《【書籍化】オタク同僚と偽裝結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!》なんとかしてみようか

日曜日の晝下がり。

隆太さんはライブに出かけたので、私もワラビちゃんと通話しながら絵を書いていた。

『黒井さん、30日の土曜日、売り子お願いできませんか? 誰もいなくて』

『大丈夫だよ、いくいくー。おも食べに行こうよ、焼

『あー、嬉しいです。最近黒井さん土日のイベントに來ないから、もう同人やめるんじゃないかって、新婚(ラブ)の國に移住かなって思ってましたよ』

通話の向こうでワラビちゃんが「うおーん」とわざとらしく泣いた。

たしかに最近週末は隆太さんとゴロゴロしていて、ワラビちゃんと出かけて無かった。

去年隆太さんとの出會いのきっかけになった春コミも今年は出ていない。

結婚して同人をやめる人はたくさんいる。

趣味を隠してそのまま結婚する人も居るし、10年後に普通に復活する人も知っている。

納豆が大豆に戻らないように、高い確率で同人業界に戻ってる気がするけど、數年離れる人は多い。

ワラビちゃんは私と一番仲が良いから、それを淋しく思っていたのだろう。

今も絵を書きながら思ってるけど、し手が鈍ってる。

ここ! という場所に線が引けないのだ。

絵は本當に単純で毎日書いてないと、すぐに鈍る。

隆太さんとコロコロもしたいけど、漫畫書いてイベントにも出たい。

『……イベントは土曜日しかないのに、どうして私はいつも日曜日もなんだろう』

『前日徹夜してますよね。その後オフ會で恐ろしい量の酒飲むから、死にかけてるにデストロイですよ。そりゃ日曜日も無理ですよ』

あ……すごくそんな気がする……。

『ひょっとして、最終ラインの締め切りじゃなくて、普通の締め切りで上げて、數日前から眠って深酒しなければ、日曜日普通に居られるの……?』

『私いま、スイカは味しい、赤信號は渡らない、犬は犬みたいな話聞かされてます?』

『……30日、私もコピー本出そうかなあ。置いてくれる?』

『置きますよ! マジですか、めっちゃ嬉しい!』

イベント=土日の死だったけど、それは私が人間的に殘念だからだ。

最近はちゃんと寢るようにしていて、の調子も良い。

メチャクチャなページ數にしなければ書けるはず。

漫畫も隆太さんも諦めたくないのだ。

とりあえず一回やってみよう。

『なに本ですか?!』

『合同で出さない? オカッパ男子本』

『マジすか、ついに全てのアニメに出ているオカッパ男子を集めた本、出しちゃいますか!』

私とワラビちゃんはアニメに出ているオカッパの髪型をした男子が基本的に好きなのだ。

有名な所だとハウルのく城のハウル、ヒカルの碁の塔矢アキラくん、ガンダムSEEDのアスラン。

すべて同じような耳の下で切り揃えた髪型をしていて、みんなツンツンした格で好きなのだ。

たぶんアニメ界的にはおかっぱが何かの記號になっていて、私とワラビちゃんは間違いなくその沼に落ちる。

むしろ作品が始まったらオカッパ男子を探すレベルだ。

『じゃあ私がハウル書くから、ワラビちゃんはアキラくん? アスラン?』

『うーーん、塔矢行洋も書いていいなら、アキラくんですね』

『オカッパ男子じゃないから、塔矢行洋。好きなの分かるけど!』

子塔矢行洋に弱い。

私は塔矢行洋がミスター味っ子と出會って料理する本を60P書いて完売させただ。

『じゃあアスランで!』

『了解! で、私さ、この前オカッパ男子の源流調べたんだけど聞いてくれる……?』

『源流? 中島みゆき歌いましょうか。一番最初のオカッパ男子ってことですか?』

最新の天気の子にも出てくるオカッパ男子の最古は何なのか。

それを調べるために私はバンダイチャンネルに潛った……。

今やHulu、Netflix、Amazonプライムとアニメがどこでも見られるのに、それでもバンダイチャンネルにっているものこそが真のアニオタ。

そこで見つけたのは

『私も調べるまで知らなかったんだけど、最古は勇者ライディーンのプリンス・シャーキンじゃないかな、たぶんシャアの原型だわ』

『待ってくださいね……なるほど。え、これ現代風にしたらわりとアリなのでは……』

『ありなのよ。しかもこの人、かなりヤバいよ。ちょっと見ながら書かない?!』

『良いっスね!!』

私たちは原稿もせずバンダイチャンネルでひたすら勇者ライディーンを見ながら、シャーキンを練習するというオタク極まる時間を過ごした。

そして4ページもシャーキンを書いてしまい、二人で頭を抱えた。

このままではシャーキン本になってしまって、需要がゼロ、楽しい!

「ただいま」

「おかえりなさい」

玄関から聲がして、私はペンタブを置いて玄関に出た。

隆太さんは私を見て、優しく頭をでてくれた。

やはり顔を見ると、すごく嬉しくなる。

「今日はとても月がきれいですよ。後でお月見しましょう。お団子を買ってきました」

「みたらし団子、めっちゃ好きです……嬉しい!」

隆太さんは買ってきたお団子をリビングの機に置いて、ソファーに座った。

最近帰ってくると、一度はリビングにってくれる。

そんなことが実はものすごく嬉しいのだ。

私は甘えたくなって、隆太さんの膝の上に座った。

そしてギュー……としがみついた。

「まだシャワー浴びてないですから、汗臭いですよ」

隆太さんは言うけど、私は全然気にならない。

外の匂いがする頬に鼻先を寄せて息を吸い込む。

隆太さんが私の髪のの中に手をれて、引き寄せ、を落とす。

し苦い、ビールの味。

を離して、隆太さんがほほ笑む。

「久しぶりにイベントに出るんですか」

「はい。30日にいきます」

「わかりました。あのですね、々用事があると思うのですが、咲月さんの誕生日、5月16日の土曜日はお暇ですか」

「あ、そういえば誕生日がきますね。ちょっと待ってください」

私はパソコンルームからスマホを持ってきてスケジュールを確認する。

Twitterの通知にあまりに気が付かないのでタブレットPCの隅にスマホを設置して絵を書いているのだ。

「大丈夫ですよ。どこか行きますか!」

「去年祝えなかったので、今年はお祝いしたいんです。何かしいとか、行きたい場所はありますか?」

うーん……と私はスマホを橫のテーブルに置いて隆太さんの膝の上に座りなおす。

「謙遜とか良いぶりたいわけではなく、本當に無いんですよ。服は隆太さんが無限に運んでくるし、通勤に使う鞄なんて何でもいいし、靴もあるし、裝飾品は付けません。パソコンも調子いいし、スマホの電池も死んでないし、一番しいのは3時間睡眠を8時間睡眠に誤魔化してくれる魔薬ですが、存在しないし。詰みました」

普通にブラカップ買い足そうかなとか、最近隆太さんに見られるから可い下著買いたいなと思うけど、そんなの買ってもらうものじゃないし。

アップルウオッチで改札スルーしてみたいけど、オタクだって會社でバレるし。

誕生日っぽくてしいものが何もない。

隆太さんはそうですかと困っている。

私は隆太さんの元に頬を寄せてくっつく。

「私が一番しいのは、普通の一日です。朝ゆっくり起きて、たくさんキスして貰って。二人でお風呂って、ちょっと味しいパンでも買ってきて面倒な朝ごはん一緒に作って。あ、何故だか分からないんですけど、スキャナーが繋がってないのでPC周辺掃除したり、何なら下のマットレスも替えたいんですけど、パソコンデスク持ち上げるのが重たいから一緒にしてほしいです。あと夏が來る前に網戸の掃除がしたいですね。そして一緒に眠りたいです。そんな普通の一日が一番ほしいです」

隆太さんは私を優しく抱き寄せて、髪のれさせて、頭を抱きしめてくる。

気持ちよくて私は小さくなって隆太さんの間に挾まることにする。

「分かりました。普通の……普通かなあ、それ。素敵な日ですね、そうしましょう」

「じゃあパソコンデスク下のマット買ってください! 新しくしたいんですよ」

「椅子が引っかからないように引いているのですよね? 會社みたいなタイル風のが良いのでは?」

「あー、確かに。あれどこで売ってるんですかね?」

私たちはスマホで検索しながら二階にあがり、お団子を食べた。

本當に月が真ん丸で、しかったので、真っ暗にして外を見ていた。

そして隆太さんの香りに包まれて、どうしようもなく安心して眠った。

きっとこの日々が続く以上にしいものなど、無いのだ。

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