《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》見ていたくない
「連絡の行き違いがあったことに怒っているのかい? リリアーヌ」
「いいえ、お父様もお母様もお忙しかったのでしょう、それよりも私がニナさんと義理とはいえ家族として過ごすために留意する事はございますか?」
「ん? まぁ……そうだな、出來たら妹と姉として仲良くなってくれればとは思うが……」
「かしこまりました。まずはお友達になれるようにはげんでみますね」
屬持ちは貴族に迎えれられて、やはりどこかしらの貴族と縁付くことが多い。魔法屬は親からの伝する可能が高いので婚約者のいない令息本人もその親もたくさんの目が集まるだろう。その中には本人の意思を無視する人達も多い。
今回のように後見となった家は、そういった手から、生まれたての魔法使いを守る役割もある。そのため希な屬などは貴族ならどこでも後見できるわけではない。國から指名されたのは譽なことだ。それくらい私だって理解しているから、1か月前に聞いていればこんなにモヤモヤした気分にならなくて済んだのに。
玄関ホールにると、聞き覚えのないの子の楽しそうな聲が2階から降ってきた。おそらくこの聲の主が私の妹になる子なのだろう。
家族が過ごすフロアのサロンにると、普段家で過ごすことの多いコーネリアお姉様とアルフォンスお兄様に加えてウィルフレッドお兄様とジェルマンお兄様も揃っていた。
お母様の隣に、肩を強張らせて座っている彼がニナさんだろう。
私とお父様が帰宅した前れをけていたらしいお母様が、彼を立たせて優しく「ほら、今やった通りに自己紹介してごらんなさい」と促した。
お母様が教師役だった、マナーについて厳しく教わった覚えしかない私はほんのし違和を覚える。
まだ名乗られていないし、正式に紹介もされていないから私から聲をかけるわけにはいかないけれど、とっても可らしいお嬢さんだった。肩までの長さの栗のふわっとした髪のに、ヘーゼルの溫かみのある瞳。
彼は恐々と立ち上がると、ほんのしふらついた。足の長い絨毯に足を取られたのか、ヒールのついた靴に慣れていないのか。その両方だろう。
「お、おはつにお目にかかります。この度魔法を授かりまして、アジェット家に迎えれていただきました……ニナと申します」
挨拶の口上の後におそるおそる、と言った様子で腰を落とす。平民が挨拶でやるような首から上だけ倒すお辭儀がクセで出てしまったのだろうか、略式とはいえきちんとしたカーテシーにはならずペコリと頭も下げてしまっている。どうやら沒落しかけの男爵家で、ほぼ平民のような暮らしをしていたという話はその言葉の通りだったらしい。
でも幹はしっかりしている、思ったより深くまで腰を落としていた。
しかし口上もつっかえていたし、音楽だけでなくマナーの授業も同じだけ厳しかったお母様は雨霰(あめあられ)のように指摘をするだろう、と思った私はその後にフォローの言葉をかけるつもりでいた。
いころの私も、まったく経験のない狀況での振舞い方や挨拶を「まずはやってみなさい」と言われては手探りで自分で考えて。その後は……指摘されてないポイントの方がないというくらいにたくさんダメ出しをされたから。
けれど。
「そうね。初めてにしてはとっても筋がいいわ」
「ほ、本當ですか? 公爵夫人……あっ、えっと、お義母さま……?」
「ふふ、そうね。もちろん直すべき所はたくさんあるけど、貴は呑み込みが早いからきっとすぐに素敵なレディになれるわね」
「わあっ……嬉しいです、ありがとうございます、わたし頑張りますね!」
「そうね、貴族令嬢になるのだから、もうし聲のボリュームを落とすべきかしら」
「あっ……すいません、エヘヘ……」
え……?
はにかむように笑うに向かい合ってほほ笑むは、本當に私のお母様なのだろうか。
見ている景が信じられずに私は社用の微笑のまま固まって息すら忘れてしまう。
私は……一回も、本當にただの一回すら褒められた事がないのに。どうして? どうして? 言われたことが出來るようになった時も、コンクールで一番になった時も……
それなのに、今日家族になったばかりのもつながってない子が、私の目の前で、拙い挨拶を披した、ただそれだけで……どうして、
手のひらを重ねて一番優雅に見える姿勢で立っていた、重なった左手の下で痛いくらいに制服の裾を握りしめる。の気が下がったように背中と指が冷たくなって、耳鳴りがして、自分の吐息がざらざら鼓に響いて意識が遠のきそうになる。
空っぽの胃から何かがこみ上げて、私は自分の手の甲を強くつねってどうにか押しとどめた。
どうして、なんで、私は褒めてくれないのにその子は褒めるの
び出しそうになるのを必死で抑えて、紹介に與った後見の家の娘としての最適を舌に乗せる。
「……アジェット家が三、リリアーヌです。ご家族と急に離れて寂しいでしょうけど、これからはぜひ本當の姉と思っていただければ嬉しいのですが……よければニナと呼んでもいいかしら? ぜひ、私の事も姉と呼んでいただければ」
家族として迎える前提のかしこまりすぎない言葉を選んであえて略式の挨拶を返す。親族同士でやるもので、これで相手を家族扱いしているという返答になる。
挨拶の言葉もふるまいも、私は何一つ間違っていないと思った。だけど……。
「う、っ……!」
突然、つらそうにうめき聲をらすとニナさんは俯いてしまった。
「…っ、おい、リリアーヌ……話聞いてなかったのか?」
「な、何をですか……?」
私が1人事を分かっていない。アルフォンスお兄様の言葉で、何か事があったらしい彼の傷に私が意図せずれてしまった事だけは理解した。
「いえっ……いいんです、いきなりだったから、ちょっと不意打ちで思い出しちゃっただけで……ごめんなさい! 空気を悪くしちゃって……」
「無理しなくていいのよ? ごめんなさいね、リリアーヌが」
「いえ、いいんです、こんなに素敵なご家族に囲まれていたリリアーヌ様には、家族にげられて暮らしてたあたしみたいな存在なんて、知らなかったんだと思います」
その言葉で背景を大理解した。あまり恵まれた家庭でとは言えない生活を送っていたのだろうことと、私の無遠慮な一言でそれを思い出してしまった事が。大変申し訳ないことをしてしまった。
けど言い訳させてもらうなら、そんな事ちっとも知らなかったのだ。希な使いの保護のため養子を迎えると知ったのも今日の話だったのに。
「ご、ごめんなさい、本當に……わざとではなかったの、ニナさんの事について知らなくて……」
「はい、大丈夫です。平民がいきなり妹になるって言われてもけれにくいし、細かい話なんてわざわざ覚えていられませんよね」
「そんなつもりは……!」
義理の妹との初対面は最悪なものになってしまって、委する彼に申し訳なくなった私は晩餐の席を調不良を理由にして辭退した。これ以上私のせいで悪くなった空気の中にいるのに耐えられなくて逃げたとも言うけど。
本來は家族揃って歓迎を示すべきだったと思うが、謝罪しても恐されるばかりで、「今日はもうこれ以上押しかけないほうが良いだろう」と思ってしまったのだ。……これからしずつ誤解を解いていけるといいのだけど。
學園に通うと聞いているから、これから私が一番長い時間を過ごすことになる。機會は多いと前向きに思いたい。
「ねぇ、ニナちゃんのこと、リリアーヌには伝わっていなかったようね。わたくしもお父様も、行き違いがあっててっきりとっくに伝えてあると思い込んでたみたいなの。ごめんなさいね、リリアーヌ」
「いいえ、私は謝罪されるような事は何も。ただ、私がニナさんのご家庭の事を知らないせいで傷付けてしまったのが申し訳ないと思って、それだけ気がかりなだけで」
複雑な事があるなら教えておいてしいと、お父様に車の中で留意する事柄について聞いたのに。他の家族の間ではすでに最重要項目としてとっくに周知されていて私に忠告するという事すら浮かばなかったのだろうか。
晩餐が終わった時間にお母様の部屋に呼び出されて私の顔を窺うようにそんな話をされた。私が聞かされていなかったのは分かってもらえたようだが、なんだか、私がまるで……知らない子が妹になるなんてとふてくされているみたいではないか。それともお母様の中では私はそのような反応をする娘だと思われているのだろうか。
しかし結果的に彼のれてしくない事を口にした私が叱られるだけならまだしも、心の傷があるを迎えれる家としては隨分不用心ではないかと文句を言いたくなってしまう。意図せずとも加害者になってしまった戸いをお母様にぶつけているだけだと分かっているから口にはしないが。
「大丈夫よ。ニナさんは苦労してる分強い子だから、気にしないと言ってくれていたわ」
「それでしたら……安心いたしました。急な申しれになってしまいますが、學園で同じことが起きないように周りの方にも協力していただきたいと思います」
私を褒めてくれないお母様が私の前で、よその子を褒めていた。それがまだ消化できなくて、嫉妬の心すら沸いてしまう。きっとそれで頭が混していたのもあった。
どうして私を褒めてくれないのにあの子は褒めたの、と今も怖くて聞けない。
でも何とか自分の役割を考えてそう提案すると、「學園側には事は話してあるけど、そうね、リリアーヌのご友人方には説明して協力を仰いでちょうだい」と言われた。
學園への説明は忘れていらっしゃらなかったのね。まぁ魔法使いを養子にするなら學園への學はセットだからさすがにそこは忘れないわよね。
「他に私が、ニナさんのために出來ることがあったらご指示ください。妹ができるのは初めてなので」
「まぁ、そんなに気張らなくてもいいのよリリアーヌ。あなたが今まで上の兄姉達にしてもらった事を思い出して同じようにしてあげればいいだけなのだから」
「かしこまりましたわ、お母様」
意識してしい笑みを浮かべながら、心の中だけで私は毒を吐いた。
私がしていただいたような、どんな結果を出しても一番を取っても褒めずにどこか至らない所を探して指摘し続ければいいのだろうか?
思い浮かべて鼻で笑った。実の妹ならともかく、養子にとった魔法使いにそんな事をしたら義妹の努力を認めずげるとんでもない令嬢だと悪評にされてしまうだろう。
ああ、嫌な子。お姉様達もお兄様たちも私の事を思って指導してくださっているのに、お褒めいただくような果の出せない自分を棚に上げて。
部屋に戻ると、私と同じくニナさんについての話を知らされていなかったアンナがまだ待っていて、わざわざいたわりの言葉をかけてくれた。確かに疲れていた私はそのねぎらいにじわりと染みるような溫かさをじて、「明日こそは、褒めてもらえないにしても及第點のふるまいができるようにしたい」と思いながらベッドにった。
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