《乙ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】》10 初めての買い
年から聞いた浮浪児でも売買ができる店に行ってみる。
老婆の隠し金とあのが持っていた金は銀貨で15枚と小銀貨で8枚。銅貨は武の重りにも使っているので除外して、半分は他の荷と一緒に野営場に置いてきたので、手持ちは銀貨7枚と小銀貨8枚だけになる。
その店はスラム街と低所得者區域の中間辺りにあった。ここまで來るとあまり危険はなさそうだけど、偶に嫌な視線をじる時があったので警戒はしていく。
中にると店の右側にはわずかな食料品が置いてあり、左側は雑貨で奧には目付きの悪い老人がいて、ってきた私をジロリと睨み付けた。
「目付きの悪い、薄気味悪いガキだな」
「…………」
目付きが悪いのはお互い様だろう。
それにしても私が気配を消していたせいか、それとも“の臭い”を嗅ぎ取ったのか、ガキは帰れと追い出されることはなかったけど、警戒もされたようだ。
「投げに使える小さな刃がしい」
「そこに並んでる奴だけだ。他がしけりゃ鍛冶屋に言いな」
顎で示されたその棚には包丁や解用の鉄の刃が並んでいた。小さいのもあるけど今の私にはし重い。
「鑑定水晶はある?」
今の私が町に來た一番の目的は『鑑定水晶』を手にれることだった。
鑑定を覚えるには何十回も使わないといけないが、それよりも今の自分の力を把握して検証を行うためには、ない銀貨を使ってもそれが必要だと判斷した。
「一つ銀貨4枚だ」
「……相場より高いね」
相場だと銀貨3枚だとフェルドは言っていた。
「ここはそういう店だ。嫌ならまともな店で買え」
なるほど。そういう店(・・・・・)ね。
「なら廃棄品はある?」
私がそう尋ねると店主が顔を顰めた。
やっぱりあるか。新品の鑑定水晶は明で、使うとしずつ濁っていくらしい。
大抵の水晶は10回ほど使えるけど、途中で死んだ冒険者の中途半端に使った鑑定水晶はどうなるのだろうか?
まともな冒険者ならともかく、日雇いのようなその日暮らしの冒険者だともしそんなものを拾ったら使わずに売るんじゃないかと考えた。
一から思いついたんじゃなくて、鑑定水晶を知ったとき、あのが拾った水晶を売っていた記憶が浮かんできたからね。
私が廃棄品と言ったのは、それがまだ使えるのかどうか使用するまで分からないからだ。そんなモノはまともな店では扱わない。だから鑑定を覚えたい人がまとめ買いをしているんじゃないかと考えたけど正解だったみたい。
「そっちに転がってる箱だ。纏めてなら銀貨8枚。バラなら1個小銀貨1枚だ」
「選んでもいい?」
「金はあるんだろうな?」
「あるよ」
銀貨を1枚出して店主に見せつける。それで信用されたわけではないけど、廃棄品を選ぶことを「勝手にしろ」と言った。
廃棄品の鑑定水晶の場合、わずかに魔力は殘っていても全く使えない“ハズレ”も混ざっている。そして中には3回以上使える“當たり”もあるはずだ。
箱の中は100個ほど廃棄水晶がある。それを銀貨8枚で買って50回も使えたら大當たりだけど、下手をすれば全部ハズレという可能もあるので、私はそんな賭けをするわけにはいかない。
「…………」
やはり大気に魔素があるので、水晶の微弱な殘り魔力を判別することはできない。だからこそギャンブルなんだけど、私はその中から二十個ほど廃棄水晶を選んで店主のいるカウンターに並べた。
「丈夫な背負い袋もしいけどある? これれて」
「ハズレても文句は言うなよ。水晶が全部で銀貨2枚。背負い袋は、そっちの革の奴なら小銀貨8枚だ」
「言わないよ。も値段もそれでいい。小さい銅の水筒に、こっちの攜帯食料と塩、あとは砥石と……これもちょうだい」
「鉄串か……」
し太めの鉄串が3本売っていたのでそれも買う。
クビになった料理人が職場から盜んだを売りに來たのかな? 煤がこびり付いて真っ黒になっているけど、もしかしたら鋼かもしれない。
確かに料理人か毎日のように野営をする人じゃないと、そんなものは使わないけど、売れて驚くくらいなら何で売ってるの?
食料は塩の小袋を一つ、鹿の干しを一塊、干し野菜を一袋で小銀貨4枚。
小さい銅の水筒は小銀貨7枚とし高い。
あとは鉄串と砥石で小銀貨2枚だった。
「全部で小銀貨41枚だ」
「はい、銀貨4枚と小銀貨1枚」
「ガキのくせに算が出來るのか」
お金を得たことで私も“知識”を使い計算の練習は始めている。まだ足し算と引き算しか出來ないし、それ以上は地面に書かないと計算できないけど、頭の中で考えてお金を出した私に、店主が銀貨の重さを秤で確かめながらボソリと呟いていた。
「買い取りは何ができる?」
「何でも買い取るが、そこらのガキみたいに、どこにでも生えてる薬草なんて持ってくるなよ。大人しく外で兎でも狩ってこい。ちゃんと処理していれば小銀貨1枚で買ってやる」
「わかった」
買ったを大きな背負い袋に詰めて店を出ようとすると、私の背に店主が不意に聲をかけてきた。
「おい、“灰かぶり”。まともな武がしいなら、この通りの端にあるドワーフの鍛冶屋に行け。偏屈な爺だが、雑貨屋の爺の紹介だと言えば、金さえ出せば作ってくれるだろうよ」
「……うん」
灰かぶり…って私のことか。それにこの爺さんに偏屈って言われるドワーフって、どれだけ偏屈なのか。
そして店の外に出ると。
「……なに?」
店から外に出るとあの兄妹が待ち構えていた。
まだ用があるのか。私がジロリと睨め付けると、兄のほうが若干怯んだ顔をする。
「あ、あれ、ちゃんと捨ててきたからっ」
「うん」
そんなことか。
「そ、それと、……誰にも言わないから」
「うん」
「そ、それとっ」
まだ何かあるのか、年は何かあちこちに視線を巡らせ、妹がそんな兄の袖を引く。
「お、俺はジルだっ! 覚えとけよっ!」
「うん?」
「私はシュリっ」
話が進まない兄の後ろから妹のほうがそう言った。
何で唐突な自己紹介? もしかして私の名前が知りたいとか?
どうしてこの二人が、あそこまで脅されて、しかも殺されかけた相手に近づいてきたのか分からないけど、この兄妹が妙な気を起こさないのなら、名前程度は教えてもよいかと考えた。
「私はア……」
いや、本名はやめておいたほうがいいか。
あの孤児院で私の名を覚えている奴がいるかもしれないし、あの『乙ゲーム』とやらで、親族を自稱する貴族が関わってきたら面倒になる。
「私は……アリア」
隨分適當だけど、本名の『アーリシア』とあまり変わりすぎないほうがいい。私がそう名乗ると兄のジルは小さく『みたいな名前だな……』と呟き、妹のシュリは兄の後ろに隠れたまま、真っ赤な顔でコクコクと頷いた。
「……?」
どうして赤くなる? 私を見つめるシュリの瞳が何故かキラキラしていて、私は妙に居心地が悪くなる。
まぁ、どうでもいいか。それほど長い付き合いでもないだろうし。
その後、他に何の店があるか確認して、パン売りの屋臺で小さめの黒パンを一塊購した。小さいのに重い。でもこれでしばらく保つだろう。
スラムが近いからか、私が子供でしかもお金を持っていると分かって、纏わり付くような視線をじる。
あの酔っぱらいと違って、初めから私を襲う気がある大人と戦うのはまだ無理だ。お金がある場合は、森の中より町のほうがよほど危険に思えた。
町で必要なものは多いけど、普段は森の中にいて力を付けるまでは森の中で鍛えたほうがいいかもしれない。
「…………」
「「……」」
そんなことをしている間も、あの兄妹が私の後をし離れてついてきていた。
もしかして浮浪児仲間がしいのかな? 信用できて戦いができるのならし考えるけど、今の私も自分のことだけで一杯なので諦めてもらうしかない。
私は意識して気配を消し、彼らを振り切ると、そのまま町の外に出る隠しから外に出てようやく息をついた。
人が安全に暮らすための町よりも森の中のほうが落ち著くなんて、ひょっとして末期狀態なのではないだろうか?
この辺りを仮住処にしてもいいのかもしれないけど、この町より北は魔の森に近く魔が出る可能があるので、やはり街道沿いで危険な生がなく水場もある野営場に戻るのがいいように思った。
でも戻る前にやることをしてしまおう。一旦背負い袋を外すとその中から廃棄品の鑑定水晶を一つ取りだした。
半端に使われた水晶からはほとんど魔力がじられない。でも私の『目』にはそこかられ出る魔力の『』を視ることができた。
複數の屬が滲み出る『』の強い二十個の鑑定水晶は、多分まだ3~4回の鑑定が出來ると思う。店主には悪いけど、判別できるのにわざわざハズレを買うバカもいないので選ばせてもらった。
スキルとして覚えるまで何十回も使っていられない。このの屬を読み取り、できればここにある水晶だけで鑑定を覚えたいと考えている。
そしてあらためて水晶を覗きながら『鑑定』と念じると、現在の私のステータスが表示される。
【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】
【魔力値:37/45】32Up【力値:24/32】6Up
【筋力:3】【耐久:4】【敏捷:5】【用:5】
【隠Lv.1】New【暗視Lv.1】New
【生活魔法×6】New【魔力制Lv.1】New【探知Lv.1】New
【総合戦闘力:23】2Up
……驚いた。さすがに戦闘系スキルは一つも覚えていなかったけど、何も無かったはずの【スキル】がいきなり増えていた。
おそらく魔素の屬を『』で視るようになったことで、【隠】【暗視】【探知】といった魔力系スキルが解放されたのだと思う。
これで短剣のスキルを覚えたら、盜賊か暗殺者見習いみたいだね……。
力値がずっと減ったままなのは、ダメージをけたからではなく今の生活で疲労が抜けていないせいだろう。
近接戦闘系スキルを覚えたら力値もしは増えるかな?
魔力値が隨分と増えたのは生活魔法や魔力系スキルのおかげかな。多分、スキルが魂に『焼き付け』されることで、それだけの魔力を蓄積できる『下地』が出來たのだと推測する。
でも魔力値が増えたのは丁度良かった。これなら魔力系スキルの鍛錬を増やすことが出來るから。
魔力が45。この魔力値なら1時間に4は回復する。
もう晝近くだけど、私は干しとナイフで削った黒パンをし囓り、全ての荷を背負うと、強化の練習を小まめにしながら移をはじめる。
流石に荷が重いけど、何とか來たときと同じくらいの時間で野営場まで戻ることができた。
私……しずつ長してる。
主人公が普段使う名前は『アリア』になりました。
老人は、善人ではありませんが悪人でもありません。
口も目付きも悪いですが(笑)
貨幣の価値ですが、だいたいこのくらいで計算しています。
大金貨 100萬円
金貨 10萬円
銀貨 1萬円
小銀貨 1000円
銅貨 100円
一食分の黒パンが1個、銅貨一枚
屋臺の食事が、銅貨3枚~銅貨5枚
宿屋の食事が、銅貨4枚から小銀貨1枚
宿屋に一泊が、小銀貨2枚~5枚(平均3枚)になります。
次回、森に戻って魔の修行にります。
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