《【WEB版】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った馴染が後悔してるけどもう遅い【書籍版好評発売中!】》38話 みんなが僕を心配してくれる

移籍騒があってから、しばらく経ったある日。

7月の上旬。

僕は近くの病院にいた。

「ありがとうございました」

診察を終えて部屋を出る。

「「「勇太ぁああああああ!」」」

わっ……! と大勢の人たちが、僕に押し寄せてきた。

父さんと妹の詩子(うたこ)。

編集の芽依(めい)さん。

聲優の由梨恵(ゆりえ)、歌手のアリッサ、イラストレーターのこうちゃん。

「うぉおおお! 勇太ぁあああ! どうだったぁ! 右手は治ってるのかい!?」

「あなた♡」

僕の付き添いで診察室にっていた母さんが、父さんの前に立つ。

「ハッ! ぼくこれ知ってる! この流れは知ってるぞぉ!」

父さんは首の後ろを手で守る。

「へっへーん! 手刀で気絶させるつもりだろうけどそうはいかないもんね!」

「殘念♡」

母さんは父さんの間を蹴り上げる。

「ぐふぅ……」

金的を食らった父さんは、その場にへたり込んだ。

し黙ってなさい♡」

「か、かあさぁー……ん、ぼくのムスコが……死んだらどうするんだよぉ~……」

「もう使わないでしょそんな末なモノ」

「ひどいぃ~……」

騒いでたら怒られたので、僕らは移する。

ちょっと大きめの病院だったので、待合スペースまでやってきた。

「それでおにーちゃん、右手……どうだった?」

僕の右手には、つい先日まで包帯が巻かれていた。

中津川を毆ったとき、し骨にひびがっていたらしい。

「うん。バッチリ。何の心配もないって」

「「「よ、よかったぁ~……」」」

一同、安堵のため息をつく。

「勇太くん治ってよかったね!」

「……もう治らないかもと思ったら、眠れない日が続いて……」

『うわーん! かみにーさまなおってよかったよー!』

由梨恵、アリッサ、こうちゃんが、それぞれ無事を喜んでくれる。

「先生、治っても無理しちゃだめですからね。執筆はもうちょっとお休みしてください」

芽依さんが安堵の吐息をつきながら、僕を見て言う。

「いや、大丈夫ですって。右手使えなくても、左手で打てますし」

「ダメです。アタシ知ってますよ、左手でタイピングして、こっそり執筆してたでしょ?」

じろり、と芽依さんににらまれる。

うう……バレてるや。

「執筆? 勇太くん、何か書いてるの?」

「……ウェブ小説はおやすみしてますよね?」

由梨恵とアリッサが聞いてくる。

「書き下ろしの仕事」

「「書き下ろし?」」

「うん。父さんと芽依さんが立ち上げる、新しい出版レーベルでの仕事」

詩子が目を丸くする。

「え、えー!? お父さん、新しい出版社ってなに!? どういうこと?」

を聞かされてなかった詩子が、父さんに詰め寄って言う。

「うん。ぼく、あの會社辭めることにしたんだ」

父さんがあっけらかんと言う。

「あー、ついにクビかー。いつか切られると思ってたよ」

「ち、違うよ! 自主的に辭めたのッ!」

「自主的? ねえお母さん、本當なの?」

父さんじゃなくてなぜ母さんに聞くんだろうか……。

母さんは靜かにうなずく。

「ええ。本當ですよ。この人は自分で辭めたの」

「マジか! どうして辭めたの、お父さん? だっておにーちゃんの移籍って取りやめになったんでしょ?」

デジマスと僕心は、結局前のレーベルから出ることになったのだ。

つまり僕の移籍騒は白紙になった。

同時に父さんと芽依さんの辭表も取り消しになったんだけど……。

「當たり前じゃないか」

父さんはため息をついて言う。

「あの會社の社長は、息子達を酷い目に遭わせた。ぼくはそれが許せなかったんだ」

「お父さん……」

「それにあのレーベルにいたらほら、勇太は仕事しにくいかと思ってね」

父さんがちらっ、と待合室の大きなテレビを見上げる。

『中津川社長、辭職』

そうテロップに大きく映し出されていた。

僕の移籍騒はなかったことになった。

けど中津川の傷害未遂、みちるのレイプ未遂に対する話はそれとは別。

結局、中津川達は億単位の示談金を支払う羽目となった。

それがきっかけとなって、余罪がボロボロと出てきたらしい。

たとえば中津川は他にもの子に酷いことをしたり、非合法なことをしたりしていたらしい。

中津川父は金と権力を使って息子の行為をもみ消していたんだって。

けど今回の件でそれら後ろ暗いことが全部白日の下にさらされた。

結果、臨時の株主総會が開かれて、中津川父は社長の座を退くことになった。

一方中津川は隠れて行っていた非合法な行為が、こちらも全てバレて年院にれられたんだってさ。

「社長辭任騒で會社はゴタゴタするだろう。ま、勇太がいるからレーベルが潰れることはないだろうけど、將來的にどうなるかわからないからね。だから出版社を立ち上げて、もしレーベルが消えたとしても、勇太の本が出せる場を用意しておこうかなってさ」

「だから、自分で會社を?」

「うん。ま、大企業やめちゃったから、給料も激減するし……みんなに迷かけちゃうと思う。ごめんね」

ぺこ、と父さんが僕ら家族に頭を下げる。

「あはは! いやぁ、でもほらうちには勇太がいるし安心だ! みんなが金で困ることはないよ! ほらぼく元々上松家の寄生蟲だったし……わぷっ」

母さんが、父さんのことを、正面から抱きしめる。

「か、母さん?」

「いいえ、あなたは上松家の立派な大黒柱ですよ♡」

ぎゅー、と母さんが父さんをハグする。

「息子のために仕事を辭めるなんて、誰でもできることじゃありません。わたし、不用ながら一生懸命家族のためを張ってくれる……あなたが好きですよ」

「あ、あはは……テレるなぁ……子供達が見てるよぉ~? ムスコがほら、ね、びんびんです……へぶっ!」

父さんが二度目の金的を食らってその場に崩れ落ちた。

「お父さんちょっとカッコいいって思ったのにダメダメだね」

やれやれ、と詩子が首を振る。

「ほら、編集長。立って、仕事に戻りますよ」

芽依さんが肩を貸して、父さんを立ち上がらせる。

そう、肩書きで言えば、父さんは新レーベルの編集長。

芽依さんは副編集長になるんだって。

「え、ええー……今日くらいはいいじゃないか。みんなで帰って、勇太復帰おめでとうパーティをしようと思ってたのにぃ~」

「それは夜やりますから。ちゃんと仕事してきてくださいね、あなた」

「ふぁーい……」

父さんは芽依さんと一緒に病院を去って行く。

「ではお母さんは詩子と先に戻ってますね」

「うん。付き添いありがとう、母さん」

母さんは微笑むと、僕をハグしてくれる。

「ゆーちゃん。あなたが無事で、本當に本當によかった……」

深く安堵の吐息をつく母さん。

僕が右手を負傷して帰ってきたとき、母さんは真っ青な顔をしていた。

馴染みを守るためとは言え、無茶しすぎです」

「うん……ごめんね。次からはちゃんと相談するよ」

母さんは抱擁をとくと、僕の頬にキスをする。

「これからも困ったことがあったら何だって相談してください。迷かなんて考えなくて良い。頼っていいんです。家族なんですもの」

母さんは笑って、僕に手を振って、妹とともに去って行った。

「えっと……みんなも、ごめんね」

由梨恵とアリッサ、そしてこうちゃんに、僕は頭を下げる。

移籍騒や、右手の負傷で、かなり彼たちに心配をかけてしまった。

「謝らないで勇太くん。あなたがしたことはとても立派な行為だよ」

「……ええ。勇気ある素晴らしい行いでした。さすがユータさんです」

『気にしないで! かみにーさまが元気ならわたしはそれで十分だよ!』

みんなが笑ってくれている。

僕はそれが本當に嬉しかった。

と、そのときだ。

ふと、僕は【彼】と目が合った。

「あ! みちる……!」

は病院のガラス窓の向こうから、僕らを見ていた。

けど馴染みは僕と目を合わせると、靜かに微笑んで、スマホを作する。

ピコンッ♪ とスマホに通知がる。

『あんたのお母さんから聞いたわ。右手、治ってよかった』

……みちるも心配してくれてたんだ。

は微笑を浮かべると、またスマホを作する。

ピコンッ♪ とまた通知がる。

『迷かけてごめんね。もう二度とあんたの前には現れないから』

「え……? ど、どういう……」

『あんたのこと、誰よりも応援してるから。がんばって勇太』

僕はスマホから目を上げる。

は小さく、口をパクパクさせた。

窓越しだったけど、何が言いたいのかは伝わってきた。

『さよなら』

寂しそうな目をした後、彼は去って行こうとする。

「さよならって……なんだよ……」

二度と僕の前には現れない?

なんでそんな寂しいこと言うんだよ……。

「みちる……」

の悲壯な決意表明に対して、僕は……。

僕は……。

「みちるー!」

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