《【書籍化・コミカライズ】三食晝寢付き生活を約束してください、公爵様》12.契約者
果たして、この中の面子で、一誰が結婚だったと言い張る旦那様を信じるだろうか。
ただ、わたしは旦那様の登場になからずほっとしていた。
そのおかげで、気持ちが落ち著いている。
旦那様には聞きたいことは々あったけど、今はそれより目の前の事だ。
「あの……、一つずっと気になっていたのですが、そもそも契約ってどういうことですか? わたしは全く記憶にないのですが」
二人の間で迫した空気が醸し出される中、わたしが尋ねた。
アンドレ様がの契約だのなんだの言っていたけど、そんな記憶全くない。
しかも、“長”との契約とか。
“長”ってどれの事? いっぱいいすぎて分からないけど、レーツェルの事かな?
「おそらくだが――……」
旦那様が顎をしゃくり、ミシェルが捕獲しているリヒトを示す。
「……噓ですよね?」
普通、界の長とか長老格というか、ボス? 的な存在って若い力のある者じゃないかなって思うのは、きっとわたしだけじゃないはず。
いや、リヒトは若くて子供らしく力が有り余っているけど、わたしが言いたいのはそういうことじゃない。
むしろレーツェルだって言われた方が納得するんだけど。
落ち著いてるし、頭がいいし、面倒見もいいし。
「ミシェルから、アレに噛みつかれたと聞いたが?」
「そうですね……、そういえばそんな事もありました」
「そのあと、傷を舐めてくれたとか?」
「だったような気がします……」
そのあと、なぜか急に大人しくなったのは間違いない。
「その時に、契約が変更されたんだろうね」
「ちょっと待ってください。そもそも、リヒトがそうだとしても、その前の“長”は一どうなったんですか? それにどうしてリヒトは連れ去られたんですか?」
ここで生まれて育てられていたのなら、周りにはヴァンクーリの大人たちがいっぱいいただろうに。
レーツェルだって、きっと目を離さないようにしていたはずだ。
「し前に、ヴァンクーリを狙った猟があったんだ。その時、何匹か犠牲になっている。その中の一人が、“長”だったんだよ。私たちは、ヴァンクーリの“長”がどうやって選ばれるか分からない。ただし、筋なのではないかと思っている」
見た目が似ているので、どの個がが繋がっているか分からないが、“長”が亡くなった時選ばれるのは、年齢に関係ないそうだ。
「リヒトが連れ去らわれたのは、その猟の最中だったんですね?」
「おそらくは。もともと、猟は絶えないんだ。金になる獣だからね」
それがどういう経緯か分からないけど、売られてしまったということだ。
出會ったときは薄汚れて、人に警戒していたリヒトの気持ちもわかる。
群れからさらわれたら、そりゃあ人に対して警戒もするよね。
「さて、結局ぺらぺら話してあげたけど、クロードはどうするつもり? 公表でもする?」
公表してもヴァンクーリと王室の関係を正確に理解する人はないと思う。
なにせ目に見えない契約だ。
むしろ、今時何言ってるんだって笑われて終わりだ。
こっちが馬鹿にされて終わる気がする。
おそらく、それが分かっているから話したのかもしれない。
ただし、まさかここまでヴァンクーリが言うことを聞くとは思っていなかったはずだ。
おかげで、ローデシー侯爵の立場がかなり悪くなる。
王家のを他國の人間にらしたのは國家反逆罪にもなるはずだ。
それが國の幹になる案件ならばなおさら。
そして、わたしの存在が余計にややこしくしてしまっている。
ヴァンクーリを悪用しようと思えば、悪用できてしまうからだ。
旦那様がどう判斷するのか、気になって、全員の視線を集めていた。
「……公表しても、今度はリーシャが危険になるだけだ。そっちが隠し通すのなら、こちらは公表しない。リーシャの存在も、公にはしないと約束してくれるならな」
「それはずいぶん遅いかもしれないね。王宮にった瞬間から、疑われているよ。命は保証されるだろうけど、今後あの手この手で引きれようとはするだろうね。こちらにとっては、それほど魅力的ななんだよ」
うん、ですよねぇ……。
わざとかな?
「君は、ただ古いだけのとでも思っているかもしれないけど。しかも、クロードがヴァンクーリと一緒なら山脈超え、他國にあっさり侵できると証明しちゃったからねぇ」
旦那様が、ヴァンクーリの価値をずいぶんと上げてしまったようだ。
「それに、君たち公式訪問する予定だっただろう? いつまでも隠すのは無理があると思うけど?」
忘れてた。
すっかり忘れていたけど、そういえばそうだった。
旦那様が目を閉じ、何やら考えだした。
しばしの沈黙の後、わたしを見下ろす。
「隠さない方が、むしろいいかもな……」
旦那様が呟く。
「リーシャがリシェル王妃に似ているのは仕方がないとしても、ヴァンクーリとの関係は全部否定するしかないな。それから、目の前の侯爵のように馬鹿なことを考える輩を増やさないために、一度正式にお披目しておこう。我が皇國でも、いまだにリーシャの顔を知らないものがいる」
まあ、そうだね。
だって社嫌いだし。
「無理ありすぎないか? 今この瞬間も、きっと見られているぞ?」
「そこで、迷料を払ってもらおう」
旦那様がローデシー侯爵に迫った。
「このヴァンクーリは、そこの國王陛下の庶子に反応してやってきてるということにしよう。リーシャが原因と言うよりは、そっちの方が理屈が通りやすい」
「……とんでもない事言うね」
「國王の座を狙っていたんだろう? こちらとしてもは薄めてもらった方がありがたいからな。國防の観點から言えば、獣をれるが濃いままでは困る。それに、正直公爵領だけで彼らを養うの事はできない」
あ、どっちも本音だろうけど、後半の方が本気っぽい。
確かに多いから、彼ら。
「それを言うなら、こっちだって非常に困る。が濃い人間がそっちにいるのは」
ですよね。
わたしだって同じこと思う。
旦那様もおそらく同じ事を考えているが、結局、信じてもらうしかないと口にした。
「リーシャのも次第に薄れていく予定だから、それは信じてもらうしかないな。なくとも、平和を自ら壊すことはない。今も昔もそうだったように」
「そういえば、皇國は昔から侵略戦爭はしてませんね……」
いつだってけだ。
攻められたから応戦するだけで、積極的に攻めることはない。
「それが(・・・)契約だからな」
出た。
また、契約だ。
「守ることに特化した力(・)なんだ、リンドベルド公爵家の契約は」
他國で話すようなことでもないので、詳しいことはまた今度、と旦那様が話を切り上げた。
「話を戻すが、リーシャに従うのなら、リーシャが彼らに命令すればこの國にもいてくれるんじゃないか?」
旦那様がわたしに疑問を投げかけるが、前提としてわたしはまったくわからない。
「どうでしょう? リヒト見てると、自由っぽいですけど。それに、わたしはいまだに半信半疑です」
確かに、レーツェルはわたしに従うそぶりはあるけど、だからといってそれが他のヴァンクーリに適応されるかは分からない。
それに、どうやって頼むのか知りたい。
「言っておくけど、私は知らないから。どうやって頼むのか」
頼りにならない答えが返ってきて、とりあえずレーツェルに頼んでいることにした。
リヒトに言うよりマシだと思ったから。
それに、レーツェルはリヒトの保護者みたいな存在なので、何か反応が返ってくるかもしれない。
「レーツェル、今の話聞いてた? この國に戻ってくるようにお願いできる?」
わたしが頼むと、レーツェルが頷くように頭が上下した。
レーツェルは基本的にわたしの話をよく聞いてくれて、願いも葉えてくれている。
すると、一聲高らかと天に遠吠えが響き渡った。
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