第一章のラストです。

この地域で一番の大都市、トーラス伯爵領の街に著いて二日が経った。

この街で何かする予定はないのだけど、どうやら私はかなり疲労が溜まっていたらしく、到著早々熱を出して丸一日眠っていたらしい。

子供ので旅をして、徹夜で戦闘とかしたのだからある意味當然かも……。

それから力が回復して熱が下がってから鑑定水晶を使ってみると、しだけステータスが変わっていた。

【アリア（アーリシア）】【種族：人族♀】【ランク１】

【魔力値：47/77】7Up【力値：52/55】3Up

【筋力：4（4.4）】【耐久：5（5.5）】【敏捷：7（7.7）】【用：6】

【短剣Lv.1】【Lv.1】

【魔Lv.1】【無屬魔法Lv.1】

【生活魔法×6】【魔力制Lv.1】【威圧Lv.1】

【隠Lv.1】【暗視Lv.1】【探知Lv.1】

【簡易鑑定】

【総合戦闘力：39（強化中：41）】3Up

ようやく【鑑定スキル】を覚えたみたい。その結果、修行の影響もあり魔力も増えたみたいで、戦闘力が若干上がっている。

ただ一つだけ誤算だったのは、今までの水晶を使っていた鑑定と違い、スキルとしての【鑑定】は、魔力を５ほど消費した。起きたばかりで魔力が減っているのはそういう理由がある。

それは気をつけていれば気にするほどでもないけど、起きてみるとが綺麗になって、著ていた服が平民の児が著るような薄い寢間著に替わっていた。

「…………」

部屋にある銅板の鏡に、まるで街に住む普通のの子のような私が映る。……でも、やっぱり目付きは悪い。

はじめて使うようならかいベッドに清潔なシーツ。どうやらこの宿は、高ランクの冒険者であるヴィーロが泊まるようなそこそこのランクの宿屋らしい。

ヴィーロは私の世話を給に金を払って頼んでいたようで、目を覚ました私のところへ給が現れて、彼の弟が昔使っていたというまともな古著を貰った。

今まで著ていた貫頭はかなりボロになって、洗濯すると破けてしまったそうだ。

彼から『服をダメにして、お父さんにごめんなさいと言っといてね』と伝言されたけど、もしかしてヴィーロと親子設定になっているの？

丸一日の絶食で空腹を覚えた私が、一階の食堂で野菜スープとパンという久々に『まともな人間の食事』を味わっていると、外から戻ってきたらしいヴィーロが私を見つけて、給に煮出し茶を頼みながら私がいるテーブルの向かいに座る。

「おう、もういいのか？」

「おはよう、オトーサン」

「……俺はまだ三十五だと言っただろう」

だから私のお父さんより年上だ。

「調が戻ったのならすぐに出るぞ。行けるか？」

「問題ない」

多は怠いがくのには問題ない。

ヴィーロの表と口調から察するに、これも私を依頼主に紹介して仕事を任せられるかの試験も兼ねているのだろう。

「それにしても……目立つな」

「ん？」

殘りのパンを胃に詰め込んでいると、ヴィーロが私のピンクブロンドの髪を指さしていた。

ああ、なるほど……。今まで灰をまぶして沢を抑えていたけど、行水ではなく久々にお風呂にったせいか、以前よりも沢が増している気がする。

「かまどの灰でも貰えるかな？」

「ああ、後で頼んでみるか。だけどな……その髪の艶は魔力の増えた影響だと思うぞ。そのうち灰程度じゃ誤魔化せなくなるかもな」

「……そっか」

髪に灰をまぶしていたのは危険に巻き込まれないように目立たないためだ。

今の狀態なら、ヴィーロがいるのでの危険はそれほどない。でも將來的に獨り立ちするのなら灰に代わる何かを探さないといけなくなる。

「それならコイツで勉強しておけ。お前に屬があるのなら、將來的に“幻”で誤魔化せるかもしれんぞ」

し考え込んだ私を揶揄するようにヴィーロが一枚の紙を差し出した。

「……闇魔の呪文？」

その紙には、前に教えてもらった【幻聴(ノイズ)】の他にも、もう一つのレベル１呪文である【重過(ウエイト)】の呪文まで記してあった。

闇魔のレベル１である【重過(ウエイト)】は、の重さを変える魔らしい。

呪文は『モバサオーイアーニデレクレス』

……やはり微妙に覚えにくい。一般的な意味としては『そのの重さを変えろ』という意味になる。

ヴィーロによるとこれも魔の【治癒(キユア)】同様、あまり使い手のいない呪文で、一度使うと數分間、両手に抱えられるまでのの重量を“一割”ほど変えられるらしい。

……確かに微妙だ。もう一つも【幻聴(ノイズ)】のような音を出すだけの呪文なので、闇魔の使い手がない理由も納得できる。

けれど、この呪文を知ったことで私は、ずっと考えてきた闇魔の疑問がしだけ解消された気がした。

多分だけど……闇屬の魔素は本の闇とは違う。

「……ありがと」

「気にすんな。それとコイツを持っておけ。お前は金串を使っていたが、あれは投げには向かないから、遠隔スキルを覚えるのは難しいぞ」

ヴィーロがテーブルをらせた布に包まれたを開いてみると、中には刃渡り１０センチ、刃幅が２センチ、柄の長さが７センチほどの投げナイフが數本包まれていた。

私が投げに使っていた三本の鉄串は何度か戦闘に使ったことで殘り１本になっている。私も何か補充を考えていたけど、ヴィーロは私の使う武をよく見てくれていたようだ。

この手の投擲武は、暗殺にも使える『暗』の類になるので普通の店には売っていない。専用の店まで行って買ってくれたヴィーロに私がまた禮を言うと、彼は必要経費だから気にするなと軽く手を振った。

あの山賊の城には金貨數枚分の金銭が隠してあったそうで、私はその分け前として金貨三枚分の報酬をけ取っている。

なので宿を出るとき、私の世話をしてくれた給に、服の禮だと銀貨一枚を渡すように頼んでおいた。安い宿なら著服される恐れもあるけど、一泊が銀貨一枚の宿ならそんなことをしないと思う。

……金貨の一枚は、ガルバスに返すために大切に仕舞っておこう。

「では先を急ぐとするか」

「了解……」

……宿を出るとまた幾つかの視線が纏わり付いてくる。視線だけで確認すると若い男も確認できた。

私の髪のが珍しいのだろうか……？　それとも髪の艶が戻るとに見えている？

いや、髪を切ってから一ヶ月くらい経っているので髪も數センチびているから、年らしさが薄れているのかも。

たった一ヶ月でびるにはし長いような気もしたけど、の長と同じで髪がびるのも早いのかもしれない。

とりあえず路地にって灰をまぶすとそれなりに視線も落ち著いた。

ほとんど見てはいないけど、この伯爵領の街はかなり裕福な印象がした。それでも路地にるとそれなりに嫌な視線もじる。

が強い場所は闇もまた深くなる。辺境のさらに辺境であるトーラス伯爵領でもこれなのだから、どこか遠くに行こうと思うのならかなり強くならないといけないね。

「……ねぇ、そろそろ目的地を教えてくれる？」

正門から街を出て、東の方角へ進み始めてから私がそんな言葉を口にすると、ヴィーロはし悩むようにしながらも、意外と簡単に口を開いた。

「そろそろ教えてもいい頃か。俺達が向かう場所は、ここから東にあるダンドール辺境伯領だ。そこにある避暑地に、とある貴族がお忍びで療養に來る。そこの周辺警護の一部を擔うのが俺達の仕事だ」

「……貴族」

やはり貴族絡みか……。しかもお忍びで療養だとすると、それなりの地位を持つ貴族である可能がある。確かに私にとって危険には違いないが、力を得ることは貴族との絡みもある程度は許容しなければいけないことだと思っている。

それにしてもかなり重要なことをよく元不明な浮浪児に話したものだ。

私ももうヴィーロを悪人だとは思っていないけど、ヴィーロも私みたいな浮浪児を信用できると思ってくれたのだろうか。

「でも、それにどうして私みたいな子供が必要なの？」

「それについては依頼主からの要請だ。まぁ多は予想がつくが……　たぶんその療養に來る貴族が“子供”だから……かもな」

「……ふぅ～ん」

さすがにまだ依頼主の名前までは教えてくれなかったが、その貴族が子供と言うことで私を捜している縁者ではないとしだけ安堵する。

今の私だと縁者に見つかれば強制的に貴族にされる。そしてあのの“知識”のように、々な男を手玉にとって、々な人を不幸にするような人間にされてしまうかもしれないのだ。

力のない狀態で貴族と関わるのは危険だと分かっている。でも今回のことは私が乗り越えなければいけないことだとじた。それからも逃げるのなら、私は一生逃げ続ける人生になるだろう。

私は運命を乗り越えられる力を手にれる。

それからヴィーロと幾つかの貴族領を越えて東を目指す。

子供連れと言うことで襲ってきた野盜やゴブリンなどもいたが、すべてヴィーロによって私の修行の“糧”とされた。

私自はランク１のままで戦闘力もほとんど変わっていないけど、『経験』という面で、私は確実に“長”していた。

そして一週間後……

「ここが、ダンドール……」

なだらかな丘が続く平地が広がり、涼しげな風が吹くこのダンドール辺境伯領が、私が初めての仕事を貰う場所だった。

そしてこの地で……私は、人生に関わる『悪役令嬢』と呼ばれるたちと出會うことになる。

次から第二章、『暗部の戦闘メイド』編になります。

次章からは乙ゲームの関係者もチラホラ出てくると思います。

それとついにストックがなくなりました。

なので、次回は土日の更新にして、それ以降は週に２～３回の更新になると思います。

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それではまた。

ついでに今回の旅を地図に赤線で記してみました。

若干の貴族名の修正がございます。