《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》21 「効いてないアピールウケるw」とか言われてもマジで効いてない
「ふふん! カズ! このアタシに新しい彼氏ができたわ!!」
さて――。
涼華(すずか)會長にお薦めの本となれば、なんだろう。
帰國子ということで、日本文學には馴染みが薄かったんじゃないか。だったら夏目、芥川あたりを挙げようか。個人的には太宰を薦めたいけど、結構人を選ぶしなぁ。
「さあカズ! 嫉妬しなさい? ヤキモチ焼き焼きバーニングファイヤーしなさいっ? さぁさぁさぁ!!」
並んだ背表紙とにらめっこしながら本棚を見て回る。
「會長、芥川は読んだことあります?」
「え?」
「芥川龍之介。羅生門とか、藪の中とか」
會長はあわてて首を振った。何か他のことに気を取られていたようだ。この人でも、そういうことがあるんだな。
「ふふふ。カズったら無視しちゃって。なに? 効いてないアピール? ウケるwww 必死www」
第三者の意見も聞いてみよう。
「甘音(あまね)ちゃんだったら何を薦める? 日本文學の中で」
「へ?」
甘音ちゃんは驚いたように目を丸くした。彼もぼうっとしていたようだ。
「え、えーと、走れメロス、とか?」
「太宰かー。やっぱりそっちかなぁ」
となると、俺が薦めたいのは「人間失格」あたりかな……いや待てよ……。
「ちょっとカズ! いい加減にしなさいよッ」
後ろからシャツをむんずと摑まれた。
振り向けば、そこには金髪キンキラキンのブタさんがブヒーッと鼻息荒く立っていた。
「なんだお前。まだいたのか」
「いたわよ當たり前じゃない! さっきから大聲で呼んでるでしょっ!?」
さっぱり気づかなかった。
昔からそうだが、いちいちこのブタの妄言を聞いていたらキリがない。いつの頃からか、俺はこいつの金切り聲を聞き流すを自然とにつけたのである。
「で、なんだよ用事は」
「だから言ってるでしょうがっ! このアタシに彼氏ができたの!」
「そうかおめでとう。式には呼ぶなよ」
さて、太宰太宰。どこの本棚にあったかなっと。
本棚を探しに行こうとすると、またもやシャツを摑まれた。
「まだ話は終わってないんだから! ちゃんと聞きなさいよホントは気になって気になって仕方ないくせにぃぃぃぃ!!」
ドンドンダダドン! と無駄にリズム良く地団駄を踏むブタさん。
このまま床を踏み抜かれでもしたらアレなので、話を聞いてやることにした。
「ようやく、素直になったようねっ」
ブタさんは連れてきた男の子を引っ張り出した。
彼は中等部の制服を著ていた。白で、華奢で、栗の短髪はツヤツヤで、ぱっと見はまるでの子。顔立ちも整っていて明があり、これは子がほっておかないだろう。マスコット的な人気が出るタイプだ。
「中等部三年、白鷺(しらさぎ)イサミっていいます」
モジモジしながら挨拶してくれた。が白いから、頬が赤いのが余計目立つ。
甘音ちゃんが聲をあげた。
「白鷺くんって、あの、演劇部特待生の!?」
「甘音ちゃん知ってるの?」
「もちろん。學費も寮費も全部無償で、わざわざ遠くの県から転させたそうですよ」
さすが聲優、演劇畑のことには詳しいな。
「私も聞いているわ。演劇部が特待生を取るのは初めてだって。まさに大型新人ね」
涼華會長の耳にもっているところを見ると、學園の期待は大きいようだ。それだけの逸材ということか。
「そう! その期待の逸材が、アタシの彼氏なのっ」
ブタさんはますます鼻を高くした。
「昨日の放課後、カレにコクられちゃったのよね! いたいけな青年をわせてゴッめぇ~ん☆ まぁ、アタシの魅力(ミリキ)から言ってしかたないことだケドっ。ねっイサミン?」
「は、はい……まあ……」
彼は曖昧な笑みを浮かべている。どこか困ってるようにも見える。
それにしても……。
なんだか、妙だな。
彼が俺を見つめる視線が、変なのだ。
なんだか熱っぽいというか、熱的というか。
あれかな。ブタさんの元・なじみってことで、警戒されてるのかな。
彼からすれば、俺を敵のように思っているのかもしれない。
「イサミくんだっけ」
「は、はいっ」
「俺とこいつはもう、絶縁してるから。もうなんの関係もない赤の他人だから。心置きなく幸せになってくれ」
彼は「はぁ」と頷き、またモジモジとした。うーん、こんな風にしてると本當に可いな。そっちの気はない俺でも、変な気持ちになってしまいそうだ。
いっぽう、まったく可くないブタさんは、
「くふふふ。まぁーたカズは無理しちゃって♪ ジェラシックパークでシットザウルスに襲われて食われるといいわぁ! ッシャッシャッシャ!!」
などと、意味不明な供述をしており。
「まァでも、安心しなさい。アタシも聲優やってるわけだし、際はにしとくから。ナイショで付き合うから。でもまぁ、なにしろイサミンとはラブラブだしぃ、燃え上がるがアレでアレしちゃったらわっかんないケドねっ! あ~カズ、それまでになんとかした方が~、いいんじゃないカナ~っ?」
えぐるような角度で俺を見上げるブタさん。「カナ~っ?」とか言われても。どうしろと。
「じゃあ、今日のところはこれで帰るわ! また來るから!」
來なくていいです。
「行くわよ、イサミンっ!」
「は、はいっ。瑠亜さん」
彼はよろめくように後に続いた。
ブタさんが先に部屋を出てから、彼は急に引き返し、俺にとてとて近寄ってきて――。
「あ、あの、和真せんぱいっ。ボクのこと、覚えてないですか?」
「どういう意味?」
「ボクは、ボクは……」
何かを言いかけて、彼は口を噤(つぐ)んだ。扉の向こうで、ブタが「なにモタモタしてんの早く!」と呼んだのだ。
彼はしょんぼりと肩を落とした。
「……それじゃあ、失禮します……」
ぺこりとお辭儀して、今度こそ彼は去って行った。
「あのお二人、何しに來たんでしょうか?」
甘音ちゃんはぽかんと、閉じた扉を見つめている。
會長も首を傾げて言った。
「彼、様子がおかしかったわね。和真君の知り合いなの?」
「いやあ、記憶にないですね」
あんな年、一度會ったら忘れないと思うんだけどな――。
ブタさん大暴れ。
「これからも読んでやるよ!」という心優しき方。
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