「ライノルド様、ご相談したい事があるのですが……今日の放課後々お時間をいただいても良いですか？」

「それは、私でないとならない用事だろうか？」

「……いえ、あの。でも……」

「アジェット家の方にまず相談した方がいい。貴族家への不義理に見える真似をしたくないんだ。すまないね」

社で使う笑みを浮かべてごく自然な態度で拒絶する。何を話すつもりだったのか的な容は知らないが、想像はできる。またリリアーヌを遠回しに貶める言葉だったのだろう。

狩猟會でリリアーヌが怪我をしたと聞いた時は前後の記憶があやふやになるほど揺していた。あの時の、自分の溫がざぁっと音を立てて下がっていくような覚は忘れられない。

狩猟會で起きた騒ぎの収拾をつけた後、リリアーヌの容態を聞いてやっとひと心地ついた時だった。意識は失っているが大きな怪我ではない、と聞いてそこだけは安堵していた私は翌日、この騒ぎについて事のあらましを聞き取ったという教師から顛末を聞く。

それがあまりにも異常で、本當にそう言ったのかと、その教師にも聞き取りに立ち會ったらしい騎士団の人間にも問いかけてしまった。

リリアーヌが自分の績のために経験の淺いニナを「自分がいるから大丈夫」と豪語してチームにれた挙句に無謀にも森の奧に向かったと。この特例について條件付きで許可を出したという、屬の擔當教であるアマド教諭も同じ容を口にする。

チームメンバーの殘りの二人は、自分達は數合わせなので詳しい事は知らなかったけれど、と消極的にだがやはりこの調書に同意していた。

學園の狩猟會はこれが初めてだが、貴族子息がメインとなる魔討伐や演習訓練ではリリアーヌは同年代で常に一番の果をおさめていた。きっとこの狩猟會でも一位を獨走できただろう。この狩猟會でも、むしろ績だけを求めるならチームを組まずに彼は単で森の奧に向かう方が確実に効率が良いはず。

それにリリアーヌが人危険にさらすような事をするとは思えない。慎重だからというだけじゃなく、彼の人間として。

なのになぜこんな話に、と考えた先に原因らしきものに辿り著く。リリアーヌの事を心配しているように見える言でこの筋書きに持ち込んだニナというの事がとても恐ろしくなった。

いや初対面の時からニナに対して違和は抱いていたのに。名前を呼ぶ事を拒絶したらニナを養子にしたアジェット家……リリアーヌ達が養子の教育もまともに出來ていないと指摘する事になってしまうだなんて、気にするんじゃなかった。

しかしアジェット家は何を考えているのか、リリアーヌが狩猟會の績目當てで危険を冒したという、この話をそのまま信じてしまったのだ。

リリアーヌが本當にこんな真似をすると思っているのか？　何故？　と問いただせば歯切れ悪く、理由をはっきり言わない。どうしてリリアーヌがこんな事を起こしかねないと思ってるのか、全く理解できない。拠を聞いても言葉を濁す。でも何か確信はしているようだった。

まるで「思いつめた結果あんな事件を起こしてしまった」、というストーリーを信じたいように見える。

事件は無いと聞いても、當然全く安心なんて出來ない。しかもその拠になるというリリアーヌの書置きは「家族間のプライベートな事が書かれているから」とされてしまって。捜査の手掛かりになるかもしれないと伝えてもそれが覆ることは無かった。

大ごとにするとリリアーヌが戻って來づらいとはアジェット公爵家側から言われたが、裏にかせる最大規模で軍を員もした。なのに痕跡すら辿れない。

これかと思った痕跡は辺境の森の中に埋められていた頭髪に辿り著いただけ、リリアーヌが仕掛けた囮だった。そちらを追いかけたタイムラグもあって、リリアーヌの目撃報すら出てこない。

すぐに見つかるような試し行の家出である事を祈ってはいたけどそれは葉わず。私は「彼が本気で逃げようとしたら一般兵では何も出來ないだろうな」と思っていたからある意味想定だったのだが。アジェット家の嘆きようは異様に映った。

最悪の事態については口にしないが、リリアーヌが人攫いに遭っているのではと心配してみたり、悪い人に騙されているのではと不安がってみたり。そのおかげで國の犯罪組織は総ざらいして大小さまざまな罪人が検挙されたが、當然だがその被害者達のどこにもリリアーヌの姿も痕跡も無かった。

だって、リリアーヌだぞ？　不意を突いたとして彼をかどわかせる人攫いがいたのなら、もうその人は冒険者や兵士になるべきだと思う。英雄になれるだろう。

し常識に疎いところもあるが、このクロンヘイムだけではなく國際法と周辺國の法典も一通り頭にっている彼を騙せる者が……その辺りの詐欺師にいるのだろうか。

いや、でも彼は優しいから子供を使って同を引くタイプの詐欺には騙されてしまうかもしれない、とは思うが……。

それはどれも、確かにごく普通の１５歳の貴族令嬢の失蹤で心配してしかるべき容ではあるのだが、リリアーヌがそんな失敗をするかな、と私は考えてしまう。

失蹤から日にちも経っているし、もう國外も視野にれるべきだという私の案は聞きれられず、アジェット家との合同捜査で認識がかみ合わない事が増えていく。

リリアーヌが傍に置いて、姉の様に信頼していた侍の姿もない。本當にこの出奔の理由に心當たりはないのかと改めて聞いた時に告げられた言葉は、私に予想していなかった衝撃を與えた。

「直接言葉で聞いたわけではないのですけど……外堀を埋めるような婚約について思うところがあったのか、わたくしどもはそのようにじました」

「な……そ、んな……」

「……ご存じの通り、わたくし達は家族全員でリリの事を一番可がって、これでもかとをかけてましたでしょう？　何故このような事になったのか、わたくし共も不思議で……」

家庭に問題はなかったから原因はそれしか考えられないと遠回しに言われてがヒュっと締まるような錯覚をじた。

私が……私が、追い詰めてしまったから、斷る事が出來ずに逃げ出すしか出來なくなってしまったのだろうか。そこまで嫌なら言ってくれれば、と思いかけて「それが出來なかったからこうして逃げたのではないか」と自答する。

既に兄である王太子一家に長男も生まれているし、あの優秀なリリアーヌ嬢ならと私の自由にさせてくれていた國王陛下である父も、失蹤したリリアーヌを探し続ける私にあまり良い顔をしなくなっている。まず行方すら分からないのが一番の理由だが、表向きの理由である「領地での療養」も長引けば周囲がこの婚姻を反対するだろう。自分の娘を私に宛がいたい貴族達が見逃してくれるとは思えない。

が刺されたように痛い。だが、だからこそ捜索の手を緩める事は出來ない。私が追い詰めてしまったせいで家から出奔するしかなかったのなら、それを私が解消しなければならない。もし困っているなら當然助けたい。それとは別に、私はもう同じ真似はしないから、安心してアジェット家に戻ると良いと……ただそれだけを伝えたくて。

私はアジェット家とは別に捜査を始める事にした。何の心當たりもなく、徹頭徹尾、推量でただ広範囲に調べるだけだ。調べる対象は冒険者をメインに、錬金師など様々な分野で展開する。

年齢や外見は隠したり偽ってる可能があるが、「ここ數カ月で突然現れて活躍した者」を調べれば見つかるはず。リリアーヌが生活の糧を得ようとしたら絶対に評価されて有名になっているに違いない、拠はほぼ私の勘だけだったが。

當然だが上がってくる報告は膨大で、學園の勉強に王子教育に、鍛錬も怠れない。しかし自分の使える時間はすべて報告に目を通してリリアーヌの面影を探している。將來の側近になる予定の馴染達も、呆れながらも付き合ってくれている。得難い仲間だな。

これはもしやと思っても「地元の商家の娘」など元が分かっている者は違う。法にれるような事……戸籍の乗っ取りやねつ造を彼は絶対にしない。その歳にしては優秀というレベル……というだけではこれもやはり彼ではないな。

デルールという街にいる、人に満たない金級冒険者の話が目に留まったが、これもすぐにリリアーヌではないと判斷する。書かれていた功績を見るとその年代ならリリアーヌくらいしか出來ないような容なのでもしかしたらと一瞬思ったが、この人はなくとも去年から冒険者として活している。であるなら絶対に違う。

學園の活で使っていた冒険者証は當然使えないから作り直しているだろうから、新人として登録している可能が高い。冒険者で探すなら……金級の昇格最短記録を塗り替えるような、そんな存在だ。

「これは……」

諸外國の報を手當たり次第調べていた私の元に、業界で今注目されている話、としてってきたものだった。

異國で発表された錬金の新技。人工魔石……利用価値の無かったサイズの魔石から、大きな出力の魔石を生み出す技だという。革命がおこる技じゃないか。戦規模の結界を生み出す魔導裝置もこれで人類は活用できるようになるのでは……。

その國で力ある侯爵家が背後についているその発明品は、既に購が３カ月待ちであると、どんなに注目されている発明家が語られている。大昔から魔石を人工的に作り出そうと數多くの魔法使い達が挑戦してきた。それが実現したのか。その技自も大変興味深いが、私が注目したのは開発者について説明されたほんのしの文章だった。登録からまだ數か月の、とても若い錬金師が生み出したのだと書かれている。

しかし知識層向けに刷られているだけのその新聞ではこれ以上の報は得られそうにない。

私はこれを見て半ば確信していた。リリアーヌが失蹤して、そのすぐ後に現れてこんなに大きな発明を世に出す天才が見つかるなんて。こんな天才は滅多にいない、別人だという可能の方が低いとじてしまう。

はやる気持ちを抑えて調べたらこの「リオ」という錬金師が上級錬金師の免許を得たのはこの人工魔石技を発表する數日前だった。

まるでこの「リオ」が、ポーションなど人に使う魔法薬や魔道を作る免狀を持っていないと上の立場の人間が困る、そんな都合があったようではないか。

私はここの所遠ざかりがちになっていたアジェット邸を訪れた。國一の錬金師であるコーネリア卿に、この技について解説してもらいたいという口実で。當然本當の目的は、「この錬金師がリリアーヌではないか」という話についてだが。

錬金師としての師である彼なら、共通する何かを見いだせるんじゃないか。そう期待して。

「これが、リリじゃないか……そう言った？」

「そうです。外國の侯爵家が背後にいるのであまり詳細には調べられませんでしたが、年齢は近いようですし、何より時期が。このリオという名前はこれまでどの錬金工房にも所屬していませんでした。リリアーヌだと考えればつじつまが合います」

散らかってるけど、と通された研究室はその言葉通りの様相だった。過去彼に錬金について指南をけた時から変わらないな、この特徴的な片言の口調も、とのどかな事を考えてしまう。

私が訪問する前から、すでにこの注目の新技について調べていたらしいコーネリア卿は、発明者の錬金師についての調査書にざっと目を通すと顔を上げた。

その目には何のも浮かんでいない。

「偶然の可能が高い。獨り立ちする時、名前を変える錬金師は結構いる」

「……弟子りした時から同じ名前を使う者の方が多いと記憶していますが」

「それに、この技……特許で保護されてる部分は伏せられてるけど。リリには無理、思いつかないと思う。殿下、リリに會いたすぎて、思い込んでない？」

面白くなさそうにぱさりと機の上に投げた書類が空気をはらんでしる。確かにどう発見したのか気になるくらい興味深いが、私はだからこそリリアーヌがやった事ではないかと思ったのだが。

「魔石の製造……私も目を付けてたけど。せっかく作った魔道、使えない環境だと困るから」

「ああ、たしかに。コーネリア卿の魔道は高度な分大きな出力を必要とするものが多い」

「そう。魔の組織の培養から核に魔石を発生させる……うまくいきかけてたけど、でもこんな方法でお手軽に作れちゃうんじゃ無理。対抗できない。面白いから研究は続けるけど商業ラインには……」

その表からは、ひたすら「不愉快だ」と窺えた。既に結構な額を投資していたのでは、とじる。常に表の薄いコーネリア卿にしては珍しく、眉間にしわを寄せている。

「……とにかく、この技がとても素晴らしい発明だという事は分かりました」

「そ。錬金の歴史が変わる。悔しいけど」

期待していたような話の流れにはならなかった事にし考える所はあった。コーネリア卿から無言で「用は済んだ？」と言われてるような気もして、私はそれ以上強く訴えることが出來ずアジェット邸を辭した。

彼に……ニナに見つかる前にここを離れたいという事もあったが。

「殿下、お疲れ様です。何か進展は得られましたか？」

「……私は彼だと思ったんだが。姉であり師であるコーネリア卿からは否定されてしまった」

「おや」

「だが、予定通りゴッツェ大臣の外遊についてリンデメンを訪問する」

「無駄足になるかもしれませんよ」

「錬金師リオはリリアーヌではなかったと分かる。無駄足ではないさ」

殿下は前向きですねぇ、と呆れたように笑う馴染に私も笑みを返す。い時からの付き合いだから彼はリリアーヌとも馴染になる。彼ら側近達リリアーヌが実は失蹤していると知っている數ない存在だ。

だがこのジェラルドにも、他の誰にも。婚約について私が外堀を埋めるように追い詰めてしまったかもしれないという話は、出來ていない。責められるのが怖いのか、「きっと貴方のせいではない」とめの言葉をもらうのが嫌なのか。

私がを引けばいいのだから君が外國に逃げる必要なんてない、と伝えたいのは確かだが。意地がそこにっていないかどうかは、もう自分でも斷言出來なかった。

そして！こちらの

「無自覚な天才は気付かない～あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました～」の２巻の発売が決定しました！！

１巻をお手に取ってくださった読者様のおかげです、ありがとうございます。

絵は引き続き狂zip先生に擔當していただいてます

書き下ろし、今回も頑張って一萬文字以上書いてます

発売日は6/1ですぞ！！予約してくださるととても嬉しい✧＼ ٩( 'ω' )و /／✧

次の更新は予約してますがしばらく書籍化作業と特典書いたりで更新の方はゆっくりになります〜