《【書籍化・コミカライズ】三食晝寢付き生活を約束してください、公爵様》11.旦那様とヴァンクーリ
前公爵の名前を本気で間違っていたので、全て直しています。
「まさか、考えるそぶりもなく斷られるとは思ってもいなかったな……、普通は王妃の言葉を聞けば、しは悩むものだが」
「申し訳ありませんが今の地位でも十分すぎますので」
そもそも、結婚したのは三食晝寢付きで墮落生活ができると思ったからだ。
実際、そういう話だった。
まあ、結婚當初から、かなりその生活からは遠ざかっていたけど。
だからこそ、王妃とか一番なりたくない地位だ。
絶対公務や社で忙しいのは分かっている。
わたしのむ生活からは最も遠い存在だと思っている。
しかし、ローデシー侯爵はわたしのきっぱり悩むそぶりも見せなかった答えに、逆に興味を惹かれたようだった。
「だが、クロードとの仲が上手くいっていないのなら、私にもまだつける隙がありそうだな」
「何をもってして、上手くいっていないと思うんですか?」
「上手くいっているいっていない以前に、結婚式の形態がおかしいだろう? リンドベルド公爵家の當主が隠れるように式を挙げるなど、明らかに何か隠していると思う。一何を隠しているのか分からなかったが、君を見た瞬間に分かったよ」
何がわかったというのだろうか。
わたしはローデシー侯爵が何を言おうとしているのかさっぱり分からなかった。
「クロードとはいわゆる本當の(・・・)夫婦じゃないだろう? 見ればわかるさ、それぐらいは。だからこそ、上手くいっていないもしくは、仮面夫婦なのかと思った」
一瞬、どきりと心臓が鳴った。
それは真実だし、今さら指摘されて驚くことでもない。
いつものように、違いますって顔すればいいのに、なぜか今は難しかった。
仮面夫婦――、それでいいと言ったのは旦那様の方だ。
最近は、それを解消したい旦那様との攻防が繰り広げられているが、今のところ現狀維持。
わたしの気持ちを優先してくれている。
橫暴なところもあるけど、優しい人だとも思う。
それが分かっていても、なかなか前に進めない。
人生経験が圧倒的に足りなさ過ぎて、どう前に進めればいいのかよく分からなかった。
わたしが困っていると、アンドレ様が何かに気づいたように微かに顔を上げ、肩をすくめた。
「どうやら、私は本気でクロードに殺されそうだ」
「ご自覚があるようで何よりです――……」
靜かな怒りに満ちた聲音。
それを聞くのは初めてじゃない。
過去に何度か聞いたことがあるが、今はそれよりももっと深く、ズシリとした重みがあった。
全員が聲がした方を振り向く。
というか、頭上から聞こえてきた聲に全員が上を向いた。
太が逆になっているせいで、まぶしくて目が開けられないが、その聲はまぎれもなく旦那様の聲で。
一どこにいるのか、と思っていると、巨がドスンと降ってきた。
そう、下りてきたというよりも降ってきたと言った方がいい。
「父上、お久しぶりです。皇國法では拐は重罪であると、ご理解いただけていますか?」
降ってきた巨は白いの。
すっとした鼻筋は、見覚えのある顔だ。
そのにまたがっていた旦那様は、さっと背から降りると、手に抱えていた何かを放り投げるように地面に置いた。
全員が、旦那様の突然の登場に唖然としていると、そんな大人の事など知らないと言わんばかりに、小さい丸々太った玉がわたしに向かって當たりしてきた。
「リヒト、それにレーツェル……、え、旦那様?」
「名前はどうした」
そこ、今突っ込むどころじゃないし!
全員が、さっぱり理解できていない狀況なんですけど!
旦那様はぐるりと周囲を見渡し、くくっと、とっても悪意ありそうな笑いを零した。
「なるほど、こんな風に國境を越えられると、進軍が楽そうだな。なにせ、こちらには移が大量だ。しかも、首都に繋がっているのなら、一気に中樞を叩ける。これほど楽な事もない」
旦那様がすっごい、怖いこと言ってます。
深紅の瞳もすっごい、怖い輝きです。
すでに、人一人殺してきていそうです。
「いつか來ると思っていたけど、早いんじゃないかな、クロード」
アンドレ様が諦めたように軽くため息をつく。
「遠回りせず、最短距離を進みましたので」
視線を向けるのは、山脈。
そして、レーツェルたちヴァンクーリ。
どうやら、彼らの先導でここまでやってきたらしい。
斷崖絶壁に近いところもあったはずでしょうに……。いや、確かにレーツェルはそうやって皇都にり込んできたんだけど。
それに、公爵領にいるヴァンクーリたちも似たようなものだ。
「人では難しい道も、彼らにとってはそうでもないようだな。驚くほどの運能力だ。普段、ゴロゴロ寢転がっているから、そうは見えないが」
わたしの周りに寢転がっているヴァンクーリを指摘する。
「一部、元気のいいものもいるが」
筆頭はまだまだ子供のリヒト。
わたしに當たりしてきたと思ったら、今度はミシェルにじゃれついて、ミシェルの手によって捕獲されていた。
「もともと彼らが大人しいのは知っていたが、そのせいで勘違いしそうだ。格が穏やかだと言っても、持っている能力がそうとは限らないと」
レーツェルの鼻先をでながら旦那様が言う。
ヴァンクーリの生態は謎に包まれているが、彼らの運量がかなりのものだというのは分かっている。
ごろごろしているようでも、荒野や山脈に生きるのだから、移するにしてもそれだけの力が必要になるのだ。
「乗り心地も案外悪くなかった」
「……普通は、ヴァンクーリにることもできないんだけど」
唖然としていたローデシー侯爵が、厳しい顔で旦那様を見據えた。
「大人しいものだったぞ? だが、この國が建國できた理由を理解した瞬間だったな。彼らの力は、國として脅威だ」
初代國王の王妃、リシェル王妃。
彼がヴァンクーリを使役していたため、國として建國できた。と旦那様は確信したらしい。
でも、わたしも今同じ事を考えていた。
「主要産業ではなく、軍事産業にも使えるか――、悪くないな。しかも、今はこの國の王ではなくリーシャに従っているのならなおさらだ」
いや、というか待って!
今まで考えていなかったけど、それってわたしがすごく危険な存在じゃない?
この國からしたらわたしは邪魔な存在だ。
しかも、今ヴァンクーリの使い道を旦那様が証明して見せた。
「まあ、リーシャを殺したとしても、すでに薄まったはそう簡単には戻らないだろう。新しい契約を結んでも、せいぜいこの國に戻ってくる程度だろうがな」
いや、他國のもめ事に參加したくないんですけど。
不可抗力ですよ、そもそも契約した覚えもないですし。
旦那様がわたしの前に出て、ローデシー侯爵の視線を遮る。
隣には、レーツェルが寄り添う。
「國王になりたいのなら、ぜひなってくれ。リシェル王妃のが薄まれば、こちらとしても大歓迎だ。ただし、自分の力でな。こちらとしては、ヴァンクーリをるこのは、他國に渡せない。そもそも、リーシャは私の正式な妻だ」
旦那様がきっぱりと言う。
「正式な、ね?」
ローデシー侯爵が旦那様に挑むように言った。
「果たして、正式と呼べるのかな? 結婚式もおざなりで、披宴もなし。正式に妻にしたにしては扱いが良くないように思うけど?」
ローデシー侯爵が言ったことは正論で、旦那様はどんな反応をするのか気になったが、彼はただ笑っただけだった。
「何がおかしい?」
「いや? 好きなと早く結婚したいと思った私の気持ちが、どうやら伝わっていないようだ」
その答えにわたしは、目を伏せた。
うん、旦那様は旦那様だったよ。
結婚設定は、健在だった。
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