《【WEB版】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った馴染が後悔してるけどもう遅い【書籍版好評発売中!】》9話 馴染み、大好きな神作家の正を知る
上松(あげまつ)勇太がパーティに參加している、一方その頃。
彼の馴染み大桑(おおくわ)みちるは、近くのコンビニにスイーツを買いに行って、帰ってきた。
「ん? 勇太の家の前にタクシー? こんな時間に……?」
みちるの家は勇太の家のすぐ近くにある。
黃いタクシーから出てきたのは、勇太の父・莊司(しょうじ)だ。
「さぁ【ゆりたん】! 【アリッサ】様も! どうぞ我が家に寄っていってくださいよぉ……!」
ぴたり、とみちるは足を止める。
「ゆりたん……アリッサ……ですって?」
普段ならスルーして帰るところ。
しかし気になるワードを耳にしたので、確かめることにしたのだ。
みちるは電柱の影に隠れて、上松家の前に止まっているタクシーを見やる。
上機嫌そうな勇太の父。
そして、そこから出てきたのは、スーツ姿の馴染み・上松(あげまつ)勇太だ。
「……なにあのネクタイ。だっさ」
勇太の今日のネクタイは、迷彩柄のクソダサいネクタイだった。
「あの格好……なんかの行事でもいってたの? だとしたら最悪。ダサすぎ。あのネクタイはないわ」
【記憶に殘るダサさのネクタイ】だ。
ふんっ、とみちるは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
分不相応にも、勇太はこの間、自分に告ってきた。
そうだ、あんなクソださキャと自分は住む世界が違うのだと、改めて思った。
……だが次の瞬間、【本當の意味】で、住む世界が違うのだと……痛【させられる】ことになる。
「……じゃあ、お言葉に甘えて、お邪魔しても良いですか♡」
「なっ!? あ、あ、アリッサ・洗馬(せば)ぁ!」
タクシーから出てきたのは、金髪の超絶、人気歌手の【アリッサ・洗馬(せば)】だったのだ。
「う、うそ……なんで? どうして……アリッサがここに……?」
みちるは畫配信をするくらいなので、オタク知識についてはそこそこある。
アリッサ・洗馬のことはよく知っている。
彼はアニメのオープニング曲を歌っている。
それに二年連続で紅白に出場していることもあって、知名度が高い。
困するみちるをよそに……また新たな人が現れる。
「へえ、ここが勇太くんのお家なんだ。素敵な家ね!」
「でっしょーゆりたーん!」
デレデレとする勇太の父。
その隣には……黒髪の。
「はぁ!? こ、こ、【駒ヶ(こまがね) 由梨恵(ゆりえ)】ですってぇ!?」
今最も人気のある聲優、駒ヶ 由梨恵。
レギュラーのアニメに何本も出ている。
今みちるが見ているお気にりのアニメにも、主役として聲を當てている。
「うそ……なんで? アリッサ・洗馬と駒ヶ 由梨恵が……勇太の家に?」
みちるの頭の中では、疑問符がいくつも浮かんでいた。
「い、いいや……見間違いよ! 超絶そっくりさんよきっと!」
勇太はただのキャ高校生。
間違っても超人気聲優や歌手と、知り合いになれるわけがない。
一方で勇太は父に言う。
「あ、あのさ父さん……夜も遅いし、の子を知らない男の家に上げるのは……だめでしょ」
「えぇ!? 何を言ってるんだぁ勇太ぁ!」
父は聲を荒らげて言う。
「せっかく超人気聲優ゆりたんと! 超人気歌手のアリッサ様ご本人達を我が家に招くビッグチャンスなんだよぉ! こんな機會もうこの先ないかも知れないんだよぉ!」
……みちるはその場にへたり込む。
「……う、そ。マジ、なの? 本……なの?」
そういえば、勇太の父は出版社で働いているらしい。
しかも副編集、かなりの重要ポスト。
役職だけ見れば、父の莊司(しょうじ)は立派な人に見える。
そんな出版社のお偉いさんが、本だという。
……ならば、あの2人は、本だということだろう。
「どうして? なんで……? どういう関係で勇太の家に有名人2人が……?」
謎が一つ解けたと思ったら、さらなる謎が押し寄せてくる。
混の渦中にいるみちるなんて、勇太達は気づいていない。
「あなた、うるさいですよ。あらゆーちゃん、お帰りなさい♡」
家から出てきたのは勇太の母だった。
「母さん! ちょうどよかったサイン紙ある!?」
「あなたたくさん持っていったではありませんか?」
「もう全部使っちゃった★ 勇太パワーで聲優さんからサインもらいまくりでうっはうっはだよ!」
「……ほんと、けないったらありゃしない……」
そんな母に、アリッサ・洗馬が頭を下げる。
「……初めまして、お母様。ワタシ、アリッサ・洗馬(せば)と申します。ユータ様の家に、嫁ぎたくこうして參上した次第です」
「「「はぁあああああああ!?」」」
勇太、勇太父……そして、みちるの聲が重ねる。
「よ、よ、嫁ぇ!?」
アリッサは、よりにもよってキャ高校生の勇太の嫁になりたいと言ってきたのだ。
天地がひっくり返っても、あり得ない出來事である。
「ちょ、ちょっと待って……!」
それを引き留めたのは由梨恵だ。
「あら、あなたは?」
「初めまして、駒ヶ由梨恵と申します。勇太くんの友達です! い、今のところはっ!」
頬を赤らめて由梨恵が言う。
友達とは言うが、しかし好意がダダれだった。
もはやみちるは、ここが現実なのか、夢なのか、わからなくなっていた。
モテない冴えないどうしようもない。
ないないづくしの高校生、上松(あげまつ)勇太に……有名人かつたちが、好意を寄せているなんて。
「なるほど……わかりました、ゆーちゃん」
にこり、と母が笑う。
「どうぞ2人とも、お家に上がっていってくださいな」
「「いいんですかっ?」」
「ええ♡ ゆーちゃんが連れてきたお嫁さん候補ですもの。じっくり……じっくり……見極めないと……ええ……」
スッ……と母の目が鋭くる。
おそらく大事な息子の連れてきた結婚相手を、味しようとしているのだろう。
「か、母さんダメだって! 夜も遅いしほら!」
「明日は土曜日です。ちょうどいい、お二人とも泊まっていってくださいな」
「「いいんですかっ!?」」
……アリッサも由梨恵も、とても嬉しそうにしている。
……どう見ても、ふたりが好意を抱いているのは、明らかだ。
「よくやったぞぉ勇太ぁ! 超有名歌手と聲優が嫁にくるだってぇ! 毎日『お義父様』って言ってくれるだってぇ♡ うひょー! 最高じゃーん! ふたりとも嫁にしようぜ!」
母は靜かに微笑む。
「あなた♡」
「なんだいっ?」
「黙れ」
般若のごとき表を浮かべ、母が父のミゾオチをヤンキー蹴り(キック)。
「ふぐぅ……」
倒れ込む勇太の父。
蟲けらでも見るような目で見下ろす母。
「さ♡ 三人とも。早く中におりなさいな」
★
みちるは自分の部屋に戻ってきて、呆然とベッドに倒れ伏す。
「噓よ……あり得ないわ……」
先ほどの出來事を思い出す。
上松勇太が、有名人ふたりを連れてきた。
それだけでも異常事態なのに、問題なのはその達が勇太に好意を抱いていそうなところ。
「なんで……? どうして? あんなキャの……どこに好きになる要素があるの?」
みちるは一生懸命、答えを捜す。
だがいくら考えても結論は出てこなかった。
「ネット検索でもしてみようかしら」
みちるはアリッサ・洗馬と駒ヶ由梨恵を調べる。
ネットに何か二人をと勇太をつなげる手がかりがないだろうかと。
「……ダメだ。何にも書かれてない」
しかし二人とも事務所がしっかりしているため、プライベートが出するような報は落ちていなかった。
……しかし手がかりは、意外な場所からもたらされた。
「こ、これは……!」
みちるはネットで、1枚の寫真を見つけた。
それは、とある聲優のツイッターの畫面だった。
『デジマスの祝賀會いってきましたー! 原作者のカミマツ様に會っちゃった~♡』
……そんなツイートとともに、寫っていたのは1枚の寫真。
聲優(由梨恵にあらず)のとなりには、スーツ姿の人が寫っている。
顔はスタンプで隠されている。
だから、顔はわからない。
だが……みちるにはわかった。
馴染だからこそわかるものがある。
型や雰囲気。そして何より、
「この迷彩柄のクソださネクタイ……こ、これって……」
先ほど勇太がタクシーから降りてきたとき、彼がにつけているものと同じだった。
ツイートには、【原作者のカミマツ先生】と書いてある。
みちるの目の前に並べられた証拠。
そして、あの日の告白を思い出す。
ーーだから……僕が【デジマス】の作者【カミマツ】だってことを。
あのとき、みちるは勇太がくだらない噓をついたのだと思っていた。
しかし、それが噓ではなく、真実だとしたら……。
「……噓。噓よ。よりにもよって……あの勇太が、カミマツ様だなんて」
みちるは、自分が大好きな神作家、カミマツに対して、とんでもないことを言ってしまったことになる。
「違う……違う!」
みちるは布団にって丸くなる。
「勇太がカミマツ様なわけがない!」
彼は自分に強くそう言い聞かせる。
もういい、そんなくだらない妄想なんて、寢たらすぐ忘れる!
……しかしみちるはその日、一睡もできなかったのだった。
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