「やあ、初めましてだね。アンドレ・リンドベルドだ。そっちの総括執事も初めましてだね。ロックデルの事は殘念だけど、ぜひ今後もクロードをよろしく頼むよ！」

初めて會う旦那様のお父様――アンドレ・リンドベルドさまは、深紅の髪に旦那様よりし明るい赤い瞳を持つ、なんというか……気な人だった。

そして、やはり親子。

旦那様にそっくり、いや違うか。旦那様がお父様に似てるのか。

顔の形は似てるのに、印象が全然違うのは、アンドレ様が常に人好きしそうな笑みを浮かべているからだ。

「はじめまして、リーシャと申します」

第一印象は大事に。

あいさつもなく結婚した負い目のあるわたしは、しっかりと頭を下げてあいさつする。

すごく見られている、そうじた。

「いやー、君がクロードの結婚相手か！　噂を信じちゃだめだなぁ」

「は、はぁ……」

手をグッと握りしめられ、そのままを寄せられ、おもわずのけ反った。

なんとも距離の近い人だ。

というか、旦那様と格違いすぎない？

「そんなに張しないでね。私は別に息子の結婚を反対しに來たわけじゃないんだから。しだけ、式に呼んでくれてもよくない？　とは思ったけど」

笑顔全開で言われると嫌味なのか本心なのか判斷がつきにくい。

こっちのり付けたような笑みがはがれそうだ。

口元が引きつっていない事を祈ってます。

「その、申し訳ございません」

「謝らなくてもいいよ。どうせクロードの発案だろうし。私は心底息子に嫌われているからねぇ。來てもきっと能面をりつかせて冷たい目であしらわれるのが落ちさ」

なんだかし分かる気がする。

冷たく鋭い言葉で淡々と罵倒しそうだ。

「でも本當に人だね。君は母上似だ。よかったね、父上に似なくて」

「両親をご存じで？」

「知っているとも、當時はなんで二人が結婚したのかすごく謎だったから。本當にと野獣とでも言うのかなぁ？　私がもうし若ければ、もしかしたら私が君のお父様になっていたかもね！」

いや、その場合わたしは生まれていない気が……突っ込むのはそこじゃないか。

「あ、でももうお父様か。義理だけど。私は娘もしかったんだけど、妻が難産でね。一人息子が生まれたから、これ以上は無理しない方がいいかと思ってあきらめたんだ。あ、言っておくよ？　私は確かに好きだけど、妻がいるうちは手を出していないからね！」

好きだけど、奧様が生前中は浮気はしていないと。

その辺は分別あるようでなにより。

いや、自分で好きとか言っちゃうほうが問題かも？

いやいや、でもほらこの人今一応獨だし……。

いやいやいや、でもエリーゼ問題もあったし……。

目の前の人をどう判斷していいのか迷う。非常に。

「でも、クロードは本當に面食いだったんだね。そこは私に似たのかな？　皇殿下も人だけど、なんというか意地の悪さが顔つきにも出て、ちょっと娘にしたくないなとは思ったんだけど……。こんなに人で可い子が娘になったんだから、よくやった！　って言いたいよ」

「あ、ありがとうございます……」

勢いと圧がミシェルと同類だ。むしろおしゃべりだった。

気なおしゃべりは好きだ。友人として付き合うのはいいけど、義理の父親として付き合うのはしやりにくい。

「ところで、クロードはどう？」

「どうとは？」

「淡白そうな顔してるけど、結構激しかったりする？」

いや、これなんて答えたらいいんだろうね？

場が靜まり返っていますよ……。

「ほら、特定のとかいなかったし、そもそも興味なさそうだったし。父親としてはちょっと男として機能してるのかなって心配になるんだよ。跡継ぎの問題もあるし」

普通、こういうデリケートな問題を聞くのはだ。特に嫁ぎ先のお義母様。

男側が立ちったことを聞くことはない。

もしかして、旦那様のお義母様がいないからその役割をと思って聞いてるのなら、むしろ聞かないでそっとしておいてほしい。

一、わたしになんと答えてほしいのか。

「人だし、つきだって悪くない。毎晩楽しんでいるのかなぁってさ」

え、これっていじめの一種かな？　完全に的待(セクハラ)じゃないの？

跡継ぎ問題を心配している気持ちは本當だろうけど、に尋ねることじゃない。

「小父様、それは完全に問題発言です。クロード様に知れたら、お小遣いが無くなりますよ」

割ってってくれたのは、このなかで唯一のご親族ロザリモンド嬢。

素敵！

「え、これくらいの嫁との會話、普通じゃない？」

「わたくしは、嫁ぎ先の舅と閨について語り合いたいとは思いません」

きっぱりと拒絶するロザリモンド嬢に、アンドレ様が心したようにわたしの耳元で囁いた。

「すごいね、ロザリモンドを飼いならすなんて」

わたしは猛獣使いか何かでしょうか……。

アンドレ様がにこりと微笑みようやく手を離した。

「自制心は大事だけど、怒りたいくらい嫌な発言には腹を立ててもいいんだよ？　リンドベルド公爵夫人はそれをやっても問題にならないんだから」

一瞬、旦那様と重なって見えた。

わたしを試していたのだ。どこまでの発言で怒りをみせるのか、どれほど自制心があるのか。

この家門、どうして何も言わずに人を試すんでしょうね？

公爵家は敵が多い。隙を見せないように笑顔で武裝するのは當然だけど、限界まで我慢する必要はない、それがアンドレ様からの言葉だった。

なるほど……。我慢するだけのいい子じゃだめってことですか。

「ところで、ちょっと出かける準備してね」

「はい？」

「いやー、これからちょっと隣國のお祭りに一緒に行こうっておいさ！　バッシュール王國の羊祭はなかなか楽しいよ」

バッシュール王國の羊祭とは、皇殿下の代わりに公務で訪れることになっていた國だけど、ヴァンクーリが現在なぜかこっちの國に――というよりも旦那様の領地にやってきているので中止になるのではないかと思われていた祭りだ。

実は、この國ではヴァンクーリのが最も有名だけど、元は羊で産業がり立っている、羊の生産國とも言えた。そのため、二年に一度のヴァンクーリの刈り時期に合わせて羊祭というものが開催される。

実は先日、結局開催されることになったと聞かされ、なくなったと思った公務が復活したのでちょっとげんなりした。

「あの、夫の許可なく勝手なことはできないんですけど……」

「ああ、大丈夫大丈夫！　私のせいにしていいから。聞いたんだけど、公務で行くんでしょう？　國賓として招かれて正式に國したら、外で遊べないからね。一足先に行って、ちょっと観しても罰は當たらないよ！」

罰が當たるとか當たらないとかそれ以前の問題なんですけど！

ちょっと！　誰かこの人止めて！

「突然の事で、準備が――」

「もう手配してるから問題ないよ。足りないものがあれば買えばいいし。お義父様が買ってあげよう！」

ええー？

何から何まで仕込み済みって……。

「あ、クロードは皇太子殿下のお相手があるからしばらく帰ってこれないと思うよ。お義父様とデートしようね？」

にこにこ笑うアンドレ様は、さぁ行こう！　とわたしの肩をがっしりと摑んで強引にを押し出した。

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