《【書籍版8/2発売】S級學園の自稱「普通」、可すぎる彼たちにグイグイ來られてバレバレです。》39 バトル修羅場よりラブい修羅場のほうが手に負えない
総合育館に辿り著いた。
昇降口からおよそ5分くらいかかるところを、1分かからなかった。途中、高さ2メートルほどのブロック塀を三回飛び越えた。育用室の屋の上を走り、飛び降りた先にあった自販機を踏み臺にして跳躍し、時間を短することができた。
「貴方……いったい、どういう人なの……」
り口で涼華會長を下ろした時、彼がらした想がそれだった。まだ頬をし赤らめて、さっき塞がれたを指でれている。
「まるで空を飛んでるみたいだったわ。力を隠しているとは思っていたけれど、ここまでだなんて」
「話すと長くなりますし、楽しい話でもないですよ」
何故こんな力をにつけてしまったのかについて語るなら、あのブタと俺との関係について話さなくてはならない。愉快な思い出なんかひとつもない。だから絶縁したのだ。
會長は首を橫に振り、銀髪を揺らした。
潤んだ目で俺を見つめる。
今にも泣き出しそうにも見える、せつない顔だった。
「私、貴方のことがもっと知りたいの。いつか話してくれると嬉しいわ」
「……わかりました」
だが、今はその時じゃない。
り口橫の植え込みに三人の子生徒が倒れ込んでいた。気絶しているようだ。ここにしてきた皇神學院の連中にやられたに違いなかった。近くにはトランペットが落ちている。吹奏楽部の連中が、屋外練習中に襲われたのだ。
文化部のの子でもお構いなしということか。
……。
「會長は怪我人の介抱を。それから、生徒の避難導をお願いします」
「ええ、任せて」
乙の顔から會長の顔に戻ると、彼は自分の責任を果たしに向かった。
さあ、俺も行こう。
中にると、練習場り口に見張りが2人いた。右に木刀の男、左に太い鎖を振り回す男。
「おう帝開生。ここは立ちり止だぜ」
「この育館はもう、皇神學院の領地だからな。ひゃはは!」
見下したように笑う木刀男のみぞおちに爪先を蹴りこんだ。を「く」の字に折って倒れ込んできたところを摑まえて投げ飛ばし、鎖男にぶち當てる。鎖が絡まり、2人は仲良く抱き合いながら床に崩れ落ちた。
やれやれ。
自分で思うよりキレてるみたいだ、俺。
「!? おう、なんだてめえ!?」
練習場にると、下品な聲と視線が出迎えてきた。
中にいたのはダンス部の子たちと、彼たちを拉致している皇神學院の男たちおよそ10名。そこに、白いセーラー服の子が1人だけ混じっている。子たちは怯え、男たちは笑い、そしてセーラー服の子は冷めた目をしていた。
鮎川彩加(あゆかわ・あやか)を摑まえている金髪男の姿は、ステージの壇上にあった。
気絶している彼に馬乗りになっている。著のれはない。どうやら間に合ったようだ。
「なんだぁ? ようやく來たと思ったら、弱そうなのが一人かよ?」
金髪は馬鹿にしたようにせせら笑う。
構わず、俺は近づいていく。
ナイフを持った二人の男が行く手を遮ってきた。
「おい、邪魔すんなよ」
「それとも仲間にれてしいのかぁ?」
下品なことを言うので、黙らせた。
一発ずつ顔面にジャブをれた。ただのジャブじゃない。師匠直伝の〝合気〟を利用したワンインチパンチ。こいつらの口を塞ぐのは、拳で十分だ。
「!? おい、お前何をした?」
金髪が聲をあげた。今の拳は見えなかったようだ。つまり、その程度。
「近づくな! このがどうなってもいいのか?」
取り出したバタフライナイフを彼の頬に近づけた。よくあるシチュエーションだ。子供の頃から何度も何度も訓練をけてきた。テロリストや刺客にあのブタが拉致された時どうくか、何十通りものパターンを「予習」させられたのだ。
金髪男が取ったのは、もっとも稚拙な行。民家に押しったコソ泥レベル。
話にもならないね。
「お、おい、近づくなって言って――」
おしゃべりな金髪の顔に、り口で拾ったを投げつけた。トランペット用のマウスピース。吹奏楽部の仇討ちだ。
目を直撃。
金髪はうめき聲をあげながらナイフをこっちに向けた。視界を奪われるのは、思考力を奪われるのと同じだ。理的な判斷ができなくなる。人質を取っているのに、外に刃を向けてしまうのだ。
ナイフを持った手を蹴り上げた。
刃はくるくる宙を舞い、セーラー服のの子のところへ飛んでいった。
彼は顔も変えず、ナイフを片手でキャッチした。
ただのの子じゃなさそうだが、今はどうでもいい。
「っ、てめえ!!」
逆上し、毆りかかってきた金髪男の顔面に一撃。
昏倒し、床から崩れ落ちるところに追加の「膝」。
普通はここまでしないのだが――俺の尊敬するメイド先輩に手を出した罪だ。甘んじてけてもらおう。
「鮎川。大丈夫か?」
気絶している彼の頬を軽く叩くと、すぐに目を覚ました。
「……あ、和真……」
「どこにも怪我はないか? もう大丈夫だ」
「うん。……なんかね、和真が來てくれる気がしてたんだ。ゼッタイ、助けてくれるって」
微笑む彼の、紅茶の髪をでた。
練習場はしんと靜まりかえった。
さっきまで怯えていたダンス部の子たちも、ぽかんとしている。
では殘りを片付けよう。
鮎川から離れて、男たちのところへ歩み寄っていく。
皇神學院の一人が聲をあげた。
「お、お前が〝剣の天才〟剣持兇二か!?」
違うと答えた。
ついでに毆った。腹に一発、拳をねじ込む。男はそのまま気絶した。
「じゃ、じゃあ〝筋の天才〟か!?」
別の一人が言った。違う。そんなムキムキに見えるのか? こいつには蹴りを一撃。膝を狙って、けなくさせた。
「ま、まさかっ、〝銃の天才〟!?」
違う。銃を持ってたらこんなチンタラ白兵戦するわけないだろう。左側頭部を狙ってハイキック。相手は白目を剝いて倒れた。
「わかったぞ! お前が怪堂天斎だな!? 天才會議のリーダーという――あぎゃっ!?」
あーもう、答えるのめんどい。掌底のアッパーで相手の顎を揺らし、眠ってもらった。
そんなじで、全員お晝寢――。
皇神學院で殘ったのは、セーラー服のの子ひとりだった。
クールな聲で、彼は言った。
「あんたが、鈴木和真だね」
お、正解者出現。
「天狼十傑がひとり〝孤狼(ころう)〟の鈴木和真。高屋敷瑠亜のなじみ兼護衛でしょ。どうしてここにいるの? 瑠亜はバカンス中って聞いたから今日を選んだのに」
長い黒髪のだった。艶々とした沢を放つまっすぐの髪質は、彼のツンツンした気を表わしているかのようだ。しい棘を持つ。うかつにれれば怪我しそうだが、「その棘がいい」と手をばす男も數多くいるだろう。
「知りなんだな。でも、それは古い報だ」
「え?」
「もう、あのブタとは絶縁している。殘念だったな、アテが外れて」
彼は怪訝そうな顔をした。
「それで、どうするの? あたしもボコるの?」
「の子を毆るのは趣味じゃない。この邪魔な連中を連れて、さっさと帰れ」
「嫌だと言ったら?」
「趣味じゃないけどしかたない。敵に対して『男差別』をするつもりはないよ」
彼はため息をついた。
「今日のところは、そうしとく」
「今日だけじゃなくて、永遠にそうしてくれ」
「あたし、皇神月乃(こうじん・つきの)。覚えておいて。孤狼」
皇神ってことは、皇神グルーブの親族か……。何やらあのブタとの因縁がありそうだが、まぁ、どうでもいい。
り口で足音と聲が聞こえてきた。天才會議・武闘派のご一行がようやく到著したのだ。
のされている皇神の連中を見回して、剣持が眉を吊り上げた。
「な、なんだ!? これはどういうことだ鈴木!?」
……困ったな。
なんて言い訳しよう。
そんな俺を見て、月乃が言った。
「みんな、急に眠くなっちゃったみたい。昨日寢不足だったみたいだから」
「何言ってんだオイ!? お前皇神(こうじん)の生徒だろ? 何があったのか話せ!」
「――ああもう、うるさいなぁ」
黒髪がひゅっ、となびいた。
月乃がいたのだ。
あっというまに剣持に接近する。彼が刀を抜こうとした手を押さえつけ、見事な背負い投げ。倒れたに膝を落として仕留めてしまった。
「てめえッ」
銃の天才こと、種子島十三が銃を抜こうとした。
だが、抜けなかった。
その鼻先に、月乃が抜いた小型のリボルバーが突きつけられていた。セーラー服のスカートの中に隠していたのだ。まぶしい太ももにガーターベルトみたいなホルスター。スパイみたいでかっこいい。
「遅いね。実銃(ホンモノ)はあんたには重すぎる」
「…………ッッッッ!!」
銃に怯える〝銃の天才〟のこめかみを、月乃は銃底で毆って昏倒させた。
そして〝筋の天才〟こと大盛は――あっ、逃げた。「マッスル・ダーッシュ!」とびながら脇目も振らず一目散に逃げていった。筋関係ねえ。逃げ足の天才に改名した方が良いと思う。
とはいえ、彼の筋(はんだん)は正しい。
月乃の実力は十傑並みだ。いや、それ以上か。以前戦った氷上零(ひかみ・れい)より確実に強い。
殘る天才は、発明の天才・霧ヶ峰理科と、戦略の天才・暗田暗記。
霧ヶ峰は、眼鏡ごしに目をぱちぱちさせている。事態の急変についていけてないようだ。
しかし、暗田のほうは――。
「困りますよ月乃さん。こんな暴れられたら。天才會議を潰してくれたのは良いですが、味方まで巻き込むなんて」
なんて、親しげに聲をかける。
やはり――。
「お前、やっぱり皇神のスパイだったんだな」
暗田は意外そうに俺を見つめた。
「気づいてたの? どうして?」
「いろいろと怪しい仕草があったからな。でも一番は、自分のことをキャって名乗ってたことだ」
「……? わからないなぁ。どういう理屈?」
「本のキャの俺から見れば、お前はぜんぜんなっちゃいない。キャだとか言いながら、目つきがいやらしいんだよ。〝〟が隠せてないんだ」
こいつは、本當の〝〟を知らない。
権力者の孫娘・超人気聲優の〝〟として洗脳(きょういく)され、決して目立つことを許されなかった真の〝〟から見れば――笑止千萬。
「お前のようなやつが〝キャ〟を自稱するなよ。『リア充発しろ』ってリア充が言ってるみたいに聞こえるから」
暗田は馬鹿にしたように笑った。
「何言ってんだよぉ。天才會議のメンバーならいざ知らず、お前みたいなザコがこの僕に意見する気か? ――ねえ、月乃さん、こいつやっちゃっていいすか? 僕もひとりくらいぶっ殺しておきたいんで」
月乃はため息をついた。
「ん。いいよもうコイツ。ヤッちゃって」
「……へへ、お許しが出たぞお」
にやにや笑いながら、暗田は背中から日本刀を取り出した。なるほど、こいつは「暗(あんき)」の使い手か。
そんなところに武を隠せる手際はなかなかのものだが――本的なところを勘違いしている。
それは、
「んぎゃぅっ!」
刀を振り上げて踏み込んできたやつの膝めがけて、前蹴りを打ち込む。そのまま、膝を踏み臺にして駆け上がり、暗田の顎に膝蹴りを叩き込んでやった。
古宮(こみや)流奧義・豪毅(ごうき)の型。
羆墮(ひぐまおとし)――。
目を回して仰向けに倒れた暗田を、月乃は軽蔑の目で見下ろした。
「何、勘違いしてるんだか。ヤッちゃって、って言ったのはあんたにじゃない。〝孤狼〟によ」
それから月乃は、霧ヶ峰に視線を向けた。
「霧ヶ峰さん。あんた、何か発明品用意してたみたいだね。なんの武か知らないけど、私に使ってみる?」
このめまぐるしく変わる事態に、霧ヶ峰は「ほえー」という顔をしている。驚いてはいるようだが、ビビッてはいない。武闘派を名乗る剣持たちより、よっぽど肝が據わっている。
「ううん、やめとく~」
霧ヶ峰は首を振った。どこかトボけたじである。これは天然だな。
「これ、武じゃないし。あなたに使うより、カレに使ったほうが面白そうだもん」
眼鏡をキラリとらせて、俺のことを興味しんしんに見つめている。……なんだろう? 人実験は勘弁してもらいたい。
月乃は「ふうん」とつぶやいただけで、それ以上の興味を示さなかった。
クールな瞳で、俺を見つめる。
「じゃ、今度こそ帰るから。また會いましょ。孤狼」
「……やれやれ」
こんなにまた會おうなんて言われるのは栄なことだけれど。
どうもまた、厄介事に巻き込まれた気配がするな……。
◆
事が終わった後、怪堂から電話がった。
『おい、事態はどうなってるんだ鈴木! 誰とも通話がつながらないぞ! まさか全滅したのか!?』
オール5の天才のうろたえた聲に、落ち著いて答えた。
「ええ、全滅しましたよ」
『ば、馬鹿な!? わが帝開が誇る天才たちが――』
「でも、皇神の人たちは帰りました。眠くてたまらないから晝寢するそうです」
『ど、どういうことだ? 詳しく話せ!』
その時、スマホにメッセージが著信した。
甘音ちゃんからだった。
「ああ。用事がったので、これで失禮します」
『どういうことだ鈴木!? おい――』
通話を切って、メッセージを見た。
『いま、二つ目の収録おわりましたー。つかれました~。今日はまだあと二件。はふう』
『最近おしごとおしごとで、和真くんに會えないのさみしいなあ』
『そこでっ、提案があります!』
『あさっての帝開川の花火大會、一緒にいきませんかっ? わたし、浴著てきます!』
すぐに「OK」と返事した。
甘音ちゃんの浴姿、楽しみだな……。
と、そこへ新たなメッセージ著信。
相手はブタさんだった。とっくにブロックしているのに、1組のクラス用グループを使って送りつけてきやがった。
『ご機嫌ようカズ~♪ あさって、恒例の花火大會に行くわよっ! 浴著てくるから、惚れ直さないように気をつけてねんw』
はい、削除っと。
スマホを覗き込んでいた霧ヶ峰が言った。
「花火大會、行くの? いいなー。わたしいつも研究所に篭もってるから、何年も見てないや」
いや、お前は連れて行かないぞ。ややこしい。
ところが、その聲に反応したのがもう一人。
すっかり元気を取り戻し、こちらに歩み寄ってきた鮎川彩加。
「和真、花火大會行くの? あーしも行きたい!」
「…………」
いや、さすがにそんな修羅場は嫌なんだが……。
帝皇戦なんかより、俺にはこちらの方がよほど難敵である。
作品を読んで「面白かった」「続きが気になる!」と思われた方は
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執筆の勵みになります。
ありがとうございます。
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