しかもし移すると周囲の魔素の割合が変わるので、その度に魔力の微調整が必要だった。

……これを隠中ずっと続けるのか。

フェルドも隠行中は、周囲の魔素の流れを読んでそれに合わせろと言っていた。魔素の流れ……魔素の度を合わせることと、無意識に屬を合わせるのだと言っていたのかもしれない。

すごく面倒……でもまぁ、やるしかないんだけどね。

魔力の合わせを鍛錬しながら野草集めを再開する。

山菜類は昨日で懲りたので、薬に使えそうな薬草類を中心に摘んでいく。

一般家庭で常備薬として使われる薬草は比較的にどこでも生えている。これは傷口の雑菌を消したり、軽い食中毒の腹痛を治す、消毒効果のある毒消しの一種らしい。

（っ！）

その時、不意に近くの藪から緑蛇が現れた。

緑蛇は長１メートル程度の弱い麻痺毒しか持っていない蛇で、野ネズミより大きな獲は襲わない大人しい蛇だ。それでも危険になれば襲ってくるし、噛まれれば１時間は麻痺してまともにけなくなる。

人里ならともかくこんなところで麻痺なんてしたくない。

「…………」

だけど、緑蛇はすぐ側にいる私に気付かなかった。魔力を合わせているので私がいるのが分からない？

あのの“知識”だと蛇は生きの熱をじることが出來るらしい。だとすると魔力を合わせることで熱知すら誤魔化すことができるのか。いや、この世界の蛇は生の魔力を知しているのかも？　どちらにしても野生に知されない程度の隠ができていることに安堵する。

私は周囲の風の流れと合わせるようにナイフを抜くと、そのまま刃を蛇の頭部に振り下ろす。暴れて腕に絡みつこうとする緑蛇。私は慌てずにゆっくりと深く突き刺し、それから首を斬って絞り出すようにを抜いた。

晝頃になって旅人がいなくなった野営地に戻り、商人の馬車もいないことを確認すると、焚火に火を熾して食事の準備に取りかかった。

生煮えの山菜はこりごりなので今日は無難に焼きにする。フェルドは切れ目をれただけで一気に蛇の皮を剝いでいたけど、私にそんな筋力はない。

なのでぶつ切りにしてひとつずつ剝こうと思ったけど、骨があるのでそれすらも苦労したが、強化の訓練も兼ねて全に魔力を循環させると、しだけ切るのが楽になった。

フェルドなら數秒でも、私が処理し終えるまで10分以上かかった。

そのぶつ切りにした蛇を用意しておいた串に刺して火で炙る。ついでに洗った薬草のやチーズや干しも火で炙っておく。

昨日と比べると味しくじる。一応念のために最後に薬草を食べると、その味で全て臺無しになった。

焚火の始末をしていると、昨日の粘土で作ったの破片が殘っていることに気が付いた。【化(ハード)】で固めたは魔力が抜ければただの粘土に戻るはず。

これってもしかして焚き火に當たっていた側だけ、素焼きになったのでは？

上手くすれば適當に作ったでも、ちゃんと素焼きのになるかもしれない。

午後はナイフの鍛錬と新しく作ったスリングの練習をした。

ナイフは短剣の型を正確になぞるだけ。偶に魔力殘量を気にしながら強化も使って繰り返す。

基本的に近接戦闘スキルレベル１を取るのに時間がかかるのは、鍛錬途中で覚えるはずの強化の取得に手間取るかららしい。だから強化を織りぜて鍛錬すれば、習得は他の子供より早いと予想している。

スリングは小川にあった小石を何度も木の幹に投げつけた。

初めは真っ直ぐに飛ばなかった石も、一時間も続けると多は當たるようになってきた。それでもまともに當たるのは３メートルが限界で、さらに鍛錬が必要だろう。

「……あれ？」

でもその時、不思議な現象に気がついた。

スリングの練習をする時に魔力を全に流す訓練も同時にしていると、不意に命中率が上がったような気がしたのだ。

無意識に強化をしていたのか……でも強化にそんな効果があるの？

知識を調べてもそんな記録は見あたらない。もう一度全に魔力を流しながらスリングを持ってみると、私の髪で作った紐の部分だけに微弱だけど魔力が流れていることに気がついた。

私から切り離されても、髪のには私の魔力がわずかに殘っていて、私の魔力に反応して流れるように馴染んでいる。

自分の魔力を認識できた私はの流れに沿って魔力を流している。の流れで勝手に魔力が流れているのだと思っていたけど、もしかしたら私は自分の意志で魔力そのものをかしていたのかも。

だとしたら無意識のうちに髪のをの延長としてかし、命中を微妙に補正していた可能もある。の延長だと意識して魔力を流せば、スリングの命中率がさらに上がりそうな気がした。

それにこのことは新たな“武”として使えそうだとじた私は、まだ明るいうちに髪のを使って“新しい武”の製作をはじめた。

「……使えるかも」

夕暮れの中、製作したそれを使ってみて、ギリギリ……相手が油斷してくれる前提だけど、戦えるが出來たと考え、私は次の段階――隣町に向かうことにした。

その日のうちに水の補充と荷の整理をして、最低限の荷とお金の半分をあのの鞄に詰め込み、翌朝、空が明るくなりはじめると同時に出立した。

この野営場から隣町までは、大人の腳で朝早くに出て夕方までに辿り著ける距離にある。まだい私の場合は五割増し程度に見ればいいだろうか？

できれば休憩を多く取っても明日の朝までには辿り著きたい。

歩きながらまた黒ベリーだけの食事をして、食中毒対策に薬草を囓っておく。

あのの“知識”を持つ私としては、よくこんなものだけで病気を防げるものだと心していると、この世界の常識として『魔力値の高い人間ほど病気になりにくい』という“知識”が浮かび、なるほどと納得した。

きちんと複數の屬になるような食事をすればが丈夫になるのかも。

歩きながら魔素の『』をじ取る訓練をして、偶に強化も織りぜていく。

時間経過を知るのは自分の覚と太の角度だけなので、魔力の使いすぎには特に注意した。

これまで習得していなかった生活魔法、【燈火(ライト)】と【暗闇(ダーク)】もこの時間を使って練習することにした。

【燈火(ライト)】は小さなロウソク程度の明かりを燈す魔法で、【暗闇(ダーク)】はを遮り燈火(ライト)の効果を打ち消すこともできる。この二つの魔法を後回しにした理由は、他の四屬の魔法と違って原理が分からなかったからだ。

水なら空気中の水分を集めるイメージで事が済み、風なら魔素ごと空気を押し出すようにして流してやればよかった。

それから私は屬の『』を認識するようになって、意識して水屬の魔素を集めることで水を多く出せるようになった。

だとしたらの白い魔素を集めることで使えるようにならないか。

「【燈火(ライト)】」

唱えた私の手の中に小さなが燈る。そこにあると分かっていなければ気付かないほどの小さなは、気を抜いた瞬間に消えてしまった。

……何がいけないのだろう？　【燈火(ライト)】が功していれば15分程度はが持続するはず。そういえば孤児院で見た燈火(ライト)は、にかけていた気がする。

自分から魔力を切り離す。持続させるにはその魔力をしずつ燃焼……炎の酸素のように燃料として消費させる？

「……【燈火(ライト)】」

ナイフの先に燈火(ライト)をかけてみると、眩しいほどのが広がった。

「だ、【暗闇(ダーク)】っ」

慌てて闇の魔素を集めてぶつけると、燈火(ライト)のは闇と相殺するように消えていた。

さっきの強いは、の魔素だけを集めたせいだろうか？　それと燃焼させるイメージを持ったせいか、切り離した魔力が拡散するのではなく瞬く間に燃え盡きたような覚があった。

これは練習しないとまともに使えないな。でも【燈火(ライト)】だけでなく咄嗟に【暗闇(ダーク)】も使えたので満足しよう。

すれ違う馬車や旅人は森の中にってやり過ごし、森の中でベリーを摘み、量の火で炙った最後の干しとチーズを胃に収めた。

殘る食料は森で採れる黒ベリーと野草のみ。私のスリングではまだ兎は獲れないし、蛇を探してもよかったけど、私は町へ行くことを優先した。

夕方になりが沈みはじめ、私は【燈火(ライト)】を使ってさらに進むか、森の中に潛んで朝を待つか悩みはじめたとき、ふと自分の変化に気がついた。

「……夜が…見える」

たった二日。でもその時間を使って魔素に屬のがあると『認識』を強めた結果、うっすらとだけど植や地面や空が、屬ごとので判別できるようになっていた。

さらに意識を集中すれば、無屬であるの位置さえ見える気がした。

明確に分かるのは20…いや、半徑15メートルくらいか。でもそれだけ分かれば夜を歩くこともできる。

私は一度森の中に潛ると水屬の『青』を捜し、それを多く含んだ黒ベリーを摘んでを休めた。

今日は力が続くまで先を進もう。強化を小まめに使っていたおかげか、まだ疲労は薄い。

しだけの食事休憩を終えると、周囲の魔素にと大きさを合わせて気配を消しながら街道を進む。

それから何度かの休憩を挾みながら夜道を進んでいると、深夜になってようやく隣町の壁が見えた。

設定なども含めて、修行はあまりはしょらない予定です。

次はいよいよ初めての戦闘です。

次回、町へ侵。