活報告にUPしていた番外編です。

ブックマークがはずれたまま復舊されていない方がいらっしゃるようですので、お手數ですがご確認頂けると嬉しいです。

またこの件につきまして、活報告（https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/456859/blogkey/2703034/

）でお知らせをしております。

マーガレット・ダドリーは、かつて「完璧な淑」と呼ばれていた。

先代王妃のであった彼は、ダドリー伯爵と結婚してからもを続け、長く仕えた。

信頼が篤かった彼は、現在の王妃への淑教育があまりうまくいかなかったことから、孫のエドワードの婚約者が決まったならば必ず淑教育を施してほしいと、先代王妃から直々に頼まれていた。

そうして引き合わされたマリアベルは、とても優秀な生徒だった。

あまりにもマリアベルの飲みこみが早いので々厳しくしすぎてしまったきらいはあったが、世継ぎのエドワードにし頼りのないところがあるので、それを補うためにも正しい教育であったと確信している。

これで王家も安泰。十年前に亡くなった先代王妃の志に報いることができると安心していた矢先に、突然エドワードがマリアベルとの婚約を破棄した。

しかも新しい婚約者は、平民の酒場の娘だ。

あまりのことに、話を聞いたダドリー夫人はその場で卒倒した。

そして目が覚めると、既に新しい婚約者の教育係に任命されてしまっていたのだ。

平民の娘のアネットは、マナーのなんたるかすら、まともに知らない娘だった。

生まれたばかりの赤子に教えたほうが、まだ早い。

しかもアネットはし厳しく注意するとすぐにエドワードに言いつける。

せめて婚約披の時までにはある程度のマナーをにつけさせようと努力しているダドリー夫人のほうが、悪者のように言われて責められる日々だ。

「アネット様、ちゃんと背筋をばして歩いてくださいませ」

「私、一生懸命やってるよ」

「やってるよ、ではなく、やっています、とおっしゃってください。これではいつまでたっても背筋を矯正できません。背中に差しをれておきましょう」

背筋を丸める癖のある子供にするように、ドレスの背中に長い差しをれようとしたダドリー夫人だが、アネットは大騒ぎをしてそれを拒否した。

騒ぎを聞きつけたエドワードがやってきて、涙を浮かべるアネットの姿にダドリー夫人を叱責する。

「アネットはまだ貴族社會に慣れていないのだ。もうしゆっくり教えてあげてくれないだろうか」

「お言葉ですが、ゆっくりなどしている暇はございません。婚約披の際に、最低限のマナーができていなければ、侮られるのは王家でございます」

「そこを何とかするのがそなたの役目であろう」

「本人にやる気がないのでは、どうしようもございません。マリアベル様であれば寢る間も惜しんで努力されたことでしょう」

「もうっ、何よ。マリアベルマリアベルって、馬鹿の一つ覚えみたいに言っちゃって。私はマリアベルじゃないんだから、できなくても仕方ないでしょ！」

ダドリー夫人は、ぐっとこみ上げる怒りを抑えた。

アネットは分かっていない。

完璧な淑と呼ばれたマリアベルの婚約者の地位を奪ったのだから、アネットはそれ以上に素晴らしいであることを外に示さなくてはいけないのだ。

普通ではいけない。ただ優れているだけでもいけない。

誰よりも飛びぬけて魅力的なでなければ、あのマリアベルと比べられたら見劣りしてしまう。

だからこそ、厳しい指導をしていたというのに……。

「ダドリー夫人。きっとあなたは疲れているのだ。し休養してはどうだろうか」

「殿下……」

それは、実質の解雇通告だ。

ダドリー夫人は、手の平を強く握りしめる。

先代王妃の言が……。

エドワードの婚約者を完璧な淑にするという約束が……。

もう、決して守れない。

ダドリー夫人は「分かりました」と頭を下げると、すぐに城を辭した。

城門をくぐって城を去る夫人は、最後に一度、城を振り返った。

白く輝いていた白亜の城は、いつの間にか灰がかってくすんで見えた。