《【書籍化】オタク同僚と偽裝結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!》そうですね、結婚しましょう(滝本視點)
「いつから私が同人書いてると知っていたんですか……?」
近所のファミレスで相沢さんはアイスコーヒーを一口飲んだ。
その目は完全に怯えている。
こんな表もできるのか。
俺、滝本隆太(たきもとりゅうた)は心の中で苦笑した。
「黒井さんは會社でどんなじですか?」
ワラビさんと名乗ったの子も一緒に店に來ていた。
初めて接するし警戒されて當たり前なので、それに文句はない。
俺は
「締めきりを必ず守ってくれる素晴らしいデザイナーさんです」
と答えた。黒井さん=相沢さんが「えへへ」と嬉しそうにほほ笑んだのと、ワラビさんが笑するタイミングは同時だった。
「黒井さん、仕事だと締め切り守るんだ、あははは!!」
「ワラビちゃ~~ん?!」
相沢さんがワラビさんを睨む。こんな表もするのか。俺はまた思う。
相沢咲月さんは、うちの會社では『人・クール・仕事は完璧』で有名な人だ。
だからこうして近くでくるくる変わる表を見ていると楽しくて仕方ない。
まあ俺も會社ではクールキャラなので、今は表を崩さないように気をつけている。
「會社では完璧にしてますよ……ね?」
相沢さんが俺のほうを見て言うので、靜かに頷いた。
「じゃあ何でオタバレしちゃったんですか?」
ワラビさんは頼んだチョコパフェを食べながら言った。
相沢さんもを乗り出して
「私、會社でミスしてないと思うんですけど……」
と眉をひそめた。そうだ、相沢さんは會社で何一つミスをしていない。
ただミスをしたのは、コミケの會場で、だ。
「あの、iPadカバー……うちの會社の試作品ですよね」
「え?」
相沢さんは、かばんから大きめのiPadを取り出してひっくり返し「あ」と一言いった。
そこにはうちの社名と共に『AIZAWA』とテプラで名前が大きくってある。
「黒井さん、めっちゃ書いてありますよ、気にしたこと無かったですけど、めっちゃ書いてありますよ!」
ワラビさんは笑した。
「これ……表面に紙とペンが挾めて便利なんです……」
相沢さんは茫然としながら言った。
「いやいや、なんでiPadあるのに紙とペンが必要なんですか、ログインして書きましょうよ」
ワラビさんは素でつっこむ。
「やはりそう言われる方が多くて商品化はしなかった。だから試作品が社に數個しかないはずなんです」
俺は説明した。
「アップルペンシルとボールペン、二か所さしてある!」
ワラビさんは笑い続けているが、相沢さんはし眉をよせて不満げな表で
「これ、すごく便利なんです。ログインしてアプリ立ち上げてる間に頭から消えちゃう絵とか、言葉とか、ありますよね」
「無いですよ~~」
ワラビさんが高速でツッコむ。あ~~る~~の~~~! と相沢さんは挾んでいた紙を見せてくれた。
そこにはしい絵と、走り書きで解読は難しいが、々な言葉が転がっていた。
相沢さんは作家さんだから、きっと俺が想像するより脳の回転が速いのだろう。だから立ち上げる時間さえ惜しいのだ。
それに俺は嬉しかったんだ。
このiPadカバーを発案したのは俺で、みんな笑したのに、相沢さんだけが「すごくいいと思います」って言ってくれたから。
それはお世辭だと思っていたが、名前までテプラでって今も使ってくれてるなんて、正直的だ。
「俺が相沢さんを初めてコミケ會場で見たのは去年の冬コミです」
「え……?」
相沢さんは落ち著かないのか、手元の紙に絵を書き始めていたが、一瞬で顔を上げて青ざめる。
「あの……伝説の……?」
ワラビさんが目を大きく開いて言う。伝説……というか
「相沢さんは顔にiPadカバーを広げて乗せ、椅子を並べて睡してました」
「ぎゃはははは!!」
ワラビさんが笑する。相沢さんは頭を抱えた。そして弁明するように
「前日稿を手伝っていたんです、そしたら突然フリーズして……本當に大変だったんです」
「いえ、その顔に乗っていたiPadで相沢さんを認識したので」
ああ……そうですか……、相沢さんは深くため息をついた。
ワラビさんはグイとを乗り出して口を開いた。
「え? じゃあずっと前から知ってて、でも會社では一言もバラさず、半年近く待って、今日プロポーズですか、おめでとうございます!」
「いやいや……バラさずにしててくれたのは本當だけど、どうして一足飛びにプロポーズ?」
相沢さんが高速でつっこむ。
俺はそれを聞いてコホンと咳をして背筋をばした。
「俺も事があって、なるべく早く結婚したいんです。表向き真面目な會社員なので告白されるけど……ボカロPしてることとか、ドルオタな事は言えなくて斷ってる」
「わかります、言えないですよね」
相沢さんが目を閉じて頷く。
「ひとり暮らし歴が長くて、一人で生活できるのに、誰かと暮らすことに意味が見いだせない」
「超わかります。え? 何年ひとり暮らししてるんですか?」
相沢さんがを乗り出してくる。
「高校出てすぐなので12年です」
「私も10年です。全部出來ますよね、分かります」
會社では遠くから見ていた相沢さんが目を輝かせて自分のことを語ってくれる狀況が、実はすごく嬉しいけど、言葉を整えて選ぶ。
悟られないように會社にいるような冷靜な顔を作って続ける。
「會社でしっかり仕事してて、趣味を大切にしてて、自己が確立している相沢さんなら、シェアハウスするみたいな結婚ができるんじゃないかと思って」
「シェアハウスみたいな結婚……!」
相沢さんの目がキランと輝いた。そしてスッ……と右手を出してきた。
「私と結婚しましょう、滝本さん。同僚でオタク仲間でシェアハウス婚。一人で生きられるからこそ、二人で生きてみましょう」
……!!
俺は相沢さんが言った言葉にハッとした。
一人で生きられるからこそ、二人で。
俺はまさにそう言いたかったんだ。自分の中に言葉が無かっただけで。
目の前にあるのは細くてらかい、ちゃんとの人の手で一瞬れることに張したが、相沢さんのほうからキュッと握ってくれた。
心の奧から安堵と共に聲が出た。
「よろしくお願いします」
俺たちの繋がれた手の下で、ワラビさんが「シェアハウス婚……? なにそれ……ただの同居人と何が違うんですか……?」と呟いている。
相沢さんは椅子に座りなおしてワラビさんに向かって言った。
「結婚してる所が違うじゃない」
えええ~~~? 違いますか? それ~~とワラビさんはんでいるが、俺はとにかく渉が立したことに安堵していた。
だって俺はiPadカバーをバカにしないでけれてくれた時から、ひそかに相沢さんが好きだったんだ。
會社でもこっそり見ていたし、もちろんTwitterもフォローして見てて、今日のスペースも確認済。
こっそり來てみたら「偽裝結婚したい」なんて言ってるから、思わず一歩前に出てしまった。
上手く話を運べて良かった。
冷靜な表をしているけど、俺の手は機の下で震えている。
相沢さんにとって俺はただのシェアハウス婚する相手で、なんて全くないと分かっていても、俺はなんでもいい。
俺はずっと、近づくタイミングを狙っていたんだ。
だから本當は踴り出したいほど嬉しい。
眉ひとつかさずにほほ笑んでいるけど、それくらい嬉しい。
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