《【WEB版】高校生WEB作家のモテ生活 「あんたが神作家なわけないでしょ」と僕を振った馴染が後悔してるけどもう遅い【書籍版好評発売中!】》39話 馴染みは謝罪し、また1から始める

上松(あげまつ) 勇太の馴染み、大桑(おおくわ) みちる。

は1人、自宅のベッドに橫になっていた。

「…………」

季節は夏。7月の上旬だ。

蒸し暑さに辟易しつつ、けだるい表で窓の外を見やる。

「……もう、お晝か」

今日は平日、學校があるはず。

しかしみちるは學校を休んでいた。

……勇太と病院で別れた後。

はタクシーに飛び乗って、自宅に帰ってきた。

それ以降ずっと引きこもり、學校を休み続けている。

まだ父は何も言ってこない。

學校からサボっている連絡が行ってるだろうに……。

父は海外にいる。でもそれだけじゃない。父は娘にあまり……というか全く関心がない。

母が死んだことが原因だろう。

アルバムで見たことのある、若い頃の母と今の自分はそっくりなのだ。

娘を見て故人(妻)を思い出してしまうのだろう。

「…………」

を埋めてくれたのは、いつだって馴染みと、彼が紡ぐお話だった。

けどいつしか彼がいることが當然になった。

寂しさを埋めてくれていたものの大切さを、失って初めて知った……。

「もう……手遅れだけどね……全部……」

みちるは勇太と、もう二度と會わないと約束した。

だってそうでもしないと、彼にいつまでも頼ろうとしてしまうから。

きっとあの優しい馴染みは、自分が困ったら、どんなときだって助けてくれる。

でも、そのせいで彼にケガをさせてしまった。

もう彼に頼ってはいけない。

自分は彼を振ったのだ。

彼との関係は完全に……斷ち切れたのだ。

「…………」

改めて彼のことを考えたら、がとても痛んだ。

「……気晴らしに、買いでもいこうかな」

カレンダーを見やる。

今日の日付に、二重丸で囲われていた。

……そう、今日は大好きな作家の新刊、【僕の心臓を君に捧げよ】の発売日だ。

カミマツと判明してから今日まで、みちるはカミマツ作品を読めないでいた。

々あって読む気になれなかったのだ。

でも……彼との関係に一段落付いた今なら、読めるかもしれない。

それに何より、カミマツ作品は読んでいて【不思議と】元気になれる。

バチッ! と心に語が響くのだ。

まるで【自分(みちる)】を喜ばせるためだけに、書かれているような錯覚を起こす。

「ま、気のせいでしょうけど……」

支度を調えて、みちるは近くの本屋に足を運ぶ。

平日晝間と言うことで、本屋には閑古鳥が鳴いていた。

みちるはラノベコーナーへと足を運ぶ。

しかし……。

「あれ? ない」

新刊コーナーに、カミマツの最新作が見當たらないのだ。

「おじさん。カミマツ……先生の、新刊は?」

顔見知りの店長が、みちるを見て「ああ」とうなずく。

「売り切れだよ」

「売り切れ?」

「ああ。今朝開店した瞬間に全部売り切れちゃったね」

「そんな……」

「瞬殺だったよー! いやぁすごい! さすがデジマスの作者の新刊だけあって、注目度高いからねぇ! PVもよかったし!」

神作家の新作、神絵師による表紙、そして破格の宣伝短編アニメとエンディング曲。

なるほど、これで売れない方がおかしい。

荷予定は?」

「隨分と先だろうねぇ。知り合いの本屋もどこも在庫切れってさ。だいぶ多めに荷したんだけどね」

「そう……」

「いやほんと神作家は凄いよ! SNSじゃ発売初日で全國の書店から僕心が消えたって言ってたし! 急大大大重版が決まったらしいよ! いやぁほんとにカミマツ先生は、出版業界に舞い降りた救世主……!」

みちるはため息をついて、その場を後にする。

近くの本屋を何軒かハシゴしたが、どこも僕心は売り切れだった。

電車に乗って秋葉原へ行き、アニメショップを回ったが……全滅。

フリマアプリにはデジマスの新刊が、なんと10萬円で取引される狀況。

「650円のラノベが10萬の価値って……どんだけプレミアついてるのよ……ほんと……すごいわ……」

みちるは電車に乗りながら、弱々とつぶやく。

電車の中刷り広告にも【僕心】のキャラが大きく書かれていた。

「……すごい、すごいよ……勇太。あんたが……すごく、遠いわ」

ややあって。

夕方、みちるは自宅へむかってトボトボ歩いていた。

結局、いくら探しても僕心は見つからなかった。

ウェブで読めはするけど……できれば大好きな作家の作品は、初版で、紙で揃えておきたかった。

「……勇太のところにいけば、獻本があるかも」

獻本とは、作者に贈られる見本誌のこと。

しいと言えばあの優しい彼のことだ、喜んでくれるだろう。

「……バカね。アタシ……もう會わないって決めたのに」

小さく自分を嗤い、帰路へと付く。

誰も待ってないはずの家に、やってきた……そのときだ。

「あ、みちる」

上松(あげまつ) 勇太が、玄関先に座っていたのだ。

「ゆ、勇太……? どう、したのよ」

よいしょ、と勇太が立ち上がる。

學校の帰りのようだった。

學生鞄の中から、何かを取り出す。

「はいこれ。屆けようと思って」

「……これって……僕心?」

「そう。獻本」

今日一日探し回って、でも手にらなかった本を……馴染みがくれたのだ。

「どう……して?」

「さっき帰ってきてさ。ピンポン押したんだけど人の気配ないし。だから本を買いに出かけたのかなって」

……々と疑問に思うことがある。

「……なんで本を買いに行ったってわかるの?」

「だって、みちる発売日には必ず、僕の本買っててくれたじゃないか」

ぎゅっ、とみちるが本を抱きしめる。

「でも今、どこもめっちゃ品薄だっていうし、だから買えてないかもって思って、獻本持ってきた……みちる?」

ぽた……ぽた……とみちるの目から涙がこぼれ落ちる。

「どうして……どうしてぇ~……」

ボロボロと涙がこぼれ落ちる。

泣いてはダメだと思っても……彼の優しさが心の傷口に染みて、涙が頬をこぼれていく。

「どうして……あんたは……いつも……だって……アタシ……うぐ……うぇええん……」

その日の夜。

みちるは誰も居ない寢室にひとりでいた。

ベッドに座って、僕心を読んでいた。

「みちる。るよ」

の部屋に勇太がってくる。

「掃除しておいたよ」

「…………あんがと」

「使った食は洗わないと。特に今は暑くなってるから、蟲がわいて大変だったよ」

……あのあと、周りの目があるからと、勇太達はみちるの家にった。

は泣き止むまで自室に籠もっていた。

一方でこの馴染みは、頼みもしてないのに、部屋の掃除を勝手にしていたのだ。

「ちゃんとご飯食べてる? 母さんに作ってきてもらおうか」

「……ほっといて」

「でも……」

「ほっときなさいよ!」

みちるは聲を荒らげて言う。

「なんで……なんであんたは何食わぬ顔で、アタシに世話を焼くのよ! 言ったじゃない……もう二度と……あんたの前には現れないって……! なのに……どうして……」

どうして彼は、自分が一番いてほしいときに、側にいてくれるのだろう。

どうして、手ひどく振ったのに、彼は隣に居続けてくれるのだろう。

「ごめん。でも……僕はほら、君の馴染みだから」

「違う! アタシは……あんたを振ったんだ! もうあんたとアタシは何の関係もない!」

落ち著いたはずの心はまたれていた。

涙を流しながら彼ぶ。

「あんたは傷付いた! こんな……ワガママくそのことなんて、忘れちゃえばいいのに! 放っておけばいいのに! どうして……いつまでもそんな……特別に、優しくしてくれるのよぉ~……」

いっそ上松 勇太が、みちるに対して嫌悪を覚えてくれていた方がよかった。

自分を振ったクソだと、憎しみを持ってくれていれば。

あるいは、もう二度と関わらないと、無視し続けてくれてば楽になれたのに……。

あるいは……。

「アタシのこと、嫌いになってよぉ~……」

嫌ってくれた方が楽だった。

優しい彼はもう二度と戻らないのだとわかっていたほうが……諦めも付くから。

「君を嫌いになるわけないだろ」

「勇太……」

彼はいつも通りの笑みを浮かべる。

何年経っても変わらない、あせない笑顔で言う。

「僕らは馴染みだもん。その関係だけは、これまでも、この先も、ずっとずっと……変わらないよ」

の仲になろうとして、みちるは失敗した。

だから関係はそこで破綻したと思っていた。

でも勘違いだ。

みちると勇太をつなぐ糸は、1本だけじゃない。

人にはなれなくても、自分と彼は馴染み。

その間柄は、変わらないのだ。

彼の笑顔も、また同様に。

馴染みという絆は、永遠に失われることはないのだ。

「……勇太。聞いて」

「うん、聞くよ」

みちるは真っ直ぐに彼を見て、深く頭を下げる。

「ごめんなさい。あんたを、手ひどく振って。汚い言葉で罵って……ごめん」

ずっと……ずっと言えなかったことを、彼は口にする。

「あんたがカミマツだと信じてあげられなくて、ごめん。あんたが……噓をつくはずないのに、信じてあげられなくって……ごめんなさい」

そう、自分は間違っていたんだ。

勇太がカミマツだとわかったあの日。

酷く尊大な態度を取ってしまった。

付き合ってあげても良いだなんて……馬鹿馬鹿しい。

自分がすべきことは……馴染みの言葉を信じず、噓つき扱いしてしまったことを謝罪すべきだった。

それができなかった。

浮かれていたんだ。混していたんだ。

……いや、自分が、バカだったんだ。

「ごめん」

「もういいよ。そんなこと」

勇太はポケットからハンカチを取り出す。

みちるの涙をハンカチで拭ってくれた。

いつだって彼は、泣いてるとき、ハンカチを差し出してくれた。

なんで忘れていたんだろう。

こんなにも優しい、最高の男の子が、自分のそばにずっと居てくれたのに……。

「ねえみちる。もうさ……二度と會わないなんて、そんなに寂しいこと言わないでよ」

勇太はしゃがみ込んで笑って言う。

「君が僕を振っても、僕らの関係は変わらないじゃないか。これからもずっと」

「うん……でも……あんたを傷つけちゃったし」

「気にしてないって。むしろ、僕はキミが傷付いたままでいる方が……いやだよ」

ね、と勇太は笑う。

本當に……本當に、自分はバカだった。

の関係が、だけしかないと勝手に思い込んでいた。

振ってしまったら、もう関係はお仕舞いだと思っていた。

「あんたは、許してくれる? これからも……アタシが馴染みでいることを」

「だから、別に許すも何も、今も昔もこれからも、キミはずっと、僕の大事な馴染みだよ」

に、何か暖かなモノが流れ込んでくる。

それを言葉にするなら、なんだろう。

小説家じゃない自分には適切な言葉が思い浮かばない。

けれど、これだけは確かだ。

自分と彼とをつなぐ絆は……馴染みという関係は、消えることがないと。

「ねえ、勇太。僕心、読んだよ」

「どうだった?」

みちるは、久しぶりの笑みを浮かべて……こういった。

「最高だった! やっぱり……【勇太】のお話は、すごく面白いよ!」

こうして、馴染みたちの関係は、振り出しに戻ったのだ。

の仲ではなく、馴染みとして。

ゼロからではなく、1から。

神作家(カミマツ)ではなく、上松勇太と。

向き合っていこうと……みちるは思うのだった。

【★読者の皆様へ】

これにて神作家、第1章完結です!

ここまで読んでくださった読者のみな様、ありがとうございます!

第1章を読んで、

「面白かった!」

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(2021/05/31)

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