《【書籍化・コミカライズ】三食晝寢付き生活を約束してください、公爵様》3.悪い方ではない評価
誰にも止められない、前公爵閣下――アンドレ様。
その勢いに乗せられ――たわけではないけど、現在わたしとミシェル、それにロザリモンド嬢は馬車の中にいた。
わたしは、ミシェルをじっと見て、確信した。
「……ミシェルと同類よね?」
「え、僕あそこまで強引じゃありませんけど?」
ミシェルは心外そうに即座に否定してきた。
そうかな? いや、絶対同類だと思う。
初めて會った義理の父親であるアンドレ様は、同じく初めて會ったはずの嫁にも慣れ慣れしく――いや、好意的? だった。
このじ、まさにミシェルの強引さを思い出す。
しかし、ミシェルは確かに強引だし楽しい事大好きだけど、人様拉致ることまでは多分やらない……。
やらないよね?
王都から隣國までは、馬車で一日程で國境を超える。
その前にリンドベルド公爵領を突っ切ることになるんだけど、どうやらそこで休憩はしないらしい。
アンドレ様はとにかくすぐにでも國境を越えたいようだった。
なんでもぐずぐずしてたら旦那様が追いつくかもしれないと。
「來ますかねぇ、クロード様は」
「來ると思いますわよ、リーシャ様の事が大事なんですから」
現在馬車の中にはわたしを含めて護衛のミシェルとなぜかわたしの世話係に手を挙げたロザリモンド嬢が同乗中。
アンドレ様は、別の馬車に乗っている。
一応四人掛けだけど、そうなるとミシェル一人で何かあったら中の要人三人を守らなくてはいけないので、ご遠慮いただいた。
アンドレ様にも當然のごとく護衛がついているので、その人と一緒に馬車に乗ってもらうことにした。
初対面であの気さ全開の相手は疲れるのだ。
しかも、相できない相手だし。
つまらなそうにしているわけにもいかないしね。
「リーシャ様、わたくし今回行く隣國に留學経験がありますの。しは役に立つと思いますわ」
「ええと……頼りにしてますね?」
全く信用できないけど。
旦那様がいないところで、ロザリモンド嬢の手綱を握れる自信ないので、とりあえずぜひ大人しくしていてほしいところだ。
さすがに、他國で突飛なマネはしないと信じたい。
アンドレ様はわたしがロザリモンド嬢の手綱を握っていると言っていたけど、違うと思う。
わたしとは友達だ。
ただし、自分で言うのもなんだけど、ロザリモンド嬢には懐かれているとは思う。
嫌われているよりはいいけど。
「ところで、アンドレ様は一何が目的だと思いますか?」
「さすがに何かあるわよね?」
「むしろ疑わない理由はないでしょう?」
わたしとミシェルの間では、絶対なにか裏がある――そういう認識だ。
そもそも、旦那様が留守の間に狙ってきている時點で何かあると疑わない方がおかしい。
「ロザリモンド様はどうお考えですか?」
ミシェルが親族のロザリモンド嬢に問う。
この三人の中では、唯一ロザリモンド嬢だけがアンドレ様の事を知っているからこその質問だ。
有益な答えが返ってこなくても、參考にはなる。
「わたくし、アンドレ様とお會いすることがほとんどなかったので、あの方が何を考えているのはよくわかりません。あまりいい話は聞きませんが、そこまで悪い方だとも思えませんし」
「いい話を聞かないのに悪い方ではないという拠は?」
「クロード様が當主就任するときに、多苦労する程度で済んだからでしょうか?」
多(・・)苦労する程度ね……。はたしてそれが事実かどうかはちょっと首を捻りたい。
わたしが嫁いできたときは書類に埋もれそうなほど忙しそうだったし、どう考えても結構な量の當主の仕事放棄してたとしか思えないんですけど?
まあ、その一端は総括執事だった人のせいでもあったんだけどね。
信用できないから全部自分で仕事を抱え込んでいて、そのせいで仕事がたくさんあった。
今は、ラグナートとかに仕事を振ってるし、家政に関しては多わたしもやってるから負擔はだいぶ減っているはず。
アンドレ様は、仕事をあまりしていないというのは聞いていたけど、勝手に結婚したのに、文句も言わず嫁であるわたしを歓迎? してくれているようだったので、第一印象は悪くない。
結婚當初の問題のせいで、ちょっと思うところがありまくりですけどね。
「ちなみに、ロザリモンド様の言う苦労することになったというのはどういう意味でしょう?」
ミシェルがロザリモンド嬢の言葉に引っかかりを覚えて首を傾げた。
わたしも、ちょっと気になる話題だ。
「本拠地での話ですけど、世代代は早い方がいいと思われていましたが、それに否定的な方々もいらっしゃいました。賛派反対派――とでも言いましょうか? しかし、その反対派を押さえたのがアンドレ様だったんです。なんでも、當主は面倒だから息子に押し付けると堂々と宣言なさったとか。反対派が反対できないようにした――と思えば、悪い方ではないのかなと思いました」
その発言に、思わずわたしとミシェルは顔を見合わせた。
ミシェルはかなり微妙な顔をしてる。たぶん、わたしもだけど。
「……それ、反対派を抑え込んだって言うんですかね?」
「……さあ? でも、本人がやる気がなかったら、旦那様への世代代を反対できないわ。だってやりたくないって言ってる人を説得できなかったんでしょうし」
それに、考えようによっては自分に領主としての力量がないって分かっていたともいえる。だから有能な息子に當主の座を早々に渡そうとしていたと。
自分の能力を正當に評価できるというのは、難しいことだ。
ロザリモンド嬢の言う通り、本當に悪い人ならわたしの父親のように領地から搾取したと思う。
「領主になるときに反対がなかったというのは、旦那様もやりやすかったかもしれないわね」
リンドベルド公爵家は大規模な組織だ。
當然、旦那様に対して思うところがある人もいたはずだ。
そういう人たちからの反対を無視して強することもできたが、後々の禍を産むことにもなる。
しかし、今回の場合はどうしようもない理由での當主代だから、誰も旦那様の當主就任を邪魔できなかった。
邪魔されて、それに対抗するために派閥を形して立ち向かう――その手間がない分、楽に當主になれた。
息子のために自分が悪者になっておく、そう考えられなくもない。
「他にも、クロード様のやることには反対はしないですし、見守っていらっしゃるみたいですよ」
やっぱり、単純に自分がやりたくないから當主の座を旦那様に譲ったんじゃないかな?
今、すごく楽しそうに人生謳歌してそうだし。
そんな考えがちらりと浮かんだけど、そう思ったのはわたしだけじゃなかった。
ミシェルも同じことを思っていそうだ。
旦那様はアンドレ様の事を好いていないけど、基本的に真面目な旦那様にとって見たら、アンドレ様はあまりにも格が違い過ぎて苦手なだけなのかも……。
ちょっとそんな風にじた。
「ごほん……、それでは、クロード様の父上が悪い方ではないという事も含めて、みんなでアンドレ様の目的を話し合いましょうか!」
ミシェルが気を取り直して、當初の疑問に戻した。
初めの質問を忘れかけてたよ、ミシェル。
わたしはこっそり心の中で呟いた。
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