《【書籍化・コミカライズ】無自覚な天才は気付かない~あらゆる分野で努力しても家族が全く褒めてくれないので、家出して冒険者になりました~》冒険者業の引き継ぎ

魔力作を補助する魔道は人數分作れた。人工魔石の大量製造について無事目処が立ったところで今日は冒険者ギルドから依頼された仕事だ。

実は人工魔石の事業だけで十分ベタメタール子爵家とその本家にあたるベタメタール侯爵家の後援はけられたので、冒険者についてはもう無期休業するつもりでいたのだが。ジュエルバードを始めとして、私がたまたま上手い採取方法を思いついたいくつかの品目について、冒険者ギルドと錬金師ギルドから採取方法を買い上げて公開させてしいと頼まれたのだ。

匿しても自分はもう冒険者として活する時間があまり取れそうにないし、ちょうど良いので採取方法を買い上げてもらおう、と私は快諾した。

そのため今日は、冒険者ギルドの職員と、その職員さんの指定で採取方法を學ばせたいと參加してくれた冒険者達を前にしてギルドの一室に講師役として立っている。こうして大勢を前に講義の真似のような事をするのは初めてなので、張してしまう。學園や、家族のお弟子さん達數人に教えた経験はあるけど。

私が公開する全ての技は冒険者ギルドで職員さんが技書としてまとめて、後日希した人全てに公開される予定になっている。競合しないように稼ぎ道をばらけさせた方がトラブルにならないものね。

このリンデメンの街の周辺では「粘著を使った罠でジュエルバードを捕まえれば運さえ良ければ楽して儲かる」と大勢があちこちに大量のトリモチを仕掛けたせいで結構問題が起きていたようだったから。獲の橫取りに始まり、林業の方とのトラブル、他の小鳥を含めた無関係の小達がその罠にかかって結構な數が死んでしまい若干生態系に影響も出てしまっていたり……等々。領主のご子息が患っている病気の治療に必要な薬の材料だが、冒険者ギルドとしても改善しなければ、とは思っていたらしい。

こうして、ジュエルバードを含めた割りの良い獲を確実に仕留める方法が公開されれば解決するだろう。

「それでは……私が納品していた數種類の品目について、採取に使っていた方法をお伝えしたいと思います」

初心者向けの簡単な知識講習や、違反者への教育で使われる講義に使われている冒険者ギルドの一室。黒板の前に立った私は白墨を手にぺこりとお辭儀をした。「私の狩の知識は家族に習ったもので、一般的な知識と違うところも多いと思いますので、何かあったら遠慮なく聞いてください」と一言足してから話を始める。

「まずは彼らが好む花を探します。この時期のリンデメン周辺ではウィステリアの花のが多分一番彼らに好まれると思います」

私は黒板にウィステリアの花の絵を描く。葉っぱの形や花弁のなども描き込んで、森の中ですぐ探し出せるように。他にも、今の季節以外で咲く、ジュエルバードが好む花とその特徴についても描いておく。生徒役として私の話を聞いている冒険者達が、「絵がうまいな」「分かりやすい」と囁く聲が聞こえてちょっと照れてしまった。

書を作るために同席している冒険者ギルドの職員、ゲントさんが「技書を作る時にリアナちゃんに挿絵を頼んだ方がいいなぁ」とも獨り言として呟いていて、ささやかな事だがやはり褒められて嬉しいようなし恥ずかしいような気持ちで浮き立ってしまう。

私は「嬉しいからと気がそぞろになったりしていませんよ」という顔で、話を続けた。

「これらの花を、ジュエルバードの縄張りの付近で探してください。縄張りの中の水場で水浴びをして、羽が落ちているはずなので……ジュエルバードの縄張り周辺の花、そこで初級魔法を使って捕らえます」

「そんな方法が……もしかして、そもそもトリモチの罠も、水場に落ちてる羽を探して縄張り近くに仕掛けた方が良かったのかな?」

「そう……ですね」

知らなかった、さすが狩人のお孫さんだ、と口々に言う彼らの聲を背に、私は驚いていた。あの森にいる、という漠然とした報だけで適當に罠を仕掛けていたと聞こえる。狙っている獲、この場合はジュエルバードを狙う方法を知らずにそれをやっていたなんて、びっくりしてしまった。

このくらいは鳥、または鳥型の魔を狙う時には持っていて當然の知識だと思っていたのに。私はウィルフレッドお兄様に、狩猟と魔討伐について基本的な技は叩き込まれたけど……もしかしてこのくらいの事も、普通は専門に勉強しないと教えてもらえない事なのだろうか。

だとしたら、私は教師にはとっても恵まれていていたんだなぁと改めて謝する。私が當たり前だと思って使っていた知識は、専門の教育をけていないと利用できないものだったんだ。

森の中で、や魔が利用する水場の探し方も合わせて教えてから本題に戻る。

「後は、水場に落ちている羽に殘っている魔力殘滓から縄張りかどうかをより確実に判斷できますね」

「……まりょくざんし?」

「はい、ご存知の通りジュエルバードは風屬の固有魔法を使って、人の目で捉えるのが困難なほど高速で飛ぶ魔ですから……水場にあった羽の魔力殘滓を見れば、縄張りにしている個がいるかどうか、頻繁に使っている水場かどうかも分かりますよね?」

同意を求めて振り返り、皆さんの顔をぐるりと見回した私の問いに、返事をしてくれる人はなぜかいなかった。

「……リアナちゃん。魔が殘した魔力をそこまで細かくじ取れるなんて、斥候の専門職か、一流の魔法使いでもどれだけいるか……」

「え? そうなんですか? ご、ごめんなさい……えっと……私の師匠からは、狩で必要な技だと教え込まれたのでてっきり……」

書を作るために一緒に話を聞いているギルド職員から指摘された私は、慌てずに軌道修正を図る。職人などの技職は、一子相伝で特殊な知識を殘したりするので、これについては問題なく「この子の師がそういう狩人だったんだろう」で流してもらえた。

危なかった。危うくまた必要以上に目立ってしまうところだったわ。

とりあえず、私の過去について深く聞かれる前に話題を変えてしまわなければ。

「それでですね……ジュエルバードを捕獲する方法なのですが。私は風の初級魔法を使っています。風を吹かせる……というやつですね」

「えっ、初級魔法で?! 初級の風魔法ならうちのパーティーでも半分は使えるぞ」

「使い方一つでジュエルバードもどうにかできるのか……」

「でも魔力に敏な魔だから普通に使おうとしたら察知してすぐ逃げられちまうよな?」

「もう、その方法をこれから教えてくれるんでしょう、聞いてなさいよ」

興味津々、といった様子の皆さんに、「変なところを突っ込まれずに済んだ」とホッとしながら話を続けた。

「この初級魔法をですね……あらかじめ起一歩手前で展開しておいて、ジュエルバードが花にを吸いにくるのを待ち構えて、花の周りを真空にして捕らえるんです」

……?

私は思っていたような反応がなくて、思わず首を傾げてしまった。ここでてっきり、「そうかその手があったか」「その発想はなかった」みたいな聲が返ってくると思ったんだけど……?

「あの……ジュエルバードは魔力にとても敏な魔ですけど、あらかじめ魔法を展開させて待ち構えていると、警戒心なく近づいてくるんでちゃんと捕まえられるんですよ? じっとしてると木や巖と間違えるのかが寄ってきたりしますよね、それと一緒で……」

説明の手応えのなさに不安になって説明を追加するも、反応はない。不安になった私がギルド職員のゲントさんの方を見ると、困ったような顔をしているだけだった。何故……。

「リアナちゃん……そこじゃなくてね。普通の人はね、初級魔法で真空を作ったりなんてできないんだよ。初級とはいえ魔法を発直前で、離れた狀態で長時間維持するのもかなり難しいし」

「……えっ?!」

「そもそも真空、ってものを知ってるやつが冒険者にどれだけいるか……俺は実家が金屋だから、保冷用の瓶なんかが二重構造でそうなってるのを知ってるけど……」

ゲントさんが確認するように周りの人たちの顔を見渡す。それに同意するように、「言ってることがわからない」「しんくうってやつがそもそも何なのか知らない」という反応が返ってきてしまい。

まったく想定外の狀況に、私は何を言うべきか、どうするべきかも思い付かずにしばらく固まっていたのだった。

「申し訳ありません……なんか……全然お役に立てなくて……」

ジュエルバードの捕獲方法など、今日伝える容については冒険者ギルド側に報共有はしていたのだ。しかし「初級の風魔法を使う、使い方に工夫がある」くらいの簡単なさわりしか伝えていないうちに「じゃあそれを引き継ぎたいって人達に教えてやってくれないか」と話が進んでしまったせいで、ギルド側と私に齟齬が起きてしまっていた。これは完全に、他の人達もできると楽天的に考えすぎていた私のせいである。

他のものについても、私以外の人には再現が難しいと言われてしまい……張り切って教師役をするつもりだっただけにに埋まりたいほどの恥ずかしさに悶える羽目になっていた。他の人が退室した部屋の中で、思わず顔を覆ってしまう。

「いやぁ、森の中で水場を探す方法とか、この辺りで採れる買取価格の高い魔や植について、生息地をどうやって見付けるかとかは俺でも勉強になったから……全然、そんな事ないって」

私を気遣ってくれているのだろう、でも今はゲントさんの優しさがつらい。唯一の救いは、「私が教える容が実際に使えるものか分からないので、報提供料については終わった後に相談して決めていただいて良いですか」と話していた事だろう。そうじゃなかったら居た堪れなくて、いただいた報酬をお返ししてるところだった。

人工魔石で、私では萬人が使える製造方法を用意できなかったという反省があった。もしかしたらまた似たような事をしでかしてしまうのでは、と警戒していたのが役に立ってしまうなんて。嬉しくない予想的中だ。

「いや〜、リアナちゃんがそれだけ、難しい技を何の気なしに使えてた天才ってだけだよ。せっかく教えてくれたのに誰も習得できなかったみたいでむしろ悪かったね」

「いえ……ほんと私、常識知らずで……ご迷かけてばかりで恥ずかしいです」

「冒険者り立ての連中でも、まともに稼げるようなとんでもない発明をしたってのに……それでギルドもみーんな助かってるんだから、気になんてしなくて良いって」

「それとこれとは別の話ですから……とりあえず、今日はたくさんフォローしていただいてありがとうございました」

改めて、お禮にとしっかり頭を下げる。心謝罪の気持ちも込めて。

お騒がせして手間を取らせただけでほとんど何もできなかった、申し訳ない……! と罪悪に追われた私は、それを誤魔化すように人工魔石の材料にしているクズ魔石の買取依頼をいつもより多めに頼んで冒険者ギルドを後にしたのだった。

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