《【書籍化】オタク同僚と偽裝結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!》最高の誕生日?
「まずはお布団を外に出して、空間を作りましょうか。埃が付くのは良くないですから」
「わかりました」
私は掛け布団を摑んで歩き始めた。
すると後ろから隆太さんが付いてきてくれて、玄関のドアを開けてくれる。
「……ありがとうございます」
「干し臺、出してありますよ」
「はい」
隆太さんはこう、小さく先が読めて助けてくれるのだ。
そんなことが私は嬉しい。
二人で布団を干して、シーツも洗濯機にれて、マットを変えるのでベッドも一度どかす事にした。
ベッドをテレビがあるリビングに移させる。
隆太さんはその狀態を見て言った。
「……ずっとここにベッドがあってもいいですよ?」
「隆太さん、エッチな意味で言ってますよね」
「そうですね、10割エッチな意味で言ってます」
最近隆太さんは、私の【気持ちがいい場所】を分かってきてしまい、本當に困ってしまう。
隆太さんは自分勝手にかないのだ。
私が眠そうにしたら途中で止めてでて眠らせてくれるし、私が気持ち良さそうにしてると、いつまでも続ける。
だから全然イヤじゃなくて、いつもけれてしまうのだ。
優しくて、ズルい。
私は隆太さんの腕を引っ張って、頬にを寄せる。
そうするとほら、絶対に返してくれる。
好きだなあと自然に思えるのだ。
「パソコンの周辺機がすごいですね」
「これはもう職業病です」
私は苦笑した。
基本的に漫畫は機に広げて使える巨大タブレット 21.5インチを使っている。
畫面すべてに絵が書けて、PCにもなっている優れものだが、機を占領する巨大サイズだ。
タブレットPCはノートのように機の真ん中に広げてあり、その前に配信や映畫を見る用のモニターが2つ置いてある。
それはタワー型PCに繋がっていて、スキャナー、プリンターがついている。
デスクはL字で、椅子はアーロンチェアで、もはやちょっとした會社。
真後ろには本棚、左右には漫畫や資料が積み上げてあり、居心地最高な基地!
休みはここで食事するし、隣がベッドなので眠くなったらダイブして寢る。
神のスペース……!!
ただ……
「ここに引っ越して10年。一度もマットを持ち上げて掃除してないですね。機の重さが異次元なんです」
「これだけのPCを載せられるのだから、そうでしょうね。役に立てて嬉しいです」
隆太さんはすべての電源が落ちていることを確認して、バシバシPCをリビングに運んでいく。
そして出てくるのは埃、ゴミ……いやぁぁぁ!!
全てどかして、私と隆太さんは機を持ち上げてどかした。
機が重すぎて絨毯にめり込んでいた。こんなのやっぱり一人じゃ無理だった!
すると機の裏側にあった々なものが出てきた。
ちょっと待って、ヤバい本じゃない?!
私は駆け寄って確認したが……それはアルバムだった。
「ひょっとして、昔の咲月さんが寫ってますか?」
「そうですね、引っ越した時から行方不明だったので……なるほど、機の裏側にあったんですね」
「とてもとても、とても見たいです。とても見たいので先に掃除を済ませましょう」
「とてもの數が多すぎてインフレ起こしてるんですけど……」
私の言葉など隆太さんには屆いていない。
一気にボルテージを上げて古いマットレスを巻いて室伏ぶりの速度で外に投げ捨て、目にも見えない速度で部屋の床拭きをして磨き上げていく。
その間私は手伝いながら「あのアルバム何がってたっけな……?」と思い出そうとするが、記憶があいまいだ。
なにしろ10年前に紛失したと思っていたのだから。
隆太さんが準備してくれた薄い敷き詰める型のマットレスのようなものを敷き詰め、デスクとPCを戻してスキャナーを繋いでみた。
すると普通にいた。良かった。壊れたんじゃなかったのね。
お城周辺が信じられないほどしくなり、私は嬉しくなってアーロンでくるくる回った。
このマットなら段差もないから、椅子もきやすい。素敵。
私がウキウキしていると、戻したベッドの上にシーツをセッティングして、外から布団も持ってきてくれた隆太さんが座って私を見ていた。
「アルバムを、拝見したいのですが」
「……先にちょっと確認して良いですか?」
私はアーロンの上に膝を立ててアルバムを隆太さんから見えないようにしてパラパラとめくった。
うん……うわー、うん、問題は無さそうだったので、私はアルバムを持って隆太さんの橫に座った。
今まで見た事がないほど隆太さんの瞳が輝いていて、し困してしまう。
「実家から持ってきた子供の頃の寫真がメインでした。そんな面白いものじゃないですよ」
「咲月さん、面白いとはそれを見せる人間が決めるのではないのです、け取った側が発する気持ちです」
「敏腕編集さんみたいですけど……うーん、これ、あれですよ、隆太さんもご実家で見せてくださいね」
「母に伝えておきます」
ええー……。ここまで言質取っても恥ずかしいけど、お誕生日を全力で祝ってくれている隆太さんだし……、私はアルバムを橫で開いた。
寫真は0才からあった。兄が赤ちゃんの私を見ているものだ。
これは実家ではがきのをみたことがあった。娘が生まれました……的に撮った寫真だと思う。
最初から隆太さんは頭を抱える。
「はあああ……赤ちゃんの頃からめっちゃ可いですね。なんですかこのキラキラした目は」
「あーー、もういいです、もう1ページ目で恥ずかしい、無理!」
「さあ早く次を!!」
「ええー……」
隆太さんは一枚一枚に過激に反応して、なんならベッドに倒れながら私のアルバムを堪能した。
小學校低學年のリレーの選手になり、メダルを手にしている寫真をみては「足が速かったんですか?」と聞き、演劇をしている寫真を見ては「何をしたんです?」と聞いてくれた。
最初は恥ずかしかったけど、今の私だけじゃなくて、昔の私にも興味があるのか……とし嬉しくなった。
最後にっていたのは、スケッチをプリントしたものだった。
「これは?」
「これこそですね、私がスキャナーを戻したかった理由なんです。この前旅行行った時も私、スケッチブックに絵を書いていたじゃないですか」
「そういえば、何か書かれてましたね」
「わりと旅行にいくとスケッチブックに鉛筆で書くのですが、どこかに行ってしまいがちなので、スキャンして寫真プリントしてるんです。これは高校の卒業旅行で行った北海道ですね」
「旅行では何を書いてたんですか?」
「隆太さんと海辺を歩いたじゃないですか、あの絵です」
私は小さなスケッチブックを出した。
鉛筆で書いてるから寫メっても薄くて綺麗に殘らないのだ。
他にも何枚か……実はこっそり隆太さんを書いた。
隆太さんは黙ってスケッチブックの絵を何枚も見ている。
私は恥ずかしくなって「それをスキャンしたかったんですよ」と言いながら取り戻そうとしたら、隆太さんに引き寄せられた。
聲もも震えている。
「……何を、勝手に、書いてるんですか」
「……すいません」
隆太さんはし泣いているようだった。
背中に手を回して、優しくでる。
私は隆太さんが泣いてしまう所、ぜんぜん嫌いじゃない。
むしろ、好きだ。
「……結婚してから、涙腺が壊れてしまいました」
「わりと上手に書けたので、取っておこうと思ったんです」
私はを離して隆太さんの涙にを寄せた。
隆太さんは「ちょっとまってくださいね」とティッシュを引き寄せて鼻をかんでいた。
私はふと思い出したことを隆太さんに聞いてみることにした。
「あの、聞くのは良くないかなと思ってたんですけど、ひとつ良いですか。私は勝手に隆太さんの絵を書いてましたけど、隆太さん……私のことを歌にしてるって聞きましたけど……?」
「お晝のパスタでも茹でましょうか」
會話が繋がってない、ダメ腳本ここに極まる。
実はワラビちゃんから聞いていたのだ、隆太さんがわりと有名なボカロPで、しかも最近のソングが評判でかなりの再生數に上り、有名な配信者が歌い、CDにも使われたと聞いた。
隆太さんは「網戸を外してパスタですね……」と逃げ出そうとするので、私は肩をガシッと摑んだ。
「アルバムも絵も見せましたよね?」
「カルボナーラとボロネーゼ、どちらが良いですか?」
「隆太さん。今まで見て見ぬふりしてきましたけど、Twitter見ますよ?」
「……そうですね、フェアじゃないですね」
隆太さんは曲を聞かせてくれた。
そこから流れてきたのは、もだえるほど私の事だった。
恥ずかしくて悲鳴をあげて布団に丸まってしまう。
「隆太さん、これ……めっちゃ旅行の歌じゃないですか!」
「そうですね、一緒にみた朝日がテーマになりました。素晴らしい仕上がりになったと思います。この遠くで響いている音は波の速度と同じにしました。そして出だしの音の広がりはあの一緒にみたあの雲のしさを表現しました。この音の展開がしく決まったのが気にっています」
隆太さんは曲について雄弁に話しているけど、私はもう歌詞が恥ずかしくて。
夜中3時に走り出した道
眠る橫顔にれたくて、指をばした
まわりなんて知らない、止められない
何もかも信じられないままだよ
こんなに好きになっていいのかな
僕だけの君でいてほしい
「どうしましたか?」
隆太さんは曲について語っているのに、反応がない事に気が付いたのか布団に丸まった私に気が付いて覗き込んでくる。
「よくこんな歌詞を……恥ずかしげもなく……!」
「歌詞は々考えたのですが、旅行をテーマに曲を作ってしまったら、咲月さんのことしか浮かばなくて……格上、嫌がられると思ったので言えませんでした」
隆太さんはし悲しそうにしている。
私は布団から顔だけ出して
「……怒っては無いですよ、ただ、ものすごく恥ずかしいです」
「今度は気を付けます……」
「あの……!」
あまりにしょげているので、私はムクリと布団から出た。
「恥ずかしいから、私は聞けないですけど、隆太さんの素直な気持ちは嬉しいです」
歌詞は素直に私への気持ちが歌われていて、イヤな気持ちになるものでは無かった。
ただ歌詞だから仕方ないけれど、ストレートすぎて……!
「この曲の評判が良くて、依頼が増えました。恥ずかしい思いをさせて申し訳ないのですが、今まで通りスルーしてください。今度出るアルバムにはれますけどスルーしてください」
「なっ……!! スルーします、もう見ません……そうします……」
私は再び布団に丸まった。
やっぱり隆太さん、々とズルすぎる。
隆太さんは布団の中に手をばしてきて、私の頬に、耳にれた。
そして耳たぶにれながら人差し指で首筋にれる。
私はモゾモゾと布団から出てきた。
隆太さんは両耳にれていた手を大きく広げて私の頭を引き寄せてを優しく吸う。
「……怒ってますか? もうしません……」
隆太さんはまだし悲しそうだ。
私は隆太さんを引き寄せて頬にを落とした。
どうしようもなく丁寧に謝るのに、歌詞ではあれほどストレートに私に言葉を投げつける人。
「隆太さんは……ズルいです」
「……キスしていいですか?」
私は靜かに頷いて目を閉じた。
に優しくれる隆太さんをじた。
今日は私の誕生日。
人生史上最高に恥ずかしくて、最高に楽しい日になった。
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