《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》26 馴染はあきらめない(あきらめろ)
帝王・高屋敷泰造との會談。その翌日――。
俺は演劇部部長に頼まれた特別アドバイザーとして、舞臺稽古に立ち會っていた。
演劇の題目は「シンデレ男(お)」。
男逆転の「シンデレラ」である。
不幸な家庭に生まれたシンデレラならぬシンデレオが、継父や義兄たちのいじめを乗り越えて長し、魔法使いの手を借りて「真実の自分」を取り戻して、しい姫君と結ばれて幸せになるという筋書きだ。
部長が書いたという腳本は、かなり読ませるものだった。
俺自に重なる部分もあった。
たとえば、継父がシンデレオにこんなことを言う。
『いいかシンデレオ。お前は目立ってはならない』
『義兄たちの引き立て役、影として生きるのだ』
『お前は容姿も悪く、地味で、気で、なんの才能もないのだから』
『いいな? せめて引き立て役として、義兄たちの役に立て――』
俺も似たようなことをずっと言われ続けてきた。
あのブタと、ブタの祖父から。
この國有數の資産と権力を持つ一族から、そんな風に刷り込まれてきたのだ。
「和真よ。おぬしが瑠亜の影で居続けることができたなら、いずれ、おぬしを瑠亜の婿養子として迎えようではないか」
「このワシの後継者として、瑠亜とともに帝開グループを統べるのだ」
「それまでは影に徹して、下位に甘んじ、瑠亜を引き立てよ」
「よいな? その才、決して他人に見せるでないぞ――」
今なら、このジジイの言葉が噓だとわかる。
ブタの婿にするという言葉が本當だとしても、帝開グループの実権はブタ本人が握るはずだ。あの孫バカのジジイは、必ずそうする。俺は単に、ブタに世継ぎを生ませるための「種豚」として番(つが)わされるのだろう。
もう、そんな未來はいらない。
俺は自由だ。
今まで不自由だったぶん、思う存分――。
「ねえ、鈴木くん!!」
思考の海に沈んでいたところに、聲をかけられた。
部長が興の面持ちで俺のもとへ駆け寄ってくる。
「いやあ! 君に頼んで良かったよ! 本當にありがとう!!」
「何がですか?」
「決まってるじゃない! あれだよあれ!!」
部長は舞臺を指さした。
そこには、輝くばかりの年が立っていた。
本番と同じ煌びやかな裝にを包み、舞臺中央に立つ白鷺イサミ。その姿はまさに「王子」。立ち振る舞いが優雅で、洗練されている。澄んだ聲が學生ホールの隅々にまで染み渡る。彼が存在するだけで、舞臺全がり輝いているように見えた。
「昨日までとはまるで別人だよ! 表や作にさがなくなって、自由にびびとしていて。一日でこんなに変わる? まったく、どんな魔法を使ったのかな鈴木くんは!」
「魔法だなんて。これが彼の実力ですよ」
本心からそう言った。
あの、道場で泣いてばかりいた「いっちゃん」が――。
自分のことのように誇らしい。
「部長、ひとつお願いがあるんですが」
「君の頼みなら、なんでも」
「白鷺くんはかなりの恥ずかしがり屋で、特にを見られるのが苦手のようです。著替えは他の男子部員とは別々にして、裝の採寸にも気を遣ってあげると、メンタルが安定すると思います」
「なんだ。そのくらいお安い用さ!」
これでよし。
演劇部は部長をはじめ良い人たちばかりだし、きっと気を遣ってくれる。
來月の公演も上手く行くはずだ。
観客たちは、真の姿に目覚めた王子様に、釘付けになるだろう。
◆
二人きりになった途端、王子様がお姫様に変わった。
「和にぃ、だーいすきっ」
飛び込んできたらかいを、で抱きとめた。舞臺では絶世の年だけど、こうして(なめ)らかなにれるとまぎれもなくの子だ。
「おいおい、いっちゃん。著替えは?」
ひとりで裝ぐの大変だから手伝って、と控え室に呼ばれたのに。
いっちゃんは頬をピンクに染めて、長いまつげを伏せた。
「……だって、和にぃと二人っきりになりたかったから……」
「……」
こんな可い子に言われて悪い気はしないけれど。
あいかわらず、想いが重い。
「ゆうべね、瑠亜さんからメッセージが來たんだよ。ひとこと『別れましょ!』だって。和にぃのおかげだよ!」
「そうか。良かったな」
さすがと言うべきか、あのブタ。
もはや用済みとなった「偽の彼氏」を、さっさとポイしたらしい。
「だからもう、自由だよ。和にぃ。今すぐお嫁さんにして?」
「こら。いい加減にしろ」
栗の頭を軽く小突いた。
いっちゃんはぺろっと舌を出して、「はぁい」と可く返事をする。
「じゃ、著替えるの手伝って。後ろのファスナー、下ろしてほしいなっ」
「いいのか?」
「ひとりでするの、大変なんだもん。……ね、早くぅ」
くるりと後ろを向くいっちゃん。
言われた通り、裝についているファスナーをゆっくりと下ろす。
まぶしいくらい白い背中と、そこにきつく巻き付けられたサラシが目に飛び込んできた。昨日、磨りガラス越しに見た「ぱつん」が頭をよぎる。こんなぐるぐる巻きにしないと、押さえ込めないのだ。
「下ろしたぞ。後は自分でできるな?」
「ヤダ。サラシもはずして」
「馬鹿。そこまでできるか」
彼、いや彼は前を向き、テヘヘと頭をかいた。
「夏休みさ、一緒にプール行こうね」
「……」
「もう、あの頃のボクじゃないよ。ちゃんとの子らしく長したところ……和にぃに見てほしいよ」
まったく……。
甘音ちゃんといい、胡蝶會長といい。
俺の周りには積極的なの子が多いようだ。
モテるなら、もっと普通の子で良かったんだけどな。
彼たちは、可すぎる。
◆
【ほぼ毎日投稿】るあ姫様が斬る!~わきまえなさいッ~
チャンネル登録者數114萬人
『はァ~~~…………』
『ハイ。クソデカため息で始まりましたけれども』
『るあ姫こと、瑠亜でっす』
『なんかさぁ、最近思い通りにいかないっていうかさぁ』
『あ。こないだ話した〝友達〟のことなんだけどね』
『アタシたち二人は超し合ってるのに、邪魔が多すぎンのよ』
『クソウザ前髪だの、銀ギラ會長だの』
『せっかく利用してやった栗ちんちくりんも、役に立たずだしっ』
『お爺様まで『しばらく様子を見るのぢゃ』とか言い出すしさぁ』
『そうこうしてるうちに、もう夏休みよ?』
『學校ないから、このままだと會えなくなるじゃん!』
『……いや、アタシは困らないけどね?』
『アイツが、さみしくて泣いちゃうカナ~って』
『まァ、この瑠亜サマがどうにかしてあげますかっ!』
『子供の時からの……友は、大切にしないとねッ』
『……ゼッタイ、このままじゃ済まさないんだから……』
『……カズに近づくは、ミナゴロシ……』
『とゆうわけで、今日は愚癡配信でしたー』
『まったねーん』
【コメント欄 1024】
るあ姫の騎士・1分前
姫さま……元気出して……
るあ様のしもべ3號・1分前
同士の友って難しいですよね
スターバッコス・1分前
るあちゃん優しい! その友達にも伝わるよきっと!
真実の使徒・1分前
カズって聞こえたんだけど、誰?
上海ダッグ・1分前
ラスト、なんか不穏すぎる。。。
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