《【二章開始】騎士好き聖は今日も幸せ【書籍化・コミカライズ決定】》29.ちょっと待ってください、今深呼吸します
その日の夜、食堂でリックさんの歓迎會が行われた。
そんなに大それたものではないけれど、私のときのように皆で食事をとって、ワインが開けられた。
その後も翌日休みの人が何人かと、リックさん、レオさん、ミルコさん、ヨティさん等が殘って、今もお酒を飲んでいる。
「皆さん、こちらよろしければ」
そんな場に、私は切り分けたチーズとナッツを大皿に乗せて持っていった。
「お! ありがとう、シベルちゃん!」
「さすが、気が利くねぇ」
「いいえ。皆さんとても楽しそうですね」
「シベルちゃんも一緒に飲む?」
「いえ、私は遠慮しておきます」
皆さん、もう既に結構酔っているご様子だ。
いつもより更に聲が大きくて、気で、とても楽しそう。
……私も皆さんに混ざりたい気持ちはあるけれど、見ているだけで十分楽しいです!
「え~? シベルちゃんも一緒に飲もうよ。ほら、俺の隣空いてるよ?」
「ヨティさん、隨分飲まれてますね」
「まだまだ! 酒が飲めなくて騎士が務まるかぁ!」
「まぁ」
いつも以上に気なヨティさんの頰は赤く染まっている。
王都ではこういう賑やかなお酒の場には遭遇する機會なんてなかったから、やっぱりいるだけでとても楽しい。しかも、この方たちは全員騎士なのだから、私にとってはまるで楽園。
「ヨティ。あまりシベルちゃんに絡むな」
「なんすか、団長、焼きもちっすか? とか言いながら、本當は団長が一番シベルちゃんと飲みたいんすよね~?」
「そ、そんなことはない!!」
レオさんとヨティさんって、本當に仲がいいのね。まるで兄弟みたいだわ。
「嫌がるに無理に酒を勧めるのはよくないと言っているんだ」
「シベルちゃんって、お酒嫌いなの?」
「嫌いというか……弱いので。皆さんにご迷をかけてしまっては大変ですからね」
ヨティさんからの質問には、淑らしく微笑んで答えておく。
「え? シベルちゃんお酒弱いんだ! へぇ~、可い。酔ってるシベルちゃん見たいっすよね、団長」
「ヨティ、いい加減シベルちゃんが困っているだろう」
「うふふふふ」
飲んでも構わないのだけど、私が酔ったら困るのは、たぶんヨティさんたちのほうですよ?
だってきっと、本を出して絡んでしまうから……。それでもいいですか?
「すまないね、シベルちゃん。こいつらに付き合っていたらいつまでも眠れないから、先に休んでくれ」
「ありがとうございます。では、空いたボトルを下げたらそうさせていただきますね」
レオさんのお気遣いに頷いて、テーブルの上に転がっている空のボトルを手に取る。
「いーや、俺のほうが強いに決まってる!」
「いやいや、俺ですよ」
「よーし! そんなに言うなら勝負だ!!」
けれど、またヨティさんの大きな聲が聞こえて、彼のほうを振り向く。
すると何やら、リックさんとテーブルを挾んで向かい合い、肘を突いて手を握り合う二人。
「……?」
途端に、周りにいた方々も二人を注目して盛り上がった。
一なにが始まるの?
「いいぞ! いけ!」
「頑張れヨティ! どうした、ほら! 押されてるぞ!」
肘を立てて握られた右手。捲られた袖。二人とも歯を食いしばっていて、腕に筋が浮いている。
まぁ……!
これは力比べね!!
「……っあーっ、くそ!!」
「ほら、やっぱり俺の勝ちですね」
やがて、ヨティさんの手の甲がテーブルにつき、勝敗は決した。
勝ったのはリックさんだ。
「もう一回だもう一回! 今はあまり力がれられなかったんすよ!」
「何度だって相手になりますよ」
「次は本気でいくからな、覚悟しろよ新人!」
負けたヨティさんは、ますます顔を赤くさせると、著ていたシャツを突然ガバッといでしまった。
「!!?」
「よーし、これで本気を出せる!」
ちょ……、ちょっと、ちょっと待ってください、ぐなんて聞いてません……!!
ヨティさんは騎士の中では細のほうだと思っていた。けれどとんでもない。思っていたより十分立派で、とても綺麗な筋がついている。
先日レオさんのを見てしまったときよりもっと近い距離であることに、私の顔は一瞬にして熱くなる。
「あら……シベル、大丈夫?」
「は、はい……」
揺と混で思わず顔を背けてしまった私に、同じようにこの場にいたエルガさんが歩み寄ってきてくれる。
……大丈夫じゃありません!!
心の準備もなく、突然それは……味しすぎます!!
ちょっと待ってください。今深呼吸してから、もう一度見ますから!!
辺りにはアルコールの匂いが漂っているし、それだけで酔ってしまいそう。
それに、にやけてしまいそうになる口元を堪えるのにも必死だ。もう、手で覆って隠してしまおう。
「おいおいおい、シベルちゃんがいるのに何をしているんだ。服を著ろ、ヨティ!」
そんな私の耳についたのは、溜め息じりのレオさんの聲。
「あ、シベルちゃん、ごめん」
へへへ、と笑っているヨティさんの聲に、私は手のひらで口元を覆いながらちらりと視線を上げる。
「すまないね、シベルちゃん。ここは男ばかりなものだから、どうも酒がると気が抜けてしまいがちで……」
「い、いいえ……! 私は大丈夫です!」
けれどまた、レオさんが溜め息じりに口を開いた。
ヨティさんはなにも悪くない。楽しいお酒の場なのだから、全然構わない。誰にも迷はかかっていないし、私だって大歓迎なのです……!
ただちょっと、心の準備が必要だっただけで。
「……エルガも、あとはいいよ。シベルちゃんを部屋に連れていってあげてくれ」
「はい」
「あ……」
まずは心を落ち著けましょう。そう思って深く息を吐いていたら、エルガさんに「いきましょう」と言われて、私は食堂から連れ出されてしまった。
最後にもう一度だけ……!
そう思って、ちらっとだけ振り返ったら、レオさんと目が合った。
「…………」
だからそのまま、すっと視線を前に戻す私。
……ヨティさんのをもう一度見ようとする、変なだと思われてしまったかしら……?
ああ……もう。を出すからよ、シベル。
「ごめんなさいね、貴は先に戻らせればよかったわ」
「いいえ。それより、エルガさんは平気なんですね」
レオさんもエルガさんも私のことばかり心配しているけれど、エルガさんだってまだ若いだ。
年齢は二十歳と言っていた。
「ええ。私はああいうことは慣れているから。でもシベルはまだここに來たばかりだものね。でも、これからもああいう場に遭遇してしまうことはあるかもしれないわ。あの人たち、結構自由だから」
「えっ……そうなんですか!?」
よくあることなんですか!!?
「ええ、気をつけるように言っておくわね」
「いえ!!」
「え?」
エルガさんのその言葉には、思わず思い切り否定してしまった。
「あ……その、私のせいで皆さんが窮屈な思いをしてしまうのは申し訳ないので、これまで通りで大丈夫です!」
「……でも」
「私が気をつけます!」
「……そう、貴って本當にいい子ね」
「う、うふふ、そんなことないですよ、うふふふ……」
にこりと優しく微笑むエルガさんの笑顔に、しだけ心が痛んだ。
腕相撲をするの巻。ヨティは細マッチョ。
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次回、レオ視點です。
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