「案の定だな」

それはそれは愉快そうに、旦那様が屆いた手紙を見せびらかせるように、指に挾んでひらひらさせた。

「クロード様、完全に悪役面ですねぇ」

「あら、クロード様は常に悪役面ですわよ？」

旦那様をここまでこき下ろせるのは、世界広しとはいえ數ない。そんな數ない二人――ミシェルとロザリモンド嬢は、悪びれもなく、あははうふふと笑っていた。

でも、その意見は同意したいわぁ！

人を苦しめることに至高の楽しみを見い出しているような旦那様。

この顔に、わたしも一何度苦労させられたことか。

「さて、さすがに會わなければならないが、リーシャ、君はどうする？」

「もちろん、同席するのが筋ですよねぇ。リーシャ様？」

わたしが答えるより先に、目を輝かせてミシェルが答えた。

それ、わたしが決める事なんですけど？

でも、ミシェルの言った通り、わたしも同席するのが當然だ。

なにせ、手紙の相手はわたしの実家、ベルディゴ伯爵家なのだから。そして、その話が一何なのかはよくよく理解している。

ちなみに、ミシェルが首を突っ込んできているのは、わたしが話し合いに參加しなければ自分も參加できないからに違いない。

こんな楽しそうな催しに參加しない手はないと全で語っている。

「あら、それわたくしも同席したいですわ。ミシェルばかりずるいですね」

「僕はリーシャ様付の騎士ですからねぇ！」

今からでも外れてくれていいですけど？　と言いたい。

當事者になると楽しめないけど、人様の家の事というのは、不幸な事になればなるほど社界で好まれる話題となる。

人の不幸はの味とはよく言ったものだ。

つまり、ミシェルは人の不幸というに群がる蟲の一匹。ロザリモンド嬢の方は、不幸を楽しむというよりは、純粋にわたしの実家に興味があるらしい。

どうして興味があるのか聞いたところ、友人が困っているのなら、その原因を知りたいと思うのは當然ではないかと言われた。

そこで、あれ、友人だったの？　と思ったのはご。

ロザリモンド嬢との関係は曖昧だ。

旦那様と結婚して、姻戚関係から親族となったけど、友人と言うには、ちょっと違う気もする。

口に出してお友達になりましょう！　と宣言した記憶もないし。

でも、向こうから友人と言われてちょっと嬉しかったりする。

わたしってお友達がないしね！

――なんか、言っててちょっと悲しくなった。

ちなみにロザリモンド嬢は、この數日の間でよくお調べになっておりましたよ。むしろ、現狀に関してはわたしより詳しくて、ちょっと參考になりました。

「ロザリモンド様、それなら侍に変裝すればいいんですよ！　リーシャ様付の侍なら同席してもおかしくありません」

「それはいい案ですけど……わたくし、侍としてのスキルはありませんわ」

「そこは、位の下の侍という設定で――」

ミシェル、悪だくみは得意だね。

ロザリモンド嬢もなるほどと納得顔。そこは、納得しないでほしいんだけど。

「では、わたくしはリーシャ様の後ろで小間使い的な役割の侍という事で……」

なぜか、勝手に々決められていく。

當事者わたしなんだけどね？

「ミシェル、ほどほどにしろ」

「大丈夫です！　僕たちはただの傍観者に徹します！」

ただの傍観者ね？ 傍観者で終わってくれればいいですけどね？

「リーシャ、気が乗らなければ參加しなくても構わないが？」

「いえ、もともとわたしの実家に関する事ですから。むしろ、旦那様を巻き込みましたし、恨み言くらいはわたしが聞かなければと思います」

「実際に手を下したのは私だ」

「それは、わたしのみを葉える手段として行使したからですよね？　わたしが面倒なことを言わなければ、旦那様はベルディゴ伯爵家に恨まれるような手段はとらなかったと思いますけど？」

強引な手段だったと思う。

むしろ、よくそんな手が使えたなと思うけど、あらゆる場所にコネを持つリンドベルド公爵家だからできた事なのだと実した。

たかが伯爵家をどうにかすることなど、容易な事なんだとし怖くなる。

リンドベルド公爵家を敵に回したくないと、多くの貴族が考えている力の一端を見た。

「一応言っておくが、前例がないわけでもない。確かに々(・・)強引だったのはあるが、最終的に私の提案をけた方がいいと判斷したのは、皇帝陛下だ」

「というか、皇帝陛下かせるって、相當すごいですよね？　普通に考えて」

ミシェルがしみじみと言う。

「今回の件に力を貸してくれれば、前回の件は不問にすると言えば、全く問題なく通ったな」

「ええ？　僕すっごい頑張ったのに！？　せっかく皇殿下排除したのに！？」

ミシェルのびをふん、と鼻息一つで旦那様が流すと、ミシェルが頭を抱えた。

「ひどいですよぉ！　風通しが良くなっちゃった方が健全でしょう？　リーシャ様が助かるでしょう！？」

「一何のことでしょうか？」

頭を抱えて嘆くミシェルが、きながら簡単にロザリモンド嬢に説明する。

それを聞いたロザリモンド嬢が心したように頷く。

「まあ、それでは皇族――むしろ皇帝陛下に貸しがあったという事ですか。それを今回、リーシャ様のために使ったと。まあまあまあ、素敵ですわ！」

「ロザリモンド様？　僕の苦労に対して何かありませんか？」

「いえ、特に？　最終的にその件を治めたのがクロード様なら、クロード様の手柄でしょう？　でも、その手柄を妻のために使うなんて、今までのクロード様からは考えられませんわ」

含みある笑いでわたしに微笑みかけるロザリモンド嬢に、ふいと視線を逸らせた。そして、話を戻すように、ごほんと咳ばらいを一つした。

「それで、いついらっしゃるのですか？」

「三日後だ。すぐにでも押しかけたい気持ちはあるだろうが、さすがにそれは私に対して非禮にあたる。まだ、理が殘されていてよかったな」

どちらにしても、三日後はきっと壯絶な爭いが巻き起こるんだろうなと遠い目になる。

いや、もしかしたら、ばっさりと旦那様に切られて終わりかも？

「正義はこちらにあるのだから、向こうが何を言ってきても問題ない」

正義という顔じゃありませんよ、旦那様……。

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