《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》2

リリアーヌがいなくなったこの狀況が「日常」になりかけている。試験も模擬戦も不戦勝とはあまり気分の良いものではない。競う相手がいない日々がこんなに退屈なものだったとは。

まるで令嬢達はリリアーヌが消えた事を喜ぶように群がってくる。口では心配しているがこの好機を逃さんというあからさまなその溫度差に辟易して、逃げるようにゴッツェ大臣の外遊に同行を決めていた。

王族の義務は理解しているが、彼の無事を確認するまでは考えたくない。猶予はないが、これは陛下にも了承いただいている。

ドーベルニュ公爵家から裏に伝えられた話も、どうけ止めたらいいのか判斷しかねてずっと心の片隅で、嫌なのまま燻っていた。

政治上の立ち位置からあまり深く関わるべきではない相手なのは分かっているが、詳細を聞きたいと思ってしまっている。「リリアーヌはアジェット家で正當に評価されていなかった」など……詳しい話は派閥の伯爵家のサロンでと書かれていたが、これを信じて良いのか。

向こうのいに乗るのは危険だと分かっている、だがアジェット家の者と前と同じ距離で接する事はできなくなっていた。これが狙いなら功していると言える。

リリアーヌが冷遇されていたと、何を拠に言ってるのか。

私も見た、リリアーヌの才能を自慢するアジェット家の面々は皆演技をしていたとでも言うのか。何のために? アジェット家の者はリリアーヌを直接褒めた言葉が一度も無かったと聞いたその意味を考え込む。

でもそれが真実なら悪意があるとしか思えない。なのにリリアーヌの行方を心から心配して見えるのが、あまりにもちぐはぐで、私はそら恐ろしさをじた。

水を與えなかったのは自分なのに、花が枯れてしまったと嘆いているようだ。

いや、私がこうして悪い想像をするだけでは何にもならない。まずは本人に會って話をしないと何も始まらない。「社會勉強として隨行するついで」と言い張るにはいささか寄り道をしすぎに思える道程だが、唐突に思い立ってこの街に旅行に向かうとなんて言い訳よりははるかに自然ではある。

隨行と言いつつ最後の二日でやっと合流する私にゴッツェ大臣は「旅先で羽目をあまり外されなさいませんよう」と意味深な目を向けてきて、心反論したかったがそこはぐっと堪えた。

目的地に近付き國境も越えると「人工魔石」の起こした熱狂が強まっていく。リリアーヌほどスムーズには扱えないが一応は習得している言語なので、通訳は使わずく事にしていたが正解だった。

しかし見れば見る程興味深い技だ。これで、力として使えないような小さな魔石に価値が生まれる。今までは絵のに混ぜる等のごく限られた使い道しかなく、回収する手間に見合わないと捨てられていたに値段が付くのだ。

低所得労働者の多い冒険者の事も大きく変わるだろう。これを発表したのがリリアーヌでなかったとしても、この技を生み出した錬金師に會いに行くのは利益になる。錬金については學園の授業で習った程度にしか知らないジェラルド達も、これがどんなに革命的な技かは理解できるようで今後の魔石の相場について熱心に他の者と議論していた。

今後は大きな力を必要とする魔道、魔導裝置を気にせず使えるようになる。今まではどんなに素晴らしいものを作っても、それをかす魔石が潤沢に手にらない狀況だった。これでは一般に普及させる事は出來ない。

私が関わっている事業でも、人工魔石を積極的に使うと決めている。市場を破壊しないための配慮だと思うが、同じ出力の天然の魔石と価格はそこまで大きく変わらない。現狀輸する事になるため輸送費をれると購する量によっては、という程度だ。

しかし天然の魔石と違って、安定して手できる事が一番大きい。

的な魔石の供給不足が改善されるなら、錬金業界が活発になるだろうと予測して、ジェラルドなどは父親に提案していくつかの工房に投資を行う事にしたそうだ。

リンデメンにると街中が好景気に沸いているのがで理解できる。商人だろう、ここの風土と違った趣の服裝の人間があちこちにいる。冒険者の數も明らかに多い。どんなに小さい魔石も売れるとなれば、ここで稼ぐために人が集うのも當然か。

予想を上回る賑わいに、宿を取る事すら難儀してしまった。格式の高い所も冒険者用達の宿屋もどこも人が溢れていて。冒険者ギルドにも様子を覗きに行ったが、宿からあぶれた冒険者の路上生活が問題になっているらしく、確かに人が多いがそれほどまでに、ととても驚いてしまった。

相場の數倍を払う事によって何とか一部屋確保した個室に3人で集まり、やっとひとごこちついて旅裝を解く。私もそうだが、ジェラルドもバーノンも、風呂もない場所で一晩過ごすのはさすがに初めてだ。しかしこの狀況では部屋が取れただけでも幸運だったな。

リリアーヌ本人かを確かめるために正面から開発者の錬金師について問い合わせた時はこの事業の後ろ盾になっているベタメタール侯爵家の協力な防壁に阻まれて接は出來なかった。

これだけ大きな発明をした技者なのだから、引き抜きを警戒しているのは分かる。だからこそ直接リンデメンに來たのだし、商売をしようと錬金師本人に接したがる者は多いだろう。

正面から調べた時は関係者は皆口が堅かったようだが、この街では「錬金師リオ」は有名な存在らしくし住民に聞き取り調査をしただけで報が手にる。同じことを聞きに來る者が多いのだろう、辟易した顔をする者も多かったが、報提供の謝禮にと報酬を提示すると全員口のりが良くなった。もちろん、そのような者達の話す事なので、報の信憑は確かめて採用するが。

有名人の柄を探るような真似は警戒されてしまった。しかし有力な報も手にった。洩などを気にしてか、件の錬金師の工房などは霞に包まれたように分からなかったのだが、定期的に訪れている孤児院があるらしいのだ。「友人なので開業の祝いを渡したいんだ」と噓でもない事を雑貨店の店員に伝えたら、「記者なんかには教えてないけど……」とに教えてくれたのだ。

の知り合いだと容貌を伝えて証明出來たのも大きいだろう。

ジェラルドの言っていた「やはり々得してますねぇ」という分かったような顔が何となく気になるが、追及は後で行おう。(一応お忍びなので裕福な平民とその従者と言う設定で行している)

待ち伏せとはあまり褒められた行為ではないな、と々疚しくじつつも、私達は孤児院の出りが視認できる位置から時間ごとに場所を変えて簡単な監視を始めた。

「! ……來ました」

バーノンの聲に顔を上げる。遠くて顔はよく見えないが、冒険者の裝いにを包んだ銀髪のが住宅地の方から歩いて來た。獣人の子供と手を繋いで、2人のやや後ろには、リリアーヌの侍だったもいる。

「あっ、ちょ、殿下まっ……」

自分が出奔した理由になっているかもしれないとは思っていたはずなのに、彼が視界にった途端どう聲をかけようか考えていたはずの事が全部飛んで行ってしまった。

後ろから、とっさに分を偽る事も忘れたジェラルドの聲が聞こえるが、それが耳にっていなかった私はのままに彼を呼んでしまった。

「リリアーヌ!」

「あ……」

振り向いた顔は一瞬で蒼白になっていた。私が誰か気付いた侍のロイヤー嬢も表くしている。そこで私はやっと、接するにしても々急に行を起こしすぎたと気付いて心的に立ち止まった。

「……驚かせて済まない。ただ……君が突然姿を消して、心配していたんだ。探してここまで來たのは確かだが、無事な姿を見てつい駆け出してしまった」

「あの……」

「どうか、話をしてしい。私は君の敵ではない。連れ戻しに來た訳じゃないんだ」

獣人の子供の「大丈夫か? 琥珀が追っ払ってやろうか?」という言葉に慌てつつも、何とか対話を試みる。

のかけらもない、的な必死の説得によってなんとかリリアーヌは頷いてくれた。私とリリアーヌを互に見たロイヤー嬢が「お世話になっている孤児院があるので、続きの話はそこでなさいましょう」と提案してそれに従う。

まで白くなるほど顔を悪くしたリリアーヌの、子供とつないでいない方の手を取り溫めるように優しくでると、姉のように手を引いて歩き出した。

「ちょっと、ノルド様先走りすぎですよ」

「すまない、ただ……彼が無事で良かったと……そう思ったら居ても立ってもいられなくて……」

困ったような表のジェラルドとバーノンが追い付くと、私が使っている偽名を口にしながら聲をかけてくる。すっかり忘れていた、先ほどまでいた飲食店の會計を済ませてから來てくれたらしい。

リリアーヌなら大丈夫だとは思っていたけど、もしも、と考えなかった訳ではない。「彼ならどこでも活躍しているはず」とは、「どこかの地でも康寧(こうねい)あってくれ」という願いに他ならない。

大きくなりそうな不安を必死で抑えつけていたのに自分でも気付かなかった。話してしかったと悔しく思ったりもしたが、こうして顔が見られて安堵が一番大きい。けなくも涙が浮かびそうになる。

必死で深く呼吸を繰り返してを落ち著かせようとしている私を、リリアーヌの手を引くロイヤー嬢が時折振り返って窺っている気配はじていたが、それを気にする余裕はなかった。

「あの……ライノルド……様はどうしてこちらに」

孤児院の一室を借りて向かい合って座った私達の間に落ちた沈黙を破るように、まだ顔の悪いリリアーヌがか細い聲で尋ねる。

お忍びだと察しているらしいリリアーヌは悩んだ末にそう呼んだ。初めて殿下ではなく、私の名前を。だがそれは思い描いていたような嬉しい狀況では無かった。

話しづらい容もあるだろうからとジェラルドとバーノンには席を外してもらったが、彼の橫にはリリアーヌのを案じるロイヤー嬢が座っている。

ちなみにリリアーヌと手を繋いでいた、獣人の子供……琥珀嬢は授業があるからとここのシスターに連れていかれた。どのような経緯でリリアーヌが保護者のような事をしているかも気になるが、今は彼の話を真っ先に聞かねば。

「もちろん。突然姿を消したリリアーヌを案じて……君を探しに來たんだ。だ、だが先ほど言ったように連れ戻そうと思ったわけではないんだ、ただ話を……聞かせてしくて」

「話……?」

「リリアーヌ……君が、私との婚約に悩んでいたとご家族から話を聞いたんだ。君が出奔をした原因だと……」

「……え、何の話ですか?」

「追い詰めるような真似をした私が何をと思うだろう。けどもうこのような真似はしないから、安心して戻って來てしいと伝えたくて……」

「待ってください。私と殿下が婚約……? それに私のこの家出で関係各所にご迷をかけて大変申し訳ないと思っていますが、出奔に至った理由に殿下は全く関係ありません。一何の話をされているのですか……?」

本気で困しているらしいリリアーヌに、私も困してしまう。ロイヤー嬢の顔を見るとこちらも同じ様子で、私の認識と大分差異があるらしい事だけ理解した。とりあえずこのような時は、質問合戦になるのが一番不だ。

「君も々聞きたいことがあるだろうが、まず認識のり合わせが必要だと私は思う。まずこちらから見えている事と、これまでの話をするからリリアーヌの方の事も教えてしい」

「……かしこまりました」

私は簡潔に、なるべく冗長にならないようにリリアーヌが姿を消してから今までの行を話していく。リリアーヌの失蹤はされ、領地で療養している事になっている事。アジェット家と共に捜索していたが、方針が合わず自分はそれとは別に行方を探してここに辿り著いた事を。

「何故私がここにいると分かったのですか?」

「君ならどこに行っても、隠し切れない活躍をして人の口に上ると思って各地の報を集めていたんだ。人工魔石は開発者についてほとんど報が無かったのだが『ここ數カ月のうちに現れた』と聞いて、この人はリリアーヌではないかと疑ったんだ」

「それはほぼ……賭け、なのでは?」

「ああ、勝って良かった」

代して今度はリリアーヌの事を聞かせてもらう。しかし聞いている最中にどうにも怒りが湧いて、何度も遮ってしまいそうになった。私が提案した事なので口をつぐんでいたが。それにしても、信じられない。アジェット家の者は……あの人達は、本當にリリアーヌを一度も褒めた事がなかったのか?!

まさかあの話が真実だとは。その理由もくだらない。ロイヤー嬢が聞いていた話だと「他の家族が褒めてばかりだから慢心してはいけないと思って忠言を告げていた」という、リリアーヌの事を一切考えていない酷いものだった。

どの分野においても橫に並ぶものがいないくらいの才能を持っているのに、アジェット家の者はリリアーヌの何が不満だったんだ?

狩猟會での本來の加害者も。ルール違反をして死ぬ所だった所を救ってもらっていながら、その相手に汚名をりつけた人を思い浮かべて瞼の裏が真っ赤になる程怒りをじてしまう。こんな事をしておいて、どの顔で淺ましくも被害者ぶっていたのか。

「殿下は……信じてくださるのですか?」

當然だろう、と伝えるとリリアーヌの瞳に涙が浮かんだ。彼の泣き顔を見るなんて初めてで、ポロリと落ちた雫が寶石みたいに綺麗で、見惚れてしまう。自分の頬の熱さを自覚するほど火照りをじた。

「認めてもらえなかった事もそうですけど……私がそんな事をすると思われていたのが悲しくて……」

「そうだな……君はそんなくだらない真似はしないと思う」

「でも。こんな事をしては周りに迷がかかる、という申し訳なさよりも自分のを優先して飛び出してしまいました。……殿下も、こうしてご足労頂いて、ご迷おかけしました」

「いや、私は君の行を責めようとは思ってはいない。その……心配はしたけど、君が健勝なら、良かった」

「ところでライノルド様……最初にお話ししていた婚約とは何のお話でしょうか? 私が行方不明になっている間にそのような話が……?」

「え? いや私が橫に立てるようになったらと考えていただけで……違う何でもないから気にしないでくれ。そのような事実はない」

先ほどの涙の衝撃が冷めやらぬまま話が進んで、々余計な事まで喋ってしまった。「はぁ……」と分かってなさそうな顔をしているリリアーヌに安堵したものの、ロイヤー嬢は私に生ぬるい目を向けてきている。

「お嬢様に張り合っていたのはそう言う……」

まだ認知されていないかもしれないというわずかな希も打ち砕かれ、彼に察されてしまったのを知る。頭を抱えてび出したいようなが腹の中で暴れた。

「失禮いたしました。とんだ不敬を」

「いやいい、ここにはリリアーヌの行方を案じた馴染として、いち個人で來ている」

幸い本人には伝わっていない。リリアーヌが鈍くて良かったと心息を吐きつつ、無理矢理咳払いをしてごまかしてから話を進めた。

「リリアーヌ……いや今はリアナか。君がむならアジェット家には伝えない。けど彼……ニナについては償うべき罪がある。彼は指示を聞かず、そのせいで人に怪我をさせて、自分の罪を軽くするために噓を吐いた。その罪と正しく向き合わなければならない」

「それは……たしかにそう、思いますけど……」

これはさすがに「知らなかった」「そこまで考えてなかった」で減刑出來る事ではない。リリアーヌの時は運が良かっただけで、また同じような事が起きた場合は死人が出るかもしれない。

將來有だと期待されている魔法使いでも、だ。個人のとしては許せないが、リリアーヌは私刑はまないだろう。なるべく私らないように対処しなければ。

「この筋書きを考えたと思われるアマド教諭にも改めて喚問を行うつもりだ」

「そうですね……放置してはまた彼の研究のために、偽りを吹き込まれて無茶をさせられる生徒が出てしまいます」

本當に不安そうに呟いたその様子にハッと気付かされる。……君はこんな時にも、他人の事を心配してしまうのか。敵わないな。

「……ライノルド様、どうなさいました?」

「いいや、ちょっと別の事を思い浮かべてしまって。……とりあえず、この件の真実を明らかにしないとならない。私は早急に國に戻ろうと思う」

私の側近と連絡を取るために使っていた、國境も超えて連絡が可能な遠距離共振を片方、押し付けるように渡すと大層恐させてしまった。申し訳なさそうな顔をさせるのは気が引けるが、冒険者ギルドやこの國の領主の館にある通信魔道をそのたびに使う訳にはいかないから。

せめて気に負わないように「正は伏せておくから私の事業と人工魔石を取引してくれればそれでいい」と引き換え條件を伝えておく。

文字しか報のやり取りが出來ない上に、やり取りできるのは対として作られたものだけ。作るのには雙子の魔という貴重な存在の魔石や素材が必要なのだが、そういった欠點を全て塗りつぶす利點がある、とても高価な魔道だ。

通信機と違って、これには距離が関係ないし、傍されるおそれも限りなくゼロに近い。

「一応の確認だが、これの使い方は知ってるな?」

「はい。問題ありません」

きちんと共振(リンク)しているか二つを並べて、リリアーヌ……リアナが錬金師としての目で確認をしている。ごく一般的な板の形をした共振の片方に専用の石筆で書いた文字が、ほぼ同時にもう片方の畫面上に浮かび上がった。共振(リンク)にタイムラグがほとんど無い、リリアーヌがしている。

その楽しそうな橫顔は私が知っているリリアーヌで、何故かそれだけなのにが苦しくなった。

「何か……些細な事でもいいから、何かあったらこれで連絡してくれ。私も伝えるから」

「……はい、わかりました」

周りに緒にして連絡を取り合うなんて、まるで憧れていた人同士のやり取りみたいだ。生憎と、全く楽しい狀況ではないのだが、と私は自嘲するように口の端に笑みを浮かべて部屋を出た。

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