「こちらは元宿屋になります。部屋の數は全部で三十。廚房設備は一通り揃っておりまして、大通りからは離れていますがその分冒険者區域に近いので、そちらの方の人間が良く泊まっていたはずです」

不産屋が疲れた表を浮かべながら件の説明をする。

「全的に建が古いのと、ところどころの壁に修理した跡があります。冒険者がよく寢泊まりをしていたということは喧嘩がたえなかったのではないでしょうか？」

「……ええ、まあ。おっしゃる通りです」

「ここは気にらないか？」

俺がフローネに確認をすると、彼は首を縦に振る。

「すまないが、次を案してくれ」

「……はい」

不産屋は肩を落とすと返事をする。先程からこの調子で件を回っている。

既に両手の指で數える程の建を見たのだが、フローネの眼鏡にかなう件はいまだ見つからないようだ。

「……あの、申し訳ありません」

自分の條件が厳しいのがわかっているのか、フローネが申し訳なさそうに頭を下げた。

「構わないって。妥協しないで好きなように選べと言ったのは俺だからな」

どうせ住むならフローネが快適に暮らせる家の方が良いに決まっている。元々今日一日は時間を空けているのだから満足するまで付き合うさ。

「そ、それでは次の件に案します」

建に鍵をかけると、不産屋は馬車の者臺に座り、俺たちを乗せ新たな件へと連れて行くのだった。

「こちらは最近になって売り出された件で、元は酒場を経営していたようです。二階は宿になっておりますが、場所が通りからかなり離れていて部屋數も十もなかったのでほどんど客がらなかったようです。廚房設備はそこまででもないですが、古い割にはしっかりとメンテナンスがされているようですね」

不産屋の説明を聞きながら、俺は隣を見る。

フローネの瞳は揺らいでいるのだが、どのようなを持っているのか推し量れなかった。

「ここ……畳まれてしまったのですね」

寂しそうな聲がポツリとれる。

「ええ、こちらの酒場は味が変わったことで客足が遠のいてしまったとかで、オーナーが田舎に引っ込むのでと我が不産が買い上げたばかりなんです」

ここはフローネがかつて働いていたはずの酒場で、ほんの數週間前までは営業していた。あの時接客した従業員は今頃どうしているのだろうか？

「フローネ、ここはどうだ？」

々と思いれのある場所だったのだろう。彼はしばらく悩むそぶりを見せると……。

「主人様。ここが良いです」

そう言った。

「わかった、ここを貸してくれ」

「本當ですかっ⁉」

ようやく不産巡りから解放される。不産屋の男は笑みを浮かべると嬉しそうな聲を上げた。

「こちらはまだ清掃業者がっておりませんので、一度業者をいれてからお渡しするとして……」

「業者は必要ありません、すべて私が掃除しますので」

「一人じゃ大変だろう。俺も手伝うぞ」

「ありがとうございます」

フローネはそう答えると禮を言ってきた。

「では、店に戻って契約書をわしたいと思います。家賃などに関してはそちらで」

「ああ、その場合住人登録が必要になるはずだけど、俺とフローネの名前で登録して役所に提出してもらえますか？」

「かしこまりました。最短で手配するように致します」

こういった書類の管理も不産業者の仕事の。これで俺とフローネの住居がここになり、稅金の支払いを終えれば自由に過ごすことができるようになる。

俺が不産屋について出て行こうとすると、

「あの、主人様」

フローネに呼び止められた。

「ん、どうした？」

「私の要をけれてくださり、ありがとうございました」

そう言うと辭儀をするのだった。